「あなたが作ったの?」健吾はうなずくと、椅子を引いて杏奈に座るよう促した。杏奈は素直に座り、箸をつけた。健吾は杏奈の隣に座り、首を傾げながら彼女の動きを見つめていた。その目には、どこか期待の色が浮かんでいた。杏奈は一口食べたが、表情は変わらなかった。健吾は緊張した面持ちで眉間にしわを寄せ、「どうした?もしかして、口に合わなかったか?」と尋ねた。彼は何度も試作して味見を重ねた。今までで一番のできだったはずだ。まさか、杏奈の好みではなかったのだろうか?もう一度作り直すべきか考えていると、杏奈がくるりと振り返って、笑顔で彼を見た。「おいしいよ」彼女の目には、いたずらっぽい輝きがあった。健吾は、杏奈がわざとからかっていたことにようやく気づいた。彼は仕方なさそうに彼女の頬をつまむ。その笑顔は、どこか甘やかだった。杏奈が彼に尋ねた。「あなたは食べないの?」健吾は首を横に振った。「もう済ませたんだ」試作している時、無駄にしないようにと失敗作を全部食べたせいで、まだお腹に残っているのだ。杏奈は笑って、エビを一つ箸でつまんで彼の口元へ運んだ。健吾も、それを拒まなかった。半分ほど食べたところで、杏奈はふと健吾に言った。「睦月さんの友達がジェイス先生を知ってるんだって。あなたに相談したいんだけど、M国へ手術を受けに行かない?」彼女の声はとても落ち着いていた。でも、健吾はその声色に、何か別のものを感じ取った。彼は、杏奈が表向きほど楽しそうには見えない、そんな気がしていた。何か、悩み事を抱えている。彼はうなずいて、「あなたの言う通りにしよう」と答えた。杏奈が話したくないのなら、彼も無理に聞き出そうとはしなかった。杏奈は黙って食べ終え、食器をキッチンへ運んで洗おうとすると、また健吾に止められた。「前の俺があなたをキッチンに立たせなかったんだ。今の俺が許すわけないだろ。俺がやる」健吾の態度は、少し強引だった。昔と同じように。杏奈は、キッチンに入っていく健吾の後ろ姿を見つめながら、目頭を熱くした。……睦月が杏奈からの電話を受けたのは、翌朝のことだった。杏奈の声はいつも通りだった。でも睦月は、その声の中にどこか距離を感じた。「睦月さん、健吾と相談して決めたの
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