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第4話

Auteur: イチイチニゴ
離婚を口にした瞬間、私は胸の奥がすうっと軽くなった。

遙香の目に一瞬、喜びが閃いたが、すぐに取り繕うように言った。

「美奈さん、本当に誤解です。私と樋口部長は何もありません。

昨日の投稿、もともと彼だけに見える設定だったのに、うっかりあなたも含めちゃって……

私たち、騎士と姫って呼び合ってるのは、ただ仕事のストレス解消の冗談なんです……」

一見、説明のように見えるが、話せば話すほど事態はますます悪化していく。

「そんなこと言う必要はない」浩行は確信したように言った。

「彼女は離婚なんてできないよ。あんな学歴で、何年も働いてない。離婚したらどうやって生きていく?」

彼の目は冷たく、刺すようだった。

「これから軽々しく離婚なんて言うな。後悔するのはお前のほうだ。この間、よく反省しろ」

そう言うと、彼は遙香を連れて店を出ていった。

その夜、彼は帰ってこなかった。

しばらくして、遙香のインスタが更新された。

【昼に西洋料理を食べ損ねて残念だったけど、夜はもっと素敵なサプライズがあった!騎士さま、本当に私のこと、大事にしてくれてる!】

ミシュランのフレンチレストランで、彼女はトマホークステーキを手に笑い、まるで勝者のようだった。

写真には、さりげなく浩行の手、横顔、背中が写り込んでいた……

彼にだけ見えるはずのインスタが、次々と私の目に入ってきた。

ついに、私は彼女がわざとやっているのだと確信した。

しかし、彼女が必死で奪おうとしている男を、私はもう要らない。

彼女の投稿をスクリーンショットで保存しながら、私は前回より落ち着いていた。

数日間、浩行は帰らなかった。

彼の世話を焼かなくていい分、私はたっぷり時間を手に入れた。

久しぶりに履歴書を送って仕事を探してみたが、返ってくるのは保険の営業や宅配の募集ばかりで、その他からは音沙汰がない。

その瞬間、私は後悔した。

あのとき、自分の未来を賭けて、一人の男の愛と約束を信じたことを後悔した。

だが、愛なんて、結局は良心でつながっているものだ。良心が痛まなくなったとき、私はもう、何ももらえなくなる。

物思いにふけっていると、浩行から電話がかかってきた。

「午後に美容とメイクの予約を入れた。店の場所は後で送る。今夜の会社の忘年会、お前も家族として出席しろ」

私は、なぜ彼が破天荒に自ら好意を示したのかを探ろうともせず、ただ冷たく拒絶した。「行かない」

離婚を決めたあの日から、私はもう彼の付属品ではない。

電話の向こうで、彼が少し間を置いて説明した。

「お前が怒ってるのは、俺を気にしてる証拠だ。だからこそ、今夜はちゃんと協力してくれ。

副社長は家の事情で地位が危うい。俺がその席を取れるかどうか、今夜にかかってるんだ。俺が副社長になったら……」

浩行のその後の言葉は、私は耳に入らなかった。結局のところ、ただの、何の保証もない約束に過ぎなかったのだ。

私はただ、副社長である篠田夢乃(しのだ ゆめの)のことに引っかかった。

浩行と彼女は、ずっと折り合いが悪かった。

仕事上の競争だけでなく、以前の忘年会でも、彼女は私に将来の計画があるかどうかを尋ねてきたことがある。

すると浩行は強い口調で言った。「うちの妻の人生計画は、俺だ」

事後、彼は夢乃が他人の家庭の幸せを許せず、夫婦関係を引き裂こうとしていると言っていた。

今振り返ると、私は彼に巧みに操られていることに気づかず、真の善意を拒んでしまっていた。

夢乃の家庭の事情も、彼の口から何度か聞いたことがある。

ふと、私は気づいた。彼女の窮地、もしかすると私なら解決できるかもしれない。

そして、それによって私自身も仕事のチャンスを手に入れられるだろう。

私は夢乃の連絡先を見つけ、自ら進んで売り込みをした。

彼女は驚いた声で言った。「旦那さん、許すの?」

私はそっと口を開いたが、声には確かな力がこもっていた。「これから私がすることに、彼の許可はいらないわ」

「そう。ありがとう。いつから来られる?」

「今夜から」

電話を切ると、私は手早く荷物をまとめた。そして、離婚協議書を印刷して署名し、机の上に置いた。

浩行が署名してくれればそれでいい。しなくても、婚姻関係の破綻を示せば離婚訴訟ができる。

玄関を出ようとしたとき、スマホが鳴った。

浩行からのメッセージだ。

【出発したか?今夜は大事な場だ。絶対に遅れるな】

確かにだ。私は返信した。【出発した】

しかし、彼がいる会場とは真逆の方向へ歩き出した。

浩行に頼らず、まったく新しい生活へと歩み出したのだ。
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