香織は茂にお説教をすると言って、まっすぐ二階の書斎へ向かっていった。健吾が回復したばかりなのを考えて、杏奈がこう言った。「明日、私も病院について行くわ。ちゃんと全身検査をしてもらったら、安心できるし」健吾は彼女をなだめようとした。「そんな大げさなことじゃない。大丈夫だよ」杏奈は真剣な顔で、「これだけは、私の言うことを聞いてちょうだい」と言った。体がなによりも大事なのだから。彼女はもう二度と、健吾に何かあってほしくなかった。結局、健吾は杏奈に押し切られ、承諾した。彼女の腕から娘を受け取ると、ぷにぷにした我が子の顔を見つめ、健吾の胸に温かいものがこみ上げてきた。「来週はお食い初めだな。招待客のリストはできてるから、そろそろ招待状も出さないと」杏奈は健吾の隣に立つと、笑顔で彼に抱かれている娘をあやした。健吾に抱っこされた結愛は、ブドウみたいな大きな瞳をきょろきょろさせていた。杏奈があやすとキャッキャと声を立てて笑い、その可愛さに彼女はすっかりメロメロになってしまった。「招待状はもう出したわ。お兄さんたちが2日前に来てくれるって言うから、うちに泊まってもらおうと思うんだけど、いいかしら?」彼女は健吾に尋ねた。健吾は落ち着いた表情で言った。「あなたが俺の妻なんだから、いちいち俺に許可を求める必要はないよ」「そんなのだめよ」杏奈は反論した。「私たちは家族なんだから、何でも相談し合わないと。あなたも、これから何かあったらちゃんと私に相談してね」健吾は、杏奈が以前こっそり澪に会いに行った件で、自分に釘を刺しているのだとすぐに察した。彼は神妙な顔つきで、黙って頷いた。杏奈は、彼の予想外のことなほど素直な様子に、思わず笑みがこぼれた。……翌日。茂は香織に促されて会社へ向かった。一方、杏奈は健吾に付き添い、精密検査を受けるために病院へ向かった。骨の回復は順調だったが、杏奈が健吾のめまいの症状を伝えると、医師は脳のレントゲン検査を勧めた。健吾ははじめ乗り気ではなかったが、杏奈が強く求めるので、しぶしぶ検査に向かった。検査が終わると、先生はレントゲン写真を見つめ、その表情をこわばらせた。「橋本さん、以前に記憶を失ったことはありますか?それからこのめまいは、最近になって始まったものでしょうか
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