南風家での一件から一ヶ月が経過した昨今。巷では『とあるシンデレラストーリー』が話題となっている。 『平民血筋の男爵令息』と『病弱な侯爵令嬢』との恋物語だ。 とある有名大学の構内で二人は出逢った。 病弱ゆえに学校に行けなかった穴を埋められる、優秀な家庭教師を紹介してもらいに来ていた深窓の令嬢と、かたや現役の大学生。お互いの名前もわからず、声を交わす機会もない中、視線だけが構内でぶつかった。そんな出会いに二度目はないかに思えたが、兄の付き添いで参加した星澤家主催の夜会で『侯爵令嬢』と『男爵令息』は再会。この偶然に感謝しつつ、勇気を出して令嬢側からダンスに誘い、一曲分という短い時間の中で二人は互いの“想い”を確信。侯爵令嬢側から男爵令息に婚約を申し込み、まずは家庭教師と生徒という関係から愛を育む事に……。——とまぁ、かなり要約するとそんな感じの、『嘘』と『事実』と『これからの予定』を織り交ぜ、恋愛的要素を盛りに盛ったこの物語性の強い『噂話』は南風家側がそっと流したものだ。 こんな『噂話』をわざわざ流す羽目になったのは、全て、剣家の当主とその三人の実子達のせいである。 南風家当主の妹である『南風アルカナ』と『剣叶糸』が結婚する事が剣家側の義家族の意見をガン無視したまま決まり、善は急げと南風家の当主であるアルサから婚約の申し込みを打診したのだが……何を勘違いしたのか、剣家側からは『喜んで三人の息子を連れて近々挨拶に行く。きちんと話し合いましょう』と返事が来たからだ。 こちらからは確かに『剣叶糸を』とハッキリしっかり名指しして申し込んだのだが、どうも話が通じていない気がする。悪い予感がするからと、下手な事をされる前に外堀を埋めておこうという考えで流した噂らしい。『そこまでするか?』とも思うが、情報を流す手間も全てアルサ達が引き受けてくれているのでまぁいいか。念には念を入れておいた方がいいのは間違いないから。(実態はどうであれ、叶糸に相思相愛との噂がある相手がいるとなれば、流石に北尾スリエの射程外にもなれるだろうしな) ——ちなみに、私が不用意に夜会を騒がせてしまった星澤家とは、婚約者のいない令嬢であれば、御縁を探す為にデビュタント前であっても保護者同伴であれば夜会に参加可能である事を利用し、話を合わせてもらったそうだ。『私』も参加すると大々的に公表していなか
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