All Chapters of 時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜: Chapter 51 - Chapter 53

53 Chapters

第50話「昔と今」

 魔王城の地下闘技場――その空間全体が勇者と魔王の異様な圧力を帯びて、震えていた。  天井の高いアーチ状の梁に、微かに光る蛍晶鉱石が並び、空気は静寂と緊張に満ちていた。  覚醒したセリュオスの聖剣がその胸の前で輝き、仲間たちの力を宿した光を放っている。「この短時間で目覚ましい成長を見せてくれた。それでこそ、勇者であろう……」  オルデリウスが歩みを進め、セリュオスと向かい合う。  その男は全身から圧倒的な存在感を放ちながら、微笑んでいた。  魔王の目には、この瞬間を楽しみにしていたという期待の光が宿っている。「待たせすぎ!」 「あなた、大して何もしてなかったじゃない……」  なぜか、偉そうな態度を取っているルキシアナにツッコミを入れたのはエレージアだ。「ウチはちゃんとゼルフ3号に指示出してましたー! ねえ!」  ルキシアナは悪びれることもなく、魔王の力を押さえていたであろうエレージアに渡り合おうとする。  とは言っても、指示を出していたからとして、彼女が何もしていなかったという事実は変わらないと思うのだが。「ゼルフ3号が戦えるのは、マスターのおかげであります!」 「ほらぁ!」 「機械に気を遣わせるなんて、悲しくないの?」  エレージアがかなり辛辣なことを言っている気がしたが、セリュオスは気にしないことにした。「手加減してくれていたとはいえ、魔王の力は強大だったぞ」  手加減ということは、魔王もセリュオスの覚醒を待つ間の退屈凌ぎくらいに考えていたのだろうか。「すまない、本当に助かった……」 「礼なら、すべてを終らわせてから聞かせてもらおうか」  そう告げるヴァルディルの顔にも疲労の色が濃くなっている。  それだけ、セリュオスが覚醒するのを待って、魔王と戦っていてくれたということだ。「わかってる。みんな、ここからが本番だっ!!」 「今こそ死力を尽くそう!」 「魔王を倒すわよ」 「ウチらに任せなさい!」 「ゼルフ3号、本気モードに移行するであります!」  セリュオスが声を張り上げると、四人が返事をしながら、魔王に突っ込んでいく。 まずは、ゼルフ3号が前衛となって魔王の動きを牽制し始めた。  縦横無尽に飛び回る機械の軌道が、オルデリ
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第51話「第一の魔王」

 闘技場に立つ五人と一人。  五人はセリュオスたち勇者パーティ。  そして、残るもう一人は魔王オルデリウスだ。  エレージアの魔法で縛られたまま、未だにそれを解くことができないでいる。 そんな中、魔王に近づく影が一つあった。  対魔王用の兵器を携えて歩くその姿は、ゼルフ3号のものだ。 だが、オルデリウスは一切の恐怖も焦りも見せることなく、むしろようやくこの時を迎えられると満足そうな表情をしている。「マスター、合図をお願いするであります」 「ええ、ゼルフ3号。間違いなく、アンタの力だけじゃ魔王に止めを刺すことができない……。でも、アンタの開いた突破口はセリュオスが通る道になる……!」 「承知しているであります」  ルキシアナはゼルフの覚悟を聞き届け、ついに気持ちを固めたようだ。「3……」  ルキシアナが口ずさむカウントに合わせて、ヴァルディルが静かに頷く。「2……」  エレージアは優しく微笑みながら、魔王の姿を見つめている。「1……」  セリュオスは仲間の力をすべて込めた聖剣を構えて、その瞬間を待っていた。「……いっけぇぇええええええ!! ――対魔王用殲滅砲ゼルフ・キャノンMK-Ⅲ! ファイナルゥゥ、グレエエエドォォォッォォ!!!――」  闘技場にルキシアナの怒号が響いた。  それと同時に、ゼルフ3号の胸から一条の光が放たれる。 かつて中層でドヴォルグラスを焼き払ったそれは、ルキシアナがさらに改良を加えることで、威力は桁違いになっていた。  閃光が魔王の身体を完全に覆い隠し、遥か彼方まで光は伸びていく。 そして、眩い光が落ち着くと、そこに残されたのは魔王としての威容が見る影もなくなったオルデリウスだった。 「これが……、人の、到達点か……」 その声には深い響きがあり、同時に喜びが混じっているように見える。  オルデリウスの身体はすでにボロボロになっているはずだが、その意識はまだ残っているようだ。「オルデリウス……」 「どうした、勇者よ……? 早く、我に止めを……、刺すのだ」 痛ましい見た目に関わらず、喜びに満ちたような表情になっていることがセリュオスにはやはり理解できなかった。「これから、お前の望んだ世界ができあがる。それは魔王の犠牲の上で、創られた新た
last updateLast Updated : 2025-11-26
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第52話「緑多き世界と新たな世界へ」

 オルデリウスの観測所のガラス窓から見上げる樹海は、広大で美しい未知の世界だった。  しかし、まだその領域に人類が踏み出していい土地に変わっているのかどうか、セリュオスにはわからなかった。「……もうそろそろ、人が住めるようになっている頃合いかしら……」  ルキシアナは胸を高鳴らせているように見えたが、それとは対称的にやや慎重な様子だった。「一つ一つ、外の状況を確認してみるしかないんじゃないか?」 「それなら、ゼルフ3号が確認して来るであります!」  セリュオスが提案した途端、ルキシアナの後ろから魔王討伐の立役者がひょこっと顔を出した。「そうね。ゼルフ3号に外の環境の安全性を測定してもらうのが一番か……」 「――バビュン!」  とゼルフ3号は颯爽と古びた昇降機に乗り込み、外の世界へと飛び出していく。  ゼルフ3号は外の世界を飛び回り、入念にその情報を集めて回っているのが、ガラス窓ごしに見て取れた。 すると、ゼルフ3号が収集した空気の温度や湿度、毒性等を示す数値がルキシアナの手元の端末に表示されていく。  それを後ろから覗き込み、セリュオスとエレージアも緊張の面持ちで数値を確認する。「うん……空気の浄化は十分に進んでいるみたい。毒素はもうゼロになってる。これなら、ウチらも安心して外に出られるわね」  ルキシアナがゼルフ3号と同期した端末を見ながら言った。 セリュオスが外を見ると、ゼルフ3号の羽ばたきは力強く、樹海の間を縫うように進んでいる。 「ですが、まだ小さな確認しかできていないであります。植物も芽吹いていますが、ここに人が住むとなると、水と安定的な食事を用意するのが不安要素であります」 その瞬間、セリュオスは驚愕した。  ルキシアナが持つ端末から聞こえた声は、ゼルフ3号のものだったのだ。 どうやら遠隔で音声が届くようになっているらしい。  ルキシアナは真剣な表情で返答する。「ウチがネクロラドで造った種子があるから食事のほうは問題ないとして、あとは水問題を解決すれば居住環境として十分に安定するはずね」 「……むむっ! 水の流れる音を検知したであります!」 「今すぐどこにあるか報告して! それは支流かもしれない。もしも広い河川が見つかれば、現状気になっている問題はすべて解決
last updateLast Updated : 2025-11-26
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