All Chapters of 転生してないのって私だけ?!- 無転生令嬢のヒミツ、バレたら人生終了!? -: Chapter 41 - Chapter 50

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第8章2節「黒手袋は微笑まない」

私は自然とレオンの袖をつかんでいた。黒手袋の視線が、私のその手を一瞥する。微笑みは一切ない。感情のゆらぎも一切ない。私の背筋が、氷の刃でなぞられたように冷たくなる。レオンが一歩、私の前へ出た。「本日の監査は正式な手続きを経ています。過度な接触や威圧行為は控えていただきたい」黒手袋が視線をレオンへ向ける。その目は無機質で、人を“対象”としか見ていない。「……王立監察局員が、私に指示を?」レオンは怯まない。「指示ではありません。確認です。彼女は僕が守るべき対象でもある」黒手袋は一瞬だけ沈黙し、そのあとゆっくりと笑った。しかしその笑みには、温度が一つもなかった。「……若いな。感情で任務を曲げるのは二流の証だ」レオンの拳が震える。怒りを押し殺しているのが分かる。私は袖を引く。「レオン……やめて……」彼は振り向き、少しだけ表情をゆるめる。「ヒスイ、大丈夫です。あなたのためなら、僕は退きません」レオン……そんなこと言われたら……。胸が締めつけられる。と、そのとき。フェルスパーが階段から降りてきた。兄さまの眼差しは鋭く、黒手袋を真っ直ぐ射抜く。「黒手袋。お前は昨日の“抜き打ち”の件をまだ謝罪していないな」廊下の空気がピリッと張りつめる。黒手袋は振り返りもせず、低く言う。「私は必要な監査を行っただけだ。陛下の命でもある」兄さまは鼻で笑う。「抜き打ちで妹を怯えさせておいて、『必要』で済むと思うなよ」黒手袋は視線だけ動かし、兄さまを見る。「……では本日の監査で、潔白を証明してもらおう」証明
last updateLast Updated : 2025-12-14
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第8章3節「深層へ沈む光」

黒手袋は冷たく告げる。「――では始めよう。辺境伯令嬢、魔力を見せてもらう」私の心臓がぎゅっと縮まる。レオンが一歩進み出る。「立ち会いは僕が務めます。ヒスイから離れないでもらいたい」黒手袋は無表情のまま頷いた。「好きにしろ。どの道、隠し事はこの場で全て露見する」その言葉に、私の指先が冷たくなる。震えが止まらない。レオンの声が静かに、でも深く私に届く。「ヒスイ、僕を見てください。大丈夫ですよ。僕はあなたを――絶対に渡しません」胸が熱くなる。涙がこぼれそうになる。同時に、監査場へ向かう扉が重く、ゆっくりと開いた。黒手袋。レオン。兄さま。そして、私。すべてが始まる。そして――私たちの運命が揺れ動く核心へ、足が自然と進んだ。レオンの背中を追うようにして、私は扉の奥の更に森の奥へ進んだ。夜気は冷え、しかし魔力の流れだけが妙に温かく脈打つ。異常な魔力の鼓動──それは、まるで誰かが助けを求める声のようだった。「レオン、これは……」「ええ。おそらく“魔力汚染”と呼ばれる類のものです。ここまで濃い反応は、本来あり得ません」紳士然とした口調の奥に、わずかな緊張が混じる。普段は決して感情を大きく見せることのないレオンでさえ眉根を寄せるほどの異常。木々の隙間を抜けた先、ぽっかりと開いた空間に魔法陣があった。淡い紫色の光がうねるように渦を巻き、地面の草を枯らし、空気すら震わせている。「……誰か、います」 ヒスイが囁くと同時に、魔法陣の中心で人影が崩れ落ちた。 それは──監査局の魔術官だった。 先日、ヒスイの魔力を正式に監査した、あの端正な顔立ちの青年。 その胸元は黒い魔力に侵食され、まるで闇に呑まれる寸前のように脈打っていた。
last updateLast Updated : 2025-12-15
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第8章4節「深層へ沈む光」

「レオン、あの人を助けないと……!」「助けます。ですが──ヒスイ、あなたの力が必要です」 レオンがヒスイの手を取る。 その瞳はいつになく真剣で、そしてどこか焦りすら滲ませていた。「この汚染は“内側から”浄化する必要があります。 私の力でも中心までは届かない。 ですが……あなたなら、到達できる」「わ、わたしが……?」「あなたは魔力を偽装していたようでいて、実際は……」 レオンはそっと微笑んだ。「どんな偽装の膜を通しても輝きを失わない、本物の光を持っている」 胸の奥が熱くなる。 怖いのに、それでも逃げたくない。 ヒスイは小さく頷いた。「やる。助けたい」「ええ──では、私と同調しましょう」 レオンがヒスイの手を包む。 その瞬間、魔力がふたりの間を穏やかに流れはじめる。 温かく、柔らかな光の波。 レオンが低く呟く。「ヒスイ……あなたの魔力は、私の予想を超えている。 きっと、この危機さえ乗り越えられる」 ふたりの光が交わり、魔法陣の中心へと伸びる。 そのとき── 汚染された魔術官の体が震え、苦悶の呻きが漏れた。「たす……け……」 ヒスイの足が勝手に前へ踏み出した。「行かないでください!」「レオン、わたし──行かなきゃ!」 結界の隙間から、ヒスイの光が伸びる。 まるで魔術官に応えるように、汚染された魔力が蠢き、ヒスイを飲み込もうとする。「ヒスイ!!」 レオンの叫びと同時に、闇と光が激突した。 紫の奔流、レオンの結界、ヒスイの光。 三つの力がぶつかり合い、空間が歪
last updateLast Updated : 2025-12-15
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第9章2節「局に潜む影、交錯する視線」

 王立監察局──。 王都でも屈指の厳格さと中立性を誇る場所。 石造りの塔は曇天の下で重々しくそびえ立ち、近づくだけで胸に圧力がかかるような気がした。 レオンはヒスイの横で、変わらず落ち着いた表情をしている。 それでも、彼の指先から伝わる力はいつもよりわずかに強く、ヒスイを守る意思がにじみ出ていた。「ヒスイ。何があっても、私のそばを離れないでください」「うん……」 局の扉が重く開く。 中には魔力の検知結界がいくつも張られており、ひとつひとつを通るたびに空気がわずかに震えた。 そのたびにヒスイの魔力偽装護符が、胸元でかすかに熱を持つ。 ばれていない……はず。 けれど緊張は、否応なしに高まっていく。「レオン殿。例の件について伺いましょう」 応対に現れたのは、監察局副長の ライオネル=クレイド。 レオンと親しいという噂もあり、実直な性格で知られる人物だ。 だが今日の彼の顔には、明らかに警戒と苛立ちが混じっていた。「レオン殿。あなたが“汚染の痕跡が意図的なもの”と言い切ったと聞きましたが……本当に確証が?」「はい。解析の詳細と魔術官の証言も揃っています。汚染は外部からの魔力干渉によるものと断定できます」「……では」ライオネルの視線がヒスイに向く。「彼女が狙われたと?」 鋭い視線。 その裏には“何が目的なのか”を探る思考がある。 ヒスイの喉がひりついたけれど、真正面から視線を受け止めた。「ヒスイさん。怖い思いをされたでしょうが……ひとつ、伺っていいでしょうか」 レオンがすぐに身を寄せる。「副長。ヒスイに対して過度な圧をかけるのは控えていただきたい」「申し訳ない。しかし、狙われた理由を突き止めるには、
last updateLast Updated : 2025-12-16
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第9章3節「沈む影、浮かぶ名」

 緊急会議室に通された瞬間、ヒスイは息をのみそうになった。 広い円卓の周囲には各部署の責任者が並び、全員が張りつめた表情で資料を睨めつけている。 空気は重く、冷たい鉄のようにひやりと肌にまとわりつく。 レオンは当然のようにヒスイの隣へ座り、さりげなく椅子の距離を詰めた。 誰からも守れるように、壁を背にし、視界の死角を作らない完璧な位置取りだった。「皆様。今回の闇魔法痕跡について、解析結果がまとまりました」 副長ライオネルが席に立ち、資料の束を広げる。 その瞳には普段以上の鋭さが宿り、周囲の空気が一層緊張する。「第一報でお伝えした通り、魔術官の寮室に侵入し、記録を消去しようとした形跡があります。そして──」 ページがめくられた。「検出された魔力は“闇”と判定されました」 どよめきが部屋を走る。 ヒスイも思わずレオンの袖をつかんでしまった。「闇魔法は魔族の専売だろう? 王都にどうやって……」「侵入したのかという証拠も、目撃もない……」「だが痕跡は確かに残っている」「まさか本当に、内部に魔族の協力者が──」 ざわめきが広がり、小さな会議室は一気に騒然とした空間になる。 そんな中、レオンだけは冷ややかな静けさをまとっていた。「副長、解析の続きがありますね?」「……ああ。最も重要な点だ」 ライオネルは深く息を吸い、言葉を慎重に選ぶように口を開いた。「痕跡の魔力は、複数名のものが混ざっています。その内のひとつは……“人間の魔力”と一致する」 部屋が静まり返った。「つまり」低く、誰ともなく漏れた声。「人間が……魔族と協力している……?」 レオンの目が鋭く光り
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9章4節「沈む影、浮かぶ名」

 ライオネルは次の資料を掲げた。「魔術官の部屋に残された“もう一つの痕跡”だ。こちらは組織的な関与を示す可能性が高い」「……組織?」 ヒスイが小さく呟くと、レオンがそっと手を握って返す。 ライオネルが重く頷く。「魔族の介入は単独ではない。そして、その協力者たちの目的は──“ヒスイ=リシャール嬢”。」 ヒスイの全身が、冷たいものに包まれた。「黒幕の組織は“純粋な魔力”の存在を知っている可能性がある。彼女を利用しようと、監査に紛れ込んだ……そう考えるべきだ」 ヒスイは震えた。 レオンはすぐに気づいて、手を包み込んだ。「ヒスイ、深呼吸を。大丈夫です。あなたはひとりではない」「……うん」 レオンが隣にいる、ただそれだけで呼吸が戻ってくる。 しかし恐怖は完全には消えない。 自分が狙われている理由が“力”そのもの──存在の根幹なのだと思い知ったから。 そして。「副長、少し気になることが」レオンが静かに言う。「今回使われた闇魔力の痕跡……魔族の中でも“かなり格の高い者”のものです。こちら側の事情に精通しており、人間側の監査制度をも把握している」「確かに、その可能性は高い」 ライオネルは新しい資料を差し出した。「そしてレオン殿──これはあなたにしか聞けない」「……何でしょう」「昨日、ヒスイ嬢と共鳴した際に感じた“光の質”。あれに似た魔力を、あなたは以前に覚えがありませんか?」 レオンの指が、ぴたりと止まった。 そして、ゆっくりとヒスイを見た。「……確かに、思い当たることがひ
last updateLast Updated : 2025-12-17
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第9章5節「追い詰められる光」

「王都内で闇魔力の反応が拡大──?」 局員の震える声が会議室に響いた瞬間、空気は凍りついた。 まるで部屋の温度が急に数度下がったような錯覚さえ覚える。 レオンは反応パネルを覗き込み、わずかに目を細めた。「……複数箇所。同時発生。これは偶然ではありません」「黒幕が動いたか……!」「副長、すぐに封鎖を──!」 怒号が飛び交う中、レオンは静かにヒスイの肩へ手を添えた。「ヒスイ。こちらへ」 その声は低く、落ち着いているのに、どこか焦りの影がある。「レオン……?」「ここは安全ではありません。すぐに、局内の隔離区画へ移動します」 レオンの手が熱い。 それだけで、ヒスイの足は自然と動き出した。 けれど──。「レオン殿、彼女を単独で連れていくのは……!」ライオネルが制止しかける。 レオンは振り返り、きっぱりと言い切った。「ヒスイを最も安全に導けるのは私です。 誰にも任せられません」 部屋が静まり返った。 言葉の端々に滲む“決意の強さ”が、誰の耳にもはっきり届いたからだ。 ライオネルは短く頷いた。「……わかった。責任は私が持つ。 彼女を頼む、レオン殿」「はい。命に代えても」 その言葉は重く、鋼のように強かった。 レオンはヒスイの手を握ったまま、局の奥へと続く廊下を素早く進んでいく。 外の騒がしさとは別に、ここはひどく静まり返っていた。「レオン……そんなに強く握ったら……」「申し訳ありません。ですが……少しでも離れてしまったら、あなたを見失いかねない」 紳士的な口調でありながら
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第9章6節「追い詰められる光」

 重い扉が開くと、厚い魔力結界が張り巡らされた無機質な部屋が現れた。 空気がぴんと張り詰めている。「ここなら、闇魔力の侵入は防げます」レオンは慎重に扉を閉め、複数の鍵をかけた。 ヒスイのためと分かっていても、閉ざされる音は胸に響いた。「……レオン、怖いよ」思わず漏れた声に、レオンはすぐそばに来た。「怖がらなくて大丈夫です、ヒスイ」レオンはヒスイの肩に手を置き、ゆっくりと抱き寄せた。「あなたが震えるなら、私はその理由をすべて断ち切ります。どうか……信じてください」 低い声が耳に直接触れ、体が震える。 彼の胸板は温かく、呼吸は落ち着いていて、まるでその温度だけがこの世界で唯一の安心のように感じられた。「レオン……私は……」「大丈夫。ここでは、あなたを傷つけるものは何ひとつ入れません」「……離れたくない」「離しません。どれほど危険が迫ろうと、決して」 腕の力が少し強まる。 その時──。 部屋の結界が微かに軋んだ。 ヒスイは息を飲み、レオンが即座に反応する。「……来ましたか」 冷たく鋭い声。 彼が完全に“監察局魔術官”としての顔に戻った。「ヒスイ、私の後ろへ」 ヒスイをかばうように前へ出て、魔力を展開するレオン。 結界の外側で、何かが蠢いている。 黒い靄のような、闇の塊のような──。「黒幕が、ヒスイの居場所を特定した可能性があります」 その言葉に、ヒスイの心臓が大きく跳ねた。 しかしレオンは微笑む。 強く、美しく、絶対に折れない意志の微笑み。「大丈夫です。あなたが恐れる必要はひとつもない。全部、私が──」 結
last updateLast Updated : 2025-12-18
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第9章7節「追い詰められる光」

ヒスイの胸の奥に、ずっと微かに疼いていた違和感が確信に変わった。局内の封印庫に漂う、灰色に濁った魔力。それは彼女の“生まれつきの魔力体質”と危険なほど相性が悪いものだった。(……この濁り……ただの封印残滓じゃない。人為的に“歪ませてある”。)レオンがヒスイの顔色を見て、小声で囁く。「ヒスイ……無理をしていないか?」「違うわ、レオン。ここ……私の魔力を刺激する“何か”がある。」レオンの表情が鋭くなる。「……黒幕の仕込みか。」部屋の隅──封印器具の影に、小さな“魔力の粒”が震えていた。それは、黒幕が残した未解除の“封印魔術の破片”。ヒスイが一歩近づいた瞬間、破片がまるで彼女を“狙っていた”かのように震え、急激に魔力を放ち始めた。「っ……!」熱が胸に押し寄せる。視界が揺れ、身体の奥に眠っていた潜在魔力が逆流を始める。(……まずい……抑えられない……!)レオンが咄嗟に彼女の腕を掴んだ。「ヒスイ、下がれ! 君の魔力体質が反応している──!」だがヒスイは動けなかった。“封印破片”が、ヒスイの魔力を引き金にして暴発を始めている。荒れ狂う魔力がヒスイを飲み込もうとしたその瞬間、レオンの魔力が風のように伸び、彼女の魔力へ触れた。「落ち着け。俺が抑える──ヒスイ、聞こえるか?」(……レオン……?)彼の魔力は穏やかで、深く、体内の嵐を吸い込むように安定させていく
last updateLast Updated : 2025-12-19
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