私は自然とレオンの袖をつかんでいた。黒手袋の視線が、私のその手を一瞥する。微笑みは一切ない。感情のゆらぎも一切ない。私の背筋が、氷の刃でなぞられたように冷たくなる。レオンが一歩、私の前へ出た。「本日の監査は正式な手続きを経ています。過度な接触や威圧行為は控えていただきたい」黒手袋が視線をレオンへ向ける。その目は無機質で、人を“対象”としか見ていない。「……王立監察局員が、私に指示を?」レオンは怯まない。「指示ではありません。確認です。彼女は僕が守るべき対象でもある」黒手袋は一瞬だけ沈黙し、そのあとゆっくりと笑った。しかしその笑みには、温度が一つもなかった。「……若いな。感情で任務を曲げるのは二流の証だ」レオンの拳が震える。怒りを押し殺しているのが分かる。私は袖を引く。「レオン……やめて……」彼は振り向き、少しだけ表情をゆるめる。「ヒスイ、大丈夫です。あなたのためなら、僕は退きません」レオン……そんなこと言われたら……。胸が締めつけられる。と、そのとき。フェルスパーが階段から降りてきた。兄さまの眼差しは鋭く、黒手袋を真っ直ぐ射抜く。「黒手袋。お前は昨日の“抜き打ち”の件をまだ謝罪していないな」廊下の空気がピリッと張りつめる。黒手袋は振り返りもせず、低く言う。「私は必要な監査を行っただけだ。陛下の命でもある」兄さまは鼻で笑う。「抜き打ちで妹を怯えさせておいて、『必要』で済むと思うなよ」黒手袋は視線だけ動かし、兄さまを見る。「……では本日の監査で、潔白を証明してもらおう」証明
Last Updated : 2025-12-14 Read more