All Chapters of 時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜: Chapter 11 - Chapter 20

53 Chapters

第11話「義理堅い猫人族ミュリナ」

 広場に戻った時、ミュリナは息も絶え絶えだった。  顔は腫れ、衣服は破れ、片腕は力なく垂れ下がっている。  だが、もう片方の腕には、盗まれたセリュオスたちの荷物が抱えられていた。「ほら……ボクが……取り返して来てやったにゃ……」  どさりと荷袋を置くと、ミュリナはその場に膝をついた。  セリュオスは目を見開き、慌てて駆け寄る。「ミュリナ! お前、こんなに……傷だらけじゃないか!」 「ふん……おみゃあらが……だらしないから……ボクが代わりに行って来ただけにゃ……」  そう言ってミュリナは無理に笑おうとするが、咳と共に血が滲んでいた。「こりゃ、たいした根性だ……!」  ダルクが唸り声を上げた。  フィオラはすぐさま膝をつき、そっと彼女の肩を支える。「どうして……こんな無茶を……」  フィオラが治癒の魔法で必死にミュリナの傷を手当てしていると、彼女はふいに顔を背けた。「……勘違いすんにゃよ。ボクは別におみゃあらを助けたわけじゃない」 「え……?」  フィオラが目を瞬かせる。「ボクは……ただ、恩を返しただけにゃ。前にご飯を分けてもらったろ? あれが……気に入らなかったのにゃ。借りっぱなしにゃんて、ボクの流儀に反するのにゃ」  ミュリナは腫れた頬を気にしながら、ぼそりと吐き出した。  セリュオスは一瞬きょとんとした後、ふっと笑った。「猫の割に、ずいぶん義理堅いんだな」 「う、うるさいにゃ」  ミュリナは頬を赤く染めながらそっぽを向いた。  ダルクは腹を抱えて笑い、フィオラは呆れ半分で「可愛いところもあるのね」と微笑んだ。  その場の空気が、不思議と和らいだような気がした。 やがてミュリナの治療が終わると、彼女はフィオラに感謝を伝えてまた一人になった。  それも彼女の選択であり、セリュオスは後を追うようなことはしなかった。 それから三人は聖都を発ったその夜、街道沿いの林で野営をすることにした。  聖都より先は荒野が広がり、旅は一層厳しくなるだろう。 今までのような豊かな緑はこれで見納めになるかもしれない。  火を囲んで食事を終えたあと、セリュオスが見張りを決めるために口を開く。「今夜は三交代にしよう。最初は俺が立つ。次はフィオラ、最後にダルクだな」
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第12話「四人の戦い」

 乾き切った荒野の道を四人は慎重に進んでいた。  吹き込む風が砂を巻き上げ、視界は揺れる。「……にしても、荒野って本当に味気ない場所だにゃ」  ミュリナがぼそりと呟く。  セリュオスはやや離れた場所を歩いている。  その隣にはフィオラが並び、もう少しで肩が触れそうな距離に見えた。「味気ないとしても、油断は禁物だぞ」 「セリュオスの言うとおり、荒野ではどんな魔物が出るかわからないわよ」  フィオラは前方を見据えつつ補足する。「まあ、オレはこういう荒れ地のほうが好みだなァ。木々に囲まれたような場所よりも、戦う時は開けた場所のほうが俺にも合ってるしよ」  ダルクは足元の砂を蹴飛ばしながら、ぶつぶつと呟く。「……ダルクは相変わらずね」  フィオラが横目でダルクを見て、小さく笑う。  その隣のセリュオスも笑っていた。「……おみゃあら、本当に仲良しだにゃ……」  ミュリナは少し眠そうに目を細め、三人を観察していた。「なあ、ミュリナ。どうやって俺がフィオラとダルクを仲間にしたのか、聞いてみたいか?」  セリュオスが少し声を張って口を開いた。「ふふん。まあ暇だし、おみゃあがどうしても面白い話をしたいって言うなら、聞いてやってもいいにゃ」  ミュリナが尻尾を揺らしながら答える。  その反応を見る限り、まんざらでもなさそうだ。「……まず、フィオラとは森で出会ったんだ。彼女が熊型のデカい魔物に襲われているところに出くわして、俺が力を貸して二人でその魔物を倒したんだ。それなのに、フィオラと来たら本当に頑固で全然その事実を認めようとしなくてなぁ」  セリュオスはフィオラと出会った日のことを思い出しながら語る。「ちょ、ちょっと! あの時は別にあなたに助けられたわけじゃないでしょう! たまたまタイミングが合っただけで……! それに、森で迷っていたのはどこの誰だったかしら!?」  だが、すぐにセリュオスの横にいたフィオラが大慌てで訂正する。  そうやって否定しつつも、セリュオスとフィオラの肩は触れ合いを見せていた。「でも、助け合ううちに互いに認め合った。最初は行き先が同じだけだと言っていたのに、今では大事な旅の仲間になっている」  セリュオスは横目でフィオラを見る。  彼女も少し頬を赤らめて、目
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第13話「四天将アベリオン」

 乾き切った大地の上を、風が唸りを上げながら駆け抜けていく。  砂粒が無数の刃のように空へと跳ね上がり、茶色の世界を覆い隠す。  視界の外は薄黄色の靄に包まれ、遠くの岩影すら捉えることはできない。 魔王軍の四天将アベリオンと対峙したセリュオスの間には緊張が走っていた。「お前たちは離れてくれ」  セリュオスの指示でフィオラ、ダルク、ミュリナの三人は少し離れた場所でアベリオンが引き連れていた魔王軍の一団と刃を交えることになった。  鉄と鉄がぶつかり合う音がこだまして、無数の魔法が荒野に光を齎す。「断轟破ッ!」  すると、先陣を切ったダルクの斧から迸る衝撃波が敵兵を薙ぎ倒していき、砂煙を巻き上げた。   「ふふんっ♪ 次はボクの番だにゃ!」  鼻歌混じりで縦横無尽に戦場を駆けるのはミュリナだ。 「影猫乱爪にゃッ!」  ミュリナの俊敏な影が地を走り、両手に持つ短剣が複数の敵の鎧の隙間に狙いを定めて切り裂いていく。    あっという間に攻撃を終えたミュリナは鮮やかに後方へと飛び退いた。 「これくらいなら余裕だにゃ!」 「早くセリュオスと合流しないと!」 「嬢ちゃん、わかってるぜェ!」 フィオラの声に合わせ、ダルクの斧が振るわれ、迫る魔王軍の兵士たちを次々に薙ぎ払っていく。  ミュリナが駆け回り、フィオラが魔法を放ち、戦場は混沌と化していた。 そんな激闘がおこなわれている最中──。  セリュオスと対峙していたアベリオンがようやく口を開いた。「貴様が、勇者セリュオスだな」 「……ああ、そうだ」 「勇者と戦えることができるなんて、私は幸運だ……」 剣を構えながら、セリュオスは目の前の男の姿に眉を寄せた。  魔王軍の鎧をその身に纏ってはいるが、魔族らしい角も牙もない。  それはまるで――。「アベリオン。お前はまさか、人間なのか……?」 「……貴様らに語ることはない。ただ、ここで果てよ」 アベリオンは静かに言い放った。  その声はひどく冷たく、切なさを感じさせるようなものだった。  そして、アベリオンは槍をゆっくりと構え直す。「……
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第14話「アベリオンという男」

 荒野に剣戟の甲高い音が響き続けている。  その音の発生源となった衝撃のもとで、どれだけの土砂が飛び散っただろうか。 セリュオスの剣とアベリオンの槍が幾度となく火花を散らし、地面には数々の抉られた跡が刻まれていた。  セリュオスがアベリオンに苦戦しているのは、誰が見ても明らかだった。「……でも、どうしたら、セリュオスが迷わずに戦うことができると言うの……」  フィオラは胸元で弓を握り締め、声を震わせた。  彼女の瞳には、攻め切ることができずに膠着しているセリュオスとアベリオンの姿が映っている。「おい、フィオラ」  隣で立ち上がったダルクがぼそりと声を掛ける。 「お前さんが後ろで震えてたら、あいつはもっと迷っちまうんじゃねえか? そんなんじゃ、坊主だって負けちまうかもしれないぞ?」「ダルク……」 「ダルクの言うとおりだにゃ」  ミュリナも腕を組み、フィオラに顔を向けている。「セリュオスが本気を出せないのは、おみゃあが傍にいないからにゃ。……本当に信じられる仲間が傍にいれば、アイツはきっと誰よりも強くなるヤツだと思うのにゃ」 「ミュリナ……」 フィオラは大きく息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した。  すると、手の震えが収まり、その目には決意が宿ったように見える。「そう、だよ……! 私がセリュオスを信じてあげなくて、どうすんだって話だよね!」  ようやく覚悟を決めたフィオラは弓を背中に戻し、セリュオスのもとに向かって駆け出した。「やれやれ、やっと嬢ちゃんもやる気になったか……」 「まったく手のかかるヤツらだにゃ」 「お前さん、まだ若い割に古株みてえなこと言うんだな……」  ダルクはミュリナを見て瞠目していた。「ほら、ぼさっとしてにゃいで、残りを片付けるにゃ!」 「お、おう……」  二人は温かくフィオラを見送ってから、魔王軍残党との戦いに戻るのだった。「セリュオス! 私があなたを支えるから! 一緒に、アベリオンを倒そう!」  聞き馴染みのある声が響いた瞬間、セリュオスの瞳が揺れた。「……フィオラ……。……ああ! 俺たちでアベリオンと戦おう」  そうだ、自分は一人じゃない。  守るためなら、アベリオンが人間であろうと戦わら
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第15話「突入前夜」

 そこは黒い雲が空を覆い、月の光も僅かにしか届かないような場所だった。  不気味に聳え立つ魔王城の尖塔が遠くに見えている。  冷たい風が吹き抜け、乾いた砂がセリュオスの顔に当たった。 そんな不穏な空気の中、五人は小さな野営地を築いて焚き火を囲んでいた。  ついに、明日に魔王城突入の日を控えていたのだ。 セリュオスたちにとっては火の暖かさだけが唯一の慰めであり、今夜が静かな夜になることを祈ることしかできなかった。  揺れる火を見つめながら、セリュオスがそっと口を開く。「やっとここまで来たな……。みんな、無事にここまで来れて良かった」  フィオラは焚き火に背を預け、静かに夜空を見上げている。 「私たちが魔王に負けそうな雰囲気を出すのはやめてほしいけど、もう後戻りはできないわよ……。あとは前に進むだけ」「すまん、そういうつもりではなかったんだがな……」  セリュオスは頬を掻いた。  その横でダルクは大きく溜息をつき、腕を組んで笑っていた。「まさか、オレたち五人だけで来ちまうとは思ってなかったなァ。少人数ってのも悪くはねえけどよ、こうして同じ火を囲めるわけだし。……明日はオレたち、どうなっちまうんだろうな……」  いつも陽気なダルクでさえ、今だけは弱気になっているように見えた。 ミュリナは猫のような目を細めて、ぼんやりと焚き火を見つめながら口を開いた。 「にゃあ、セリュオス。次の魚は、いつ食べれるのにゃ……?」  それを聞いたダルクが大きな声で笑い飛ばす。 「最後の晩餐かもしれないってのに、お前さんは次の飯の心配かよ! どこまで気楽なんだァ!」「それだけ不安なのかもしれないな……」 「不安、かにゃ……?」  アベリオンがミュリナに同情を示したが、ミュリナはその首を傾げていた。 セリュオスは苦笑しながら、火の傍で静かに座ったままのフィオラの方を見た。 「フィオラ……。俺がどうなっても、お前は必ず仲間たちと城を出るんだ。俺は……たとえ命を犠牲にしてでも魔王を討つ。これは俺の願いなんだ。お前たちには生き延びて、必ず幸せになってほしい」  フィオラは一瞬息を呑み、目を伏せたまま答える。 「……わ、わかってる……。でも、そんな
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第16話「魔王エレージア」

 灰色の雲が垂れ込める空の下、五人は荒涼とした大地を進み、魔王城の影が徐々にその姿を現し始めた。  その城壁は高く、巨大な門は閉ざされているものの、その威圧感は圧倒的だった。「……魔王城だな」  セリュオスがこれまでの旅路を思い出しながら呟いた。  短いようで長い旅だった。 村を出てから広大な森を抜け、高い山を越え、街道をひたすら歩き、荒野を抜けて、深い谷を越えて、ここまで来た。  この仲間たちと出会わなければ、ここまで辿り着けなかったかもしれない。 ダルクは斧を肩にかけ、城壁を睨んでいる。 「まあ何つーか、思ったより静かだな。明らかに見張りも少ないし……いや、これってまさか何か意図があるんじゃねえか?」 フィオラは一切警戒を解かず、矢筒に手をかけている。 「魔王は何を考えているの? 見張りを減らしていいことなんて何もないのに……」 「おみゃあらはちゃんと下がってろにゃ」  いつの間にか罠を探知する逞しくなっていたミュリナは、しなやかに身を屈めながら先頭を歩き、通路に罠がないか確認しながら言った。 アベリオンは少し後ろに下がり、肩に力を入れる。 「私は……万が一の盾役だ。何かあった時は頼ってくれて構わない。魔王さまはそれだけ強大なお方である」 「本当に盾みたいに堅いヤツだな」 「違えねえや」  ダルクはそう言って笑いつつも警戒は怠らない。「これで開くんじゃないか?」 「セリュオス! また勝手なことを……!」  フィオラの制止を聞かずにセリュオスはレバーを手前に引いてしまった。  すると、巨大な門が地響きを上げながら開いていく。「別に開いたんだから、いいだろう?」  セリュオスの無神経な言動に呆れながら五人が城内に踏み入ると、外と同様に見張りの数は少なく、通常なら四方を固めているはずの兵士が、あえて絞られていることが明らかだった。「まさか……、オレたちを誘き寄せるためにわざと減らしているとでも言うのか?」  ダルクが低く呟く。  セリュオスは皆の背中を見渡し、短く頷いた。「いや、気を抜くな……。どこから襲撃があるかわかったもんじゃない」 「誰もいないのにゃ……」  俺が言った直後にそれを言うなと思うセリュオ
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第17話「勇者と魔王」

「……女だからって、容赦はしないっ!」  果敢に先陣を切ったセリュオスがその剣を全力で振り被る。  だが、魔王はセリュオスの剣を闇の力を纏ったその手で軽々と受け止めていた。「っ……!」  セリュオスは剣を握り締めて全力で押し込もうとするが、魔王はびくともしない。 「ほら、遠慮してないで全員でかかって来なさい」「くっ……ここで諦めるわけにはいかないわ! 《スピラ・ヴェンティ》ッ!」  フィオラは最初から油断することなく、風を纏う矢を解き放った。  しかし、魔王の黒い魔力の渦が矢の軌道を歪めてしまう。  弓から放たれた螺旋の矢は直前で勢いを失い、あっけなく床に叩きつけられた。「断轟破ぁぁああ‼」  ダルクは怒りを滲ませて、ありったけの力で斧を振るった。  断轟破の衝撃で辺りの石柱は砕かれ、そのまま魔王にも勢いよく迫っていくが、玉座の周囲に張られた魔力の結界が衝撃波を打ち消していた。「な……なんだよ、この力は……!」  ダルクが叫びが虚しく響く。 「力だけは立派だと思うわ」「次はボクがっ! 影猫乱爪にゃっ!!」  ミュリナは俊敏な身のこなしで魔王に接近し、両手の短剣で斬りかかる。  だが、魔王の魔力の波に弾かれ、攻撃は空を切った。  彼女は素早く後退し、次の機会を狙っている。 「あなたはずいぶん俊敏な動きをするのね……」「黒槍・奈落穿葬ぉぉ‼」  そして、ついにアベリオンも攻撃に加わった。  黒く燃えるような闇の槍撃が魔王に迫る。  しかし、魔王は目の前に魔力の盾を作り上げ、アベリオンの奥義すらも難なく受け止めてしまった。「四天将の力程度、私に効くと思っているの?」  セリュオスたちの攻撃は魔王の余裕の笑みを崩すことができない。「私が待ち侘びていた勇者パーティーの力がこの程度だったなんて……」  次の瞬間、魔王の指先から黒い光線が放たれる。  それは最も魔王の近くにいたセリュオスの肩を掠めた。「ぐっ……!」  後方ではアベリオンが盾を構え、何とか魔力の光線から仲間たちを守ることができたが、セリュオスだけは庇うことができな
last updateLast Updated : 2025-11-13
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登場人物紹介①

◆現代世界(アルスヴェリア) ●セリュオス  辺境リオネルディアの村出身の人間。  義父はオルフェン、義母はセリナ。  勇者として覚醒してから魔王討伐の旅に出た。●フィオラ  エルフの女性で、弓と魔法のどちらも扱うサポーターである。  竪琴を弾いている時間が彼女にとっての安らぎ。  イヴェリナとクイラという妹分とエルフの仲間たちを救い出すため、セリュオスに同行した。●ダルク  ドワーフのおっさんで、怪力で巨大な斧を振るう戦士である。  酒と旨い飯には目がない。  実はフィオラも認めるほどに歌が上手い。  ドワーフの誇りである鉱山を取り返すため、セリュオスに同行を願い出た。●ミュリナ  猫人族の少女で、その俊敏な動きで二つの短剣を扱う盗賊である。  特に魚が大好物で、意外に義理堅いやつである。  魔王との因縁というよりも、居心地の良さが決めてとなってセリュオスに同行することを決めた。●アベリオン  最後に勇者パーティーに加わった槍使い。  元は神官職だったらしいが、魔王軍に入ってから闇に染まってしまった。  王国に故郷を焼かれたことで人間を信じ切れなくなっていたが、セリュオスたちの光に心を打たれて同行することを決めた。●エレージア  七つの心臓を過去の文明に置いて来たため、現代では不滅の存在となった最強の魔王。  勇者パーティーを試すような奇々怪々な言動を取り、混乱させる。  その見た目は女性ではあるが、圧倒的な実力の持ち主である。
last updateLast Updated : 2025-11-13
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第18話「ネクロラド」

 岩が崩れる轟音とともに、セリュオスは暗闇に放り込まれた。 「ぅぐっ……!」  背中を打ちつけ、肺の奥から苦しい息が漏れる。 目を開けても視界は真っ暗で、何も見えない。  ただ湿った土と鉱物のような鉄臭い匂いだけが鼻を突いた。「ここは、どこだ……?」  わかったことと言えば、そこが地上ではないことだった。  冷たい湿気と圧迫感が身体を包み込む。 それからセリュオスは、とにかく光を探した。  ぼんやりと薄く明るい場所を見つけて歩いていくと、セリュオスはその光景に思わず息を呑んだ。  そこは見渡す限りの土壁の中で、空に浮かぶ太陽は存在しなかった。 ただ青白く光る鉱石と湖に浮かぶ微かな光だけが、その世界を淡く照らし出していた。  青白い光が闇を照らすと、ようやく広大な空間の輪郭が浮かび上がってきた。「……ネクロラドへ、ようこそ」  セリュオスの背後から聞いたことのある声がした。  振り返ると、そこには半透明の女性が浮かんでいた。  淡い光に包まれ、現実離れしたその姿は幽霊のようでもあり、天使のようにも見えた。「……まさか、お前は、エレージアか?」  セリュオスが驚きの声を上げる。  目の前に浮かんでいるのは、魔王城で見た彼女そのものだったのだ。「よく私だと気づいたわね」 「いや、待ってくれ。なんでさっきまで魔王城にいたはずのお前が俺と一緒に過去に来ているんだ? 本当にここは過去であっているんだよな? そうすると、お前は魔王の命を奪われないように邪魔でもするつもりで来たのか?」 セリュオスはエレージアの行動が全く理解できず、まくし立てるように質問した。  何のために彼女が自分の目の前に現れたのか、警戒心だけが強まっていく。「私があなたの邪魔をすることはないわ。決してあなたに危害は加えない。魔王城にいた仲間たちもちゃんと無事だから、心配はいらないわ」  彼女の白い髪は青い光を反射して銀色に輝き、瞳は深く澄んでいて、どこか冷たくも穏やかな光を湛えていた。「それは良かったと安心したいところなんだが、なぜ俺の前に現れたんだ?」 「なんでって。退屈してた、から……?」  彼女は淡々と告げた。  その声は静寂の中で、微かに反響する。「なぜ疑問形なんだ……」 「私は
last updateLast Updated : 2025-11-18
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第19話「囚われの勇者」

「このバカが魔王の手先とは思えないな」  タヌキ族の女戦士が冷たく吐き捨てるように言った。  セリュオスは顔を顰めたまま腹を押さえ、地面に膝をついた。「くっ……。だから、最初から魔王の手先じゃないと、言っているじゃないか……!」 「お前の言葉なんか、信じられるか……!」  キツネ族の青年が目を細め、その手に剣を持って威嚇していた。  ネズミ族の少年も、恐る恐るだがセリュオスに鉄の刃を向けていた。 辺りの空気がぴんと張り詰める。  光る鉱石の青白さの中、彼らの瞳が獣のように光り、セリュオスの全身を射抜いた。「……待ちなさい」  そこでエレージアが、ふわりと一歩前へ出た。  半透明の身体が揺らぎ、淡い光が彼女を取り巻く。「このバカは魔王の手先じゃない。見てわからないの? むしろ、こんな真っ暗な世界で迷子になった上に腹痛になった、ただのバカな人間よ」 「……ただの人間?」  女戦士が眉を顰める。「人間と言われても、その肌の血色、この下層では見たことがない……。中層から来たと言われたほうがしっくりくるな」 「どう見ても怪しすぎるぞ!」  声を荒げているのはキツネ族の男だ。「どうせ魔王と通じていて、ここにスパイとして送り込まれたんだろう!」  タヌキ族の女戦士の圧がとにかく強かった。  フィオラとはまた違って強気で豪胆な女性だ。  セリュオスは汗を流しながら、それでも必死に声を振り絞る。「ち、違う……俺は……別の世界、から……」  だが、言葉が途切れてしまう。  腹痛が未だにセリュオスを苦しめ、立ち上がることすらできない。「お前が潔白だと言うのなら、今ここで証明してみせろ」  タヌキ族の女戦士が冷徹に言い放ち、刃をセリュオスの首元に当てた。 その瞬間――奥の通路から、重い足音が響いた。  石を踏みしめる規則正しい音。  彼らの仲間がやって来たのだ。 現れたのは、大柄なトカゲのような男だった。  鱗のような肌は鉱石の光を反射して鈍く光り、腕は岩のように太い。「……何の騒ぎだ」  その声は低く、洞窟の壁に反響して震えるように聞こえる。 「ヴァルディル!」  タヌキ族の女戦士が男の名前を叫んだ。「この男です。魔王の手先じゃなくて、ネクロフィッシュでお腹を痛めただけだと言い張ってい
last updateLast Updated : 2025-11-18
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