健吾は、一見すると無表情だった。でも、杏奈には彼の表情から何かを読み取ることができた。健吾は普段、両親に対しては平然とふるまっているけれど。でも本当は、彼が両親のことをとても大切に思っている。彼がご両親に一緒について来てほしくないのは、長旅で疲れさせたくないし、余計な心配をかけたくないからだ。本当に、親孝行な人だ。杏奈は不意に、健吾を抱きしめた。「ジェイス先生は腕がいいって、医学界では有名なんだから。手術、絶対にうまくいくよ」口ではそう言ったものの。杏奈は医者だったから分かっていた。手術に絶対はないし、たとえ失敗する確率が1%でも、軽く考えてはいけないのだ。健吾も、杏奈の不安を感じ取ったようだった。彼は杏奈の腰をぐっと引き寄せ、その腕の中に抱きしめた。杏奈の肩に顔をうずめ、安心させるような香りを吸い込んでいる。彼だって、本当は不安でたまらないはずだ。だけど手術の前に、家族や友達に悲しい顔を見せたくなかったんだろう。杏奈にだって、心配をかけたくないのだ。だから、彼は手術を受ける気になったんだ。たとえこれが最後の時間になったとしても、彼にとっては最高の思い出になるように。彼はもう、すべての手筈を整えていた。「分かってる。俺は大丈夫だ」健吾は、ネットで杏奈が母親失格だと叩かれているのを見てしまった。彼の顔はみるみるうちに険しくなり、頭から湯気が出そうなくらい怒っていた。「今すぐ手を打たせる」そう言うと、彼は部下に電話して指示を出そうとした。杏奈は彼の腕を掴んで止めた。「ちょっと待って。竜也のアカウントが動いてる。ライブ配信が始まったみたい」竜也はもう捕まってるはずなのに、どうして自分のアカウントを操作できるんだろう。健吾は杏奈に手を引かれ、隣に腰を下ろした。そして、二人でスマホの画面をのぞきこんだ。ライブ配信の画面には、浩の小さな姿が映っていた。まだ子供だからライブ配信なんて分かっていないようで、浩は配信が始まっていることに気づいていなかった。カメラの前で、ひとりでぶつぶつとつぶやいている。「できたかな……これ、どうすればいいの……」コメント欄が、ものすごい速さで流れ始めた。【かわいいお坊ちゃん】【もう始まってるよ。字は読めるかな?おばち
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