All Chapters of 時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜: Chapter 41 - Chapter 50

53 Chapters

第40話「別れと旅立ち」

 夜の中央広場は、ルキシアナ製巡回機械が放つ光がその平和を示すように揺らめいていた。  上層に繋がる新たな道が完成し、セリュオスは魔王と戦うために前を向かなければいけないにも関わらず、その心は迷っていた。 昇降機を修理した後、ルキシアナが暴れ出してしまったので、ゼルフとエレージアが何とか押さえつけて、一度彼女の研究室に戻ることになったのだ。  どこからその知らせを聞きつけたのか、途中すれ違ったオリヴァンもそのまま研究室にやって来ていた。  暗い雰囲気が漂う中、ルキシアナが俯くセリュオスの前に立ちはだかる。「今さらウチを連れて行くのは危険だぁ!? アンタもゼルフ3号の凄さを思い知ったんじゃないの! この子がいれば、ウチらは魔王討伐の切り札になるって言ってんでしょうがぁっ!」 「……魔王は、君が知っているほど甘くない」  それはセリュオスの本心だった。  遠い未来でフィオラたちと共に挑んだエレージアとの戦闘は想像を絶するものだったのだ。 この地底世界の魔王オルデリウスの実力を知っているわけではないが、おそらくエレージアと同様に他を寄せ付けない強大な力を持っているに違いない。「それなら、なおのことウチを連れて行くべきでしょ! アンタ一人でどうするって言うのよ!」 「俺には、エレージアがいる」 「セリュオスさん……」 セリュオスは頑なに同行を認めず、オリヴァンは不安そうに見つめるだけ。  エレージアはその輪を離れて知らん顔をしている。  そうは言いつつも、彼女は何かを試しているような、待っているような様子にも見えた。「ねえ、セリュオス! ウチはアンタと一緒に上層に行きたい! どんな危険が待ち受けているとしても、魔王を倒せるのはウチと勇者だけよ!」  強情なセリュオスを説得するために、ルキシアナはとにかく必死だった。  顔を真っ赤にしながらセリュオスに迫る。「ゼルフ3号も、魔王オルデリウスを打倒するために造られたのであります。その役目を果たさずに、どうしろと言うのでありますか!」  ルキシアナを援護するように、ゼルフ3号も言葉を重ねる。 「……」  だが、セリュオスは言葉を失っていた。 上層はネクロラドを統べる魔王オルデリウスの居城がある場所であり、これまで経験してきたどんな場所
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第41話「運命の巡り合わせ」

 昇降機が灰色の岩壁を抜けると、ようやくセリュオスたちは上層世界へと足を踏み入れた。  セリュオスは無意識に目を見開き、息を呑んだ。 中層の光溢れる街並みや、祭りの喧噪を知っているからこそ、眼前に広がる光景の落差が信じられなかった。 そこにあったのは、整然とした建物群でも、煌びやかな文明の象徴でもない。  広大な空洞と石材を利用した質素な居住地だ。 岩を方形に削り、その石材を組み上げただけの簡素な住居が並び、その中央にはひときわ大きな影を落とす建物――だが、それですら石を積み上げただけの質素な造りで、威厳よりも寂寥を思わせる城だった。「……これが、上層……なのか?」  セリュオスは思わず呟いた。  もっと輝かしい世界を想像していたのだ。 魔王が支配する領域であれば、むしろ中層以上の技術や力が結集し、恐ろしくも発展した大都市のような場所が広がっているはずだと思っていた。  しかし現実は、中層の雑踏よりも静かで、むしろ雰囲気は下層に近く、後れを取っているようにしか見えなかった。「中層より……ずっと、発展していない……。いや……発展を拒んでいるのか?」  セリュオスは足を止め、眉を顰めて呟く。  その問いは誰に向けたものでもなかったが、隣を歩いていたエレージアの瞳が僅かに揺れた。「なんでこんな原始的な暮らしをしてんのよ!? こんなのおかしいでしょ!? 中層から上層にウチの発明は伝わってるはずじゃん! その発明品が一切見当たらないなんておかしい! それを受け入れるだけで、もっと便利で、楽しい生活ができるのに! オルデリウスって実はバカなの!?」 「……」 烈火の如くまくし立てるルキシアナの言葉に、エレージアは言葉を失う。  彼女は戸惑いを示すように視線を落とす。  それから、微かな声で応じた。「……そう考えるのは、早計かもしれないわ……。魔王――オルデリウスには、何か目的があるのだと思う」 「目的……?」  セリュオスは振り返り、彼女を見据える。「自らは豊かな発展を拒み、下層の民をこの質素な暮らしに縛り付ける……それが魔王の目的だって言うのか? それとも……別の狙いがあるのか?」  問いかけるセリュオスの声音には、苛立ちと焦
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第42話「魔王オルデリウス」

 魔王城から離れた岩陰の辺りで一行は立ち止まった。  上層の空気は魔王が近くにいるからなのか、中層までとは違った重々しさを纏っていた。 セリュオスは剣の柄を握り、心を落ち着かせる。  エレージアは静かに周囲を見渡している。  ルキシアナがあちこちを見回してブツブツと呟いており、それを横目にヴァルディルが作戦の説明を始める。「まず、この魔王城についてだが、正面の門は基本的に施錠されている。内部に侵入する場合、施錠を破壊して強行突破するか、城内の警備を攪乱して裏口から侵入するかの二択になる」 「裏口から侵入するほうが安全だが、その場合は攪乱するために先行するメンバーが必要ということだな?」 「セリュオスの言うとおりだ」 ルキシアナは腕を組んで、やや興奮気味に会話に混ざってきた。 「警備を混乱させればいいのね! それなら、ウチのゼルフ3号がやってくれるわ!」 「ゼルフ3号に任せろであります」 だが、ヴァルディルは疑うようにルキシアナたちを見た。 「このしゃべる機械を、本当に信用していいのか?」  初めて出会った者を信じられないのは仕方のないことだろう。「ああ、ゼルフとルキシアナは信頼できる。俺が保証させてもらう」 「セリュオスが信じられると言うなら従うまでだが、裏口は監視魔物の巡回がある。甘く見れば一瞬で囲まれるぞ。無理は禁物だと約束してくれ」 「魔王と戦うのがゼルフ3号の使命ゆえ、道中で無理はしないであります」 ゼルフ3号は深く頷いた。  そのはっきりとした物言いは頼もしい限りである。「というわけだ。俺たちも魔王と戦うまでは体力を温存し、まずは状況を見極めることにしよう。警備の数や魔物の種類もすでにわかっていることがあれば共有してくれ」 すると、ネズミの少年フィルが手書きの地図を広げ、指差しながら説明してくれる。 「この広間が主殿と呼ばれてて、その奥には魔王がいる執務室があるはずなんだ。そこの防御が最も強固だから、セリュオスじゃないと強行突破はできないと思う。それ以外は僕たちネラフィムが支援するよ」 ルキシアナは荷袋から球状の物を取り出しながら、声を上げる。 「魔王もここまでの集団から襲撃を受けるとは思ってないでしょうね。早くその驚く顔が見てみたいわ
last updateLast Updated : 2025-11-23
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第43話「世界の成り立ち」

 城内の空気は異様な静けさに満ちていた。  広間の中央で魔王オルデリウスは悠然と椅子に腰掛け、薄く笑みを浮かべている。 その姿は、威圧ではなく優雅さを伴った異質な存在感を放っていた。  目の前のセリュオスたちはもちろんだが、ネラフィムの戦士たちも息を呑んだ。「……このまま話を聞くべきか、それとも――」  ヴァルディルが小さく息を吐きながら、手元の槍を握り締めている。 セリュオスからしてみれば、彼らがここで止まるような者たちには思えなかった。  魔王を討伐するために来たのに、そこに用意された椅子に座るはずがない。「否! 我々は戦うために、ここまでやって来たのだ!」  ヴァルディルが叫んだのを合図に、ネラフィムの仲間たちが一斉に魔王に襲い掛かろうと動き出す。  幾つもの足音が床を響かせ、剣や槍がきらりと光る。  ――しかし、その瞬間だった。 魔王の瞳が四方を見渡すと、空気がまるで波紋のように揺れ、奇妙な感覚が一帯を包み込んだ。  その途端、手を伸ばして攻撃しようとしたネラフィムたちの動きが、まるで後ろから糸に引かれたように鈍くなる。 ヴァルディルも前傾姿勢で踏み込んでいたが、身体が突然重くなったように動かなくなった。  強大な重力によって床に押し付けられるような圧力をセリュオスも感じていた。「……な、なんだ……この力は……?」  ヴァルディルの声は突然未知の力と遭遇したような呆然とした響きを帯びていた。  ネラフィムたちも次々と動きが止まり、床に座り込むように勢いを奪われる。 誰一人として攻撃を完遂できない。  剣を振ろうとした腕は思うように上がらず、まるで身体の動きが勝手に制御されているかのように見えた。「……どうか、座ってくれたまえ」  魔王オルデリウスの低く、優雅な声が広間に響く。  その一言と共に、ネラフィムの戦士たちの身体が宙に浮き上がった。 まるで磁力に引かれるように、彼らは椅子に座らされていた。  ヴァルディルだけはそれを必死に耐えていたが、最後はその巨体でさえもその力のされるがままになっていた。 セリュオスは目の前の光景に目を見張った。  ネラフィムの仲間たちが抵抗することもできずに、魔王の言葉どおり座らされていたのだ。  その静かでありながら
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第44話「天才発明家と魔王」

 魔王オルデリウスは椅子に深く腰掛け、視線を宙に泳がせたまま静かに語り始めた。 「さて、お主らが知りたいのは、この地中世界だけではなく、外の世界のことであろう? ……だが、外の世界に出てしまえば、人の身では一刻も生き延びることはできぬ」  セリュオスは目を見開き、ルキシアナも思わず前のめりになる。「生き延びることはできない、ですって……?」  ルキシアナの声には半信半疑が混じる。「それって、噂に聞く『呼吸できずに死ぬ』っていう話でしょ?」 「ゼルフ3号に呼吸は不要であります!」  ゼルフの主張は正直どうかと思うが、セリュオスもその話は聞いたことがあった。「外に出ると死ぬの?」 「そんな噂があるんだってさ」 「でも、一度くらいは外に出てみたいよな……」 ネラフィムの者たちが囁き合っている。  彼らにとって、外の世界とは夢のような世界なのかもしれない。  あくまで魔王を打倒することが彼らの目的なのだから。 すると、オルデリウスはゆっくりと頷いた。 「ああ、そのとおりだ。ネクロラドを覆う大地の外は、もはや生物が耐えられる環境ではない。大気は猛烈な熱を帯び、湿度は高く、木々や草といった緑は一片たりとも存在してしない。生物が呼吸することは叶わず、熱に耐えきれず、その命は容易く奪われることになるだろう」 ルキシアナは魔王を睨みつけ、拳を握る。 「な、何よ、それ! そんなデマにウチらが騙されるわけないじゃない! この目で見ない限り、ウチは信じない!」 「マスターに同意! 証拠を見せろであります!」 「ほう。信じない、とな?」  オルデリウスは低く、落ち着いた声で笑みを浮かべた。「そう思うのも自然なことだ。かつて我もその噂を信じず、無謀にも外の世界へ挑んだことがある……」  オルデリウスが袖をまくり、その腕を見せる。  それは熱で爛れたように皮膚が変色していた。「っ……!」  ネラフィムの者たちはその事実を直視することができずに目を背ける。「その腕は……! 外の熱で!?」 「そうだ。我は魔王だったからか、呼吸ができずとも辛うじて生き延びることができたが、それ以外の者たちはそこで皆、息絶えた……」  そこで失った仲間たちを想うように魔王
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第45話「ネラフィムのリーダー、ヴァルディルという男」

 魔王城の広間では宴の喧騒が消え、蛍晶鉱石のランタンの灯りだけが静かに揺れている。 「はぁ……」  セリュオスは一泊するために用意されていた部屋の窓際に立ち、外の闇を見つめたまま小さく息を吐いた。  隣にはエレージアが静かに座り、ルキシアナは作業台の前でゼルフ3号の最終調整に没頭している。「……ジア」  しばらくしてから、セリュオスは口を開いた。 「オルデリウスが言っていたこと、外の世界のこと……あれは本当なんだよな? 肌を焼いてしまうくらい、大気は熱くなっていて……。人が出たら呼吸できずに死ぬって、……あの話は噂なんかじゃなくて、事実なんだな……?」「魔王の言葉だから信じられない?」 「信じられないと言い切れたら、もっと楽だったかもしれない……」  そう言えないからこそ、セリュオスは迷っていた。 すると、エレージアは静かに頷く。 「セリュオス、オルデリウスが言ったことはすべて本当のことよ。外の世界は本当に過酷で、普通の人間が出たら生き延びることはできない。そして、オルデリウスが犠牲になれば、世界を変えられるというのもまた真実」 セリュオスは目を伏せ、その手を握り締める。  脳裏には勇者としての使命が思い浮かぶ。 「俺は……勇者としてオルデリウスを討たなければならないんだな……」 「ええ、そのとおりよ。七人の魔王を討った後に私を討つのがあなたの使命……」 エレージアはセリュオスの肩にそっと手を置き、真剣な目で見つめる。 「オルデリウスは自らの命を懸けて人を外の世界に旅立たせようとしている。それを可能にするためには、勇者が聖剣で討たなければならないの……。あなたの持つ勇者の力だけが、彼の望みを叶えてあげられる」 ルキシアナは作業の手を止めて、二人の方をちらりと見やる。 「ルキシアナが造ったゼルフ3号では、それは不可能だわ……」  黙ったまま、ルキシアナが目で訴えかけてきた。  不可能と言われたことが気に障ったらしい。「力及ばずであります……」  勝手に落ち込んでいるゼルフ3号をスルーして、セリュオスはごほんと咳き込んで問いかけた。 「……外の世界を変えるためには、魔王の犠牲以外に何か方法はないのか?」「あると思う?」  ルキシアナ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第46話「迷える勇者に寄り添う魔王」

 セリュオスが一人になるために部屋を出ると、魔王城の長い廊下はひっそりと静まり返っていた。  ルキシアナたちは今も発明品や戦闘の準備を整えている。  夜通し魔王対策をするつもりなのかもしれない。  ゼルフ3号には睡眠の必要がないから、それができるのかもしれないが、セリュオスには到底できそうもない。 静寂の中で、廊下にセリュオスの呼吸と足音だけが響く。  しばらく歩き続けると、曲がり角の辺りから低い声が聞こえてきた。「……そちら、どなたかと思えば、勇者殿ではありませんか?」  影の中から現れたのは、白と黒の服に身を包んだ三人の使用人たちだった。  その目つきは鋭かったが、眼差しの奥には確固たる魔王への忠誠心が宿っているように見えた。「アンタたちは……魔王の従者か……」  警戒していたセリュオスは剣を少し抜きかけたが、そこで手を止めた。 「そうです。我々はオルデリウスさまの使用人を務めております」  黒服の一人が静かに答える。  その礼儀正しい振る舞いにセリュオスは敬服した。「使用人でも、魔王が新たな世界の礎になるために、その命を捧げようとしていることを知っているのか……?」 「ええ、もちろん。この城を守る者として、すべてを知り、すべてを理解しています。我々の主は、それをやってのけるお方だと、信じております」「主を、信頼しているんだな……」  セリュオスは眉を顰める。  魔王と従者の間に築かれている信頼関係に、素直に感心したのだ。「我々は皆、オルデリウスさまに救われた者たちです。人間に虐げられた我らを救ってくれた主を信じないわけがありません」  使用人の一人が微笑を浮かべる。「戦う理由は、すべての者に理解できるものではありません。オルデリウスさまは、この世界のため、そして新たな世界のために行動される。主を信じる我らにとって、それで十分なのです」  セリュオスは柄に置いていた手を戻し、姿勢を正して視線を鋭くした。「つまり、アンタたちは魔王の意図をすべて理解していて、従っていると?」 「ええ、そのとおりです」  すると、別の使用人が頷いて肯定する。「オルデリウスさまは偉大なお方です。その計画は、人の想像を超えるもの。ですが、それゆえに、我らも揺るぎません。だから、勇者
last updateLast Updated : 2025-11-24
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第47話「決戦の地へ」

 上層世界の天壁は、蛍晶鉱石によってうっすらと明るみ始めていた。  ほんのりと冷たい風が城の外から吹き込んで、空気には緊張感が漂う。 魔王城の大広間には、魔王討伐に向かうセリュオス、エレージア、ルキシアナ、ゼルフ3号がすでに揃っており、最終確認をしているところだった。 そこへ一人の大柄な男――ヴァルディルがやって来た。  ヴァルディルはただ黙ってセリュオスに近づいて来る。 その表情に気づいた瞬間、セリュオスは声を掛けるのを躊躇した。  普段は冷静沈着な彼の表情に、今は少しの緊張と決意が滲んでいるように見えたからだ。「……セリュオス、俺から頼みがある」  ヴァルディルの声は穏やかだが、確かな意思が込められていた。「何だよ改まって。俺に頼み?」 「……俺も、魔王との戦いに参加させてくれないか?」  すると、ルキシアナが驚いたように目を見開く。「アンタが……? まさか、図体がデカいからって、足手纏いになることはないとか思ってないでしょうね?」 「ルキシアナ、あなたねぇ……」  ヴァルディルの巨体にさえ果敢に迫るルキシアナに呆れているのはエレージアだ。「そんなつもりは毛頭ない」  ヴァルディルは静かに首を横に振る。「確かに、俺の力だけでは魔王オルデリウスには遠く及ばないだろう。だが、我々もここまで来て何もしないわけにはいくまい。ネラフィムの代表だけでなく、勇者の仲間として、責任を持って戦うつもりだ」 セリュオスはヴァルディルの勇猛な眼差しを見据えた。  目の前の男の決意は本物だ。  普段は冷静で計算高い男が、この瞬間だけは自分の意思を前面に出していることを、セリュオスは感じ取った。「……ヴァルディルの実力は知っている。むしろ、俺からも頼みたいくらいだ」  そう真剣に告げたセリュオスは、ルキシアナに向かって頭を下げる。 セリュオスとルキシアナを交互に見つめているのはゼルフだ。 「どうするでありますか、マスター?」 「何よ! セリュオスがいいって言うなら、ウチは別にいいわよ!」  すると、ルキシアナは投げやりになってしゃがみ込んでしまった。「ごめんね、ルキシアナ。でも、ヴァルディルの力とリーダーシップは、絶対に必要よ」  エレージアはルキシアナを
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第48話「勇者の試練」

 魔王の魔力が味方に向かってくる中、セリュオスは剣を握り直した。  自分の中には、下層で使えるようになったフィオラの力、そして中層で使えるようになったダルクの力が宿っている。  身体の奥で二人の力が疼き、セリュオスの意思を待っていた。 だが、一抹の不安がセリュオスの心をよぎっていた。  ミュリナとアベリオンの力はどうやっても使えるようになっていなかったのだ。  それでもセリュオスは己の心を奮い立たせて、魔王に向かって踏み出す。「よし、行く……!」  剣先から風が渦巻き、フィオラの力が周りの空気を切り裂くように荒ぶり始める。  それと同時に、剣の周囲を覆う淡い光の粒子が、フィオラの力を象徴する輝きとなり、セリュオスの持つ剣へと吸収されていった。 そして、セリュオスは一気に間合いを詰めると、オルデリウスに向かって斬りかかった。 「――嵐輝聖斬ッ!――」  風と光が渾然一体となった斬撃は、下層でガルベルを打ち破ったものだ。 燦然と輝く光風の大渦が魔王に迫る。  だが、オルデリウスは微動だにせず、突っ立ったままだった。 その身体の周囲には柔らかくも圧倒的な黒き力の波紋が広がり、セリュオスの斬撃を悉くはね返していく。  そして、セリュオスの剣が空を切る音だけが闘技場に響いた。「……勇者セリュオスよ、その程度ではあるまい?」  オルデリウスの声は穏やかだが、その瞳には確かな威圧がある。「その風の力は、確かに強い。友の想いを感じる強き力だ。しかし、我には通用せぬ!」  魔王が再び闇の力を解き放つと、今度はまるで大地が波打つようにセリュオスたちに向かってきた。 「……っ!」  一瞬の出来事にセリュオスは考える隙もなく、ダルクの力を発動させることにした。「――衝破、煌轟羅!――」  セリュオスは驚きと焦りの中で、仲間たちを守る大地の盾を出現させる。  ダルクの鳶色の盾が漆黒の闇を防ぐ。  セリュオスの全力でもって仲間を守ろうとするその姿は、生き様のようだった。「みんな! 無事か!?」 「アンタが守ってくれたからね」  ヴァルディルとエレージアも頷いて、無傷を知ら
last updateLast Updated : 2025-11-25
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第49話「仲間たちと共に」

 セリュオスは剣を握る手に力を込めて、二つの影と距離を詰めた。  俊敏な動きを見せるミュリナの影が宙を切り裂き、赤黒い炎を宿したアベリオンの影も同時に迫る。「《ルクス・クトゥム》!」  何とか使い慣れた勇者の盾を出現させて、セリュオスはその攻撃を受け止めるが、どちらも恐ろしく強大な力だった。  よくよく考えれば、ただ彼らの力を使おうとしただけで、制御できるわけがなかったのだ。 ミュリナの影が素早く動き回り、セリュオスに隙を与えてくれない。  影の鎖が空間を引き裂くように振るわれ、セリュオスはそれを躱すために後方に跳ねる。  しかし、跳ねた先にはアベリオンの赤黒く燃える槍が立ちはだかった。  赤黒い炎は熱を帯びているわけではないのに、身体の奥まで圧迫されるような恐怖を感じさせる。「ぅぐっ……!」  セリュオスは身を翻し、剣で鎖を斬ろうとするが、ミュリナの影は風のように素早く、攻撃を寄せ付けない。  どの角度から攻め込んでも、影は微妙にずれ、剣はただ空を切るばかりだ。 さらに、アベリオンの影が、槍に炎を纏わせながら押し寄せて来る。  硬い鎧のように見えるその体躯は、剣で叩き斬ろうとするセリュオスの力をほとんど受け流してしまう。 セリュオスが力を込めれば込めるほど、剣先が弾かれる感覚だけが手に残り、焦りと苛立ちが心を支配する。「……まだ、まだ制御できない!」  胸中で叫び、セリュオスは必死に呼吸を整える。「力だけじゃ、ダメよ!」  どこかでエレージアの声が聞こえたような気がするが、今は構っている余裕はなかった。 二つの影は一切の容赦なく、セリュオスの隙を突くように迫って来る。  素早いミュリナの影は縦横無尽に動き回り、硬いアベリオンはこちらの動きを読んで逃げ先を封じてくる。  セリュオスの動きは次第に追い込まれ、足元に小さな炎の跡が残るたび、心臓の鼓動が早くなった。「こんなにも、……ミュリナとアベリオンの力は、厄介だったのか……!」  セリュオスは思わず叫ぶ。  ダルクとフィオラの力を駆使しても、この二つの影の速度と硬度には到底及ばない。  戦いの中で自らの未熟さを痛感し、仲間の力の重要さを身をもって理解する瞬間だった。 闘技場の空気は
last updateLast Updated : 2025-11-25
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