「ジア……もう一つ聞かせてくれないか?」 セリュオスは鉄格子に額を押しつけたまま、暗がりに漂うエレージアを見上げた。 「勇者は質問ばっかりなのね」「それは何も教えてくれないお前のせいだろ。……なぜ、俺の仲間たちは生きていられる? お前の手にかかって、魔王軍の手にかかって、殺されてしまってもおかしくなかったはずだ……。なぜ、俺たちに情けをかける?」 エレージアはエリュオスに向き直ってから、ふっと微笑んだ。「あなたの仲間たちが無事だったのは、私が優しいからだと思う?」 セリュオスは眉を顰める。 「初めて会った時から変なヤツだとは思っていたが、そうじゃないのか?」「もちろん違うわ、勘違いしないで。私はれっきとした魔王なの。人間のことなんて、愚鈍で、醜悪で、脆弱な存在にしか見ていない」 彼女の声は澄んでいるのに、言葉は冷たく響いた。「簡単に欲に溺れ、身内で争い合い、救いを求めては他人を裏切る……。そんなものを、愛おしむ理由なんてないわ」 「人間と争うのは魔王軍も一緒だろう?」「あなた、勘違いをしているわ。……私が魔王になってから軍を動員したのは、領地と人民の安全を守るためだけよ。あたなたちが荒野に侵攻して来たから、私は仕方なくアベリオンを向かわせたの」 「何だと……? お前は何を言っている?」「フィオラの故郷であるエルフの集落を襲った者たちも、ミュリナの故郷を滅ぼした者たちも、すべて人間の仕業なのよ」 「なっ……!?」 人間がエルフや獣人族の集落を襲っただと……? 魔王はセリュオスに嘘をついて騙そうとしているのではないか。 そう疑うセリュオスだったが、彼女の真剣な眼差しは真っ当な人間のものだった。「……信じられないでしょうね。でも、それが真実よ。人間たちがエルフの集落を襲ったから、彼らを助けて魔王城に招待した……。人間たちが獣人族の村を焼き尽くしたから、生き残りを魔王軍に引き入れた……。アベリオンも似たようなことを話していたんじゃない……?」 なぜかエレージアの話が捏造とは思えなかった。 それはまさに、アベリオンが言っていたような人間のほうが悪という知りたくもない現実だった。 セリュオスは唇を噛み締める。「……だったら、
Last Updated : 2025-11-18 Read more