この世界では、生まれた瞬間に「あなたは何転生目ですか?」と聞かれるのが当たり前だ。 転生してない人なんて、誰もいない――そう、誰も。……はずだった。でも私は、たぶんこの国でたったひとりの「例外」。 そう、無転生。 前世なんて、夢の中でも見たことがない。 みんなが“前の人生での経験”を話して盛り上がるたび、笑って合わせるのが私の特技になっていた。「ヒスイ、また“前世で風を操った”って言ってたな」 兄のフェルスパーが、にやにやしながら言った。 今日もお茶の時間から容赦がない。「う、うん! あの時は空飛ぶ魔獣と戦って――」 「土属性のくせに?」 「……」終わった。兄は楽しそうに笑ってカップを置く。 「そんなに焦らなくてもいいだろ。俺だって最初の転生の時は上手く思い出せなかった。」 「そ、そうなの?」 「嘘つけ」テーブルの端で母が紅茶を注ぎながら小さく笑う。 「ヒスイ、もう少し設定を練っておきなさい。貴族は“前世の話”で交渉することもあるのよ。」設定、ね。 ……これ、もう芝居だよね?その日の午後、私は兄と一緒に魔法の訓練をしていた。 「今日は防壁の練習な。土の魔法で構築してみろ」 「う、うん!」両手をかざして地面に意識を向ける。 足の下で何かが動く。温かい――?「……あれ?」次の瞬間、地面がぼこっと盛り上がり、庭がぐらりと揺れた。 石の柱があちこちから突き出して、兄が慌てて飛び退く。「おい!? ヒスイ、やめろ!」 「止まんない! 止まんないーっ!」轟音とともに地面が一斉に光り出し、咲き乱れる―― 淡い緑の結晶の花が、庭一面に。兄が目を見開く。 「……おまえ、今の、どんな魔法式で……?」 「わかんない……私、ただ防壁を……」そこに母が駆けつけた。 「何が――ヒスイ!? この魔力……!」 彼女の瞳が一瞬で真剣になる。「フェルスパー、ヒスイを押さえて!」 「わかった!」母が掌をかざし、淡い水の光がヒスイを包む。 それは、魔力測定の魔法。淡い光が一瞬だけ弾け、次の瞬間、母の顔色が変わった。「……転生の痕跡が、ない?」 「え?」 「そんな、あり得ない……」兄も黙り込む。 私は震える声で言った。 「お母さま、どういう……こと……?」母はゆっくりと私を見つめて、呟いた。「ヒスイ……あ
Last Updated : 2025-11-07 Read more