七周年の日、樋口浩行(ひぐち ひろゆき)は急に接待が入ったから帰れないと言った。私はぼんやりと食卓いっぱいの料理を見つめながら、何気なく彼の女性部下のインスタを見てしまった。【うちの騎士さまに感謝。毎回の接待で私の代わりにお酒を飲んでくれて、まるでお姫様みたいに大事にしてくれるの。自分が寒くて仕方ないのに、無理してコートを私に着せてくれるなんて、なんて紳士なの。ご褒美に愛のキャンディを一本!】添えられた写真には、若い女性がキャンディを渡すときに二人の手が触れ合っている瞬間が写っている。私はその骨ばった手を呆然と見つめた。親指と人差し指の間のほくろが、浩行のものによく似ている。彼女が言う騎士さまは、まさか彼のことなの?しかし、私はすぐに、その馬鹿げた考えを否定した。十八歳のとき、私は大学の合格通知書を破り、浩行を大学に通わせるため、一日三つの仕事を掛け持ちしていた。二十二歳で彼が卒業すると、ひと月分の給料を全部使ってダイヤの指輪を買い、私にプロポーズしてくれた。彼は言った。「美奈、四年間お前が俺を養ってくれた。これからは一生、俺がお前を養う。これからは、お前だけを愛する」この何年もの間、彼は出世しても、自分を律してきた。秘書を雇うときも、必ず男性を指名していた。私は彼が女性部下と曖昧な関係になるはずがないと信じていた。だがその夜、浩行が帰ってきたとき、彼のコートからは知らない香水の匂いがした。彼の手の中には、写真と同じキャンディが握られている。……私は呆然と浩行を見つめた。彼はネクタイを緩め、ほんのり酔った様子で、魅力的な顔立ちが一層引き立っている。私が知っている姿なのに、突然、それがどこか見知らぬもののように感じられた。「何ぼーっとしてる?」浩行は無関心そうに私をちらりと見た。「酔い覚ましのスープは?」「……忘れた」これまで私は彼の世話を完璧にこなしてきた。接待がある日はいつも、特製の酔い覚ましスープを用意していた。しかし、唐沢遙香(からざわ はるか)のインスタを見て心が乱れ、準備を忘れていたのだ。「それを忘れるって?」浩行は眉をひそめた。「毎日家にいるのに、何してるんだ?」私は少しの間黙り、遙香のインスタを見せた。「忙しかったのよ。私の夫が、誰かの騎士さまになってい
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