薔薇園の中央に据えられた噴水の水音が、月明かりの下で静かに響いていた。貴族たちの夜会は華麗で、どの色よりも濃厚な香りをまとっていた。舞踏会ほど格式ばってはおらず、だがそれゆえに、軽やかな笑い声と、時おり交わされる刺すような視線が入り混じる。 その中で、ヒスイは息を潜めるように立っていた。 ――本当は、来たくなんてなかった。 家族の協力で「記憶喪失のようなもの」として説明はつけてある。けれど、人混みは苦手だ。そして何より、ここでは不用意な一言が命取りになる。 だが、レオンが「お嬢様の社交を再開される最初の場としては、穏当な夜会かと存じます」と穏やかな笑みで進言してきたとき、ヒスイは断りきれなかった。 “お嬢様と共にあること、それが私の務めです” その穏やかな声が耳に残ったままだったのだ。 ヒスイは胸に手を当て、そっと息を吸う。「……レオン、まだそばにいてくれる?」 視線を向けると、レオンは一礼しつつも、ヒスイの隣に寄り添う距離へと動いた。「もちろんでございます。少々人が多い場所ですから、離れるつもりはございません。&
Huling Na-update : 2025-11-19 Magbasa pa