All Chapters of 時空勇者 〜過去に遡ったら宿敵の魔王と旅立つことになりました〜: Chapter 31 - Chapter 40

53 Chapters

第30話「その名はゼルフ」

 研究所の扉をくぐった瞬間、セリュオスは思わず足を止めた。  内部は眩い光に満ち、壁一面を覆う管や金属板から絶え間なく音が響いている。  至る所で火花が散り、または蒸気が噴き出し、機械仕掛けの腕が宙を踊るように動いていた。 中層の機械文明をここで造ったと言われれば、確かに納得がいく。  その混沌とした異世界の中心に――それはいた。「これは……鎧か……?」  全身を厚い金属板で覆い、無数の関節が組み込まれた機械の人形。  無機質な顔には、目の位置に双つの蛍晶鉱石が埋め込まれている。「……ルキシアナ式装甲機巧・ゼルフ」  低い声が響いた。  セリュオスが振り返ると、白衣を纏った少女がいた。「盗っ人を捕らえなさい!」 「御意!」  すると、ゼルフと呼ばれた機巧人形の目が赤く光った。  それはセリュオスに急接近し、轟音を響かせながら、その拳が床を砕いた。  石片が弾丸のように飛び散り、セリュオスは腕で顔を庇いながら後退する。「おい待て! 俺は盗賊じゃない!」  セリュオスは盾を構えたまま叫んだが、オリーブ色の髪色をした白衣の少女は冷ややかな視線を返すだけだった。「彼女がルキシアナよ」 「さらっと大事なことを言うな!」  セリュオスの耳元で囁いたエレージアは極力騒ぎに巻き込まれないようにと、隅の方に避難してしまった。「盗賊がはい自分が盗人ですなんて、認めるわけないじゃない!」  ルキシアナの声は怒りに満ちていた。「どうせウチの研究成果を奪いに来たんでしょう? この、ゼルフを――!」 「違う! 俺は何も奪うつもりなんかない!」 「寝言は寝てから言いなさい!」  彼女は全く聞く耳を持ってくれそうにない。「なんでこの世界のやつらは俺の話を聞いてくれないんだ! 俺は人の物を奪うなんてことは――!」  セリュオスの必死の訴えはゼルフの轟音に掻き消された。  金属の巨体が迫り、鋼鉄の爪が振り下ろされる。 「――《ルクス・クトゥム》!」  セリュオスは盾を構えてそれを受け止めた。「ぐっ……重すぎる……!」  その衝撃の強さにセリュオスの膝が砕けそうになる。  火花が散り、金属と金属が
last updateLast Updated : 2025-11-20
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第31話「ルキシアナ・ヴェルトライト」

「……すまなかった!」 セリュオスは誠心誠意、頭を下げて謝罪の意を示した。 目の前の少女――ルキシアナは今もセリュオスを睨み続けている。 過去に高温の液体でも飛び散ったことがあるのか、白衣の袖口には焦げ跡すらあった。 しばらく唸るように泣いていたルキシアナだったが、ようやくその口を開いた。 「ま、壊れたなら、ゼルフ2号を作ればいいっか!」 その豹変振りにセリュオスは思わず転んでしまいそうになる。 「おい……俺の後悔を、返してくれ……」 「はぁ……。でも、これがルキシアナだから我慢することね」 エレージアが溜息をつきながら言った。 切り替えが早いのは願ったり叶ったりではあるが、やりきれない思いが胸に残る。 「それで、アンタらの目的は何なの?」 ルキシアナの問いに対して、セリュオスは未だ呆然としたまま動けない。 代わりにエレージアがごほんと咳払いしてから口を開いた。 「……私は、エレージアよ。で、こっちはセリュオス。あなたの発明品が目的ではないことは確かよ」 「ふーん……どうせアンタら下層から来たんでしょ。その服装で丸わかりね。土臭いけど、目だけは強い。……面白そうじゃない」 ルキシアナはにやりと笑い、手を差し出した。 「ウチはルキシアナ・ヴェルトライト。超絶天才発明家にして、この世界の誰よりも賢いの!」 セリュオスは一瞬躊躇ったが、強く差し出された手を握り返した。 「……」 「いい目をしてるわ、セリュオス。気に入った。今日からあなた、私の実験台――じゃなくて、ウチの研究室で働かせてあげる!」 「……実験台!?」 「冗談よ、冗談! ゼルフを壊したからって、そんなこと言うわけないじゃない!」 笑いながらルキシアナは誤魔化そうとしているが、セリュオスは聞き逃さなかった。 その姿は煤で汚れ、髪も乱れているのに、不思議と眩しく見えた。 彼女の存在そのものが、この文明の光と混沌を象徴しているかのように。 「……相変わらず、嘘が下手で騒がしい子ね」 エレージアは小さく笑みを漏らしていた。 「それじゃあ、改めまして、よく来たわね!」 ぱんぱんと煤を払ったルキシアナは、腰に手を当てて
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第32話「料理は世界を救う」

 ルキシアナは外の世界について熱弁を振るった後、不意に視線を横へ向ける。  そこには大人しく椅子に腰掛けて話を聞いているエレージアの姿があった。「……ねえ、アンタさ……」 「私……?」 「そうよ。ずっと気になっていたの」  ルキシアナの目が、獲物を見つけた狩人のようにぎらりと光った。「その身体、半霊体なんでしょ? それっていったいどういう状態なわけ? 普通に座ってるように見えるけど、ウチも触れるの? それとも、すり抜けちゃうの? 冷たいとか、ビリビリする感覚ってあるの?」  矢継ぎ早に浴びせられる質問に、エレージアは目を瞬かせた。「……質問が、多すぎるわね」 「だって気になるんだから仕方ないじゃない! もしすり抜けるなら、どうやって物を持ったり食べたりするの? そもそも重力はどうなっているの? 床をすり抜けることもできちゃうの?」  ルキシアナは椅子を蹴るようにして立ち上がると、エレージアに駆け寄り、思わず手を伸ばしかけた。「ちょっと触ってみてもいい? 実験よ、実験!」  エレージアはすっと身体を引き、鋭い目を向けた。「……そういう無遠慮なところも、あなたらしいのかもね……」 「こんなに面白い研究対象が目の前にいるのに、見逃せるわけないでしょ!」  だが、セリュオスは慌てて二人の間に割って入った。「お、おい、ルキシアナ! ジアはちゃんと生きているんだ! そういうことはちゃんと彼女の許可を取ってからだな!」 「許可? セリュオスは関係ないじゃない! それに半霊体なんて初めて見たし、この手で触ってみないと気が済まないわ……! こんなチャンス、二度と来ないかもしれないでしょ!」 興奮で頬を紅潮させるルキシアナと、冷たく射抜くように見返すエレージアがセリュオスを間に挟んで見つめ合う。  室内に一瞬、緊張が走る。  だが次の瞬間、エレージアはふっと唇を吊り上げた。「……ふふ。興味を持たれるのは嫌いじゃないけど、度を越すのはやめてちょうだい」  そう言って、エレージアはルキシアナの手にちょこんと触れる。  ルキシアナは一瞬たじろいだが、すぐにニヤリと笑い返した。「なるほど……触れる方法はある、というわけね」 「それ以上は、あなたの発明よりも危険な研究になるかもしれないわよ。それこそ、命がな
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第33話「発明家と勇者」

 食後の空気が少し落ち着いた頃、セリュオスは意を決して口を開いた。 「……なあ、ルキシアナ。さっきから気になってたんだけどさ……なんでジアに対して、あんなに興味を持ったんだ?」  ルキシアナは椅子に腰かけたまま、真剣な表情でセリュオスの顔を見た。「理由なんて、一つしかないわ。――半霊体なんて存在、ウチの技術でも魔法でも説明できるものじゃない。もしその構造を解明することができたら……魔王を打倒する術だって、見つけられるかもしれないって思っただけよ……」  彼女はぎゅっと拳を握る。「ウチは外に出たい! でも、その夢は魔王がいる限り達成できないの……。唯一の希望だった勇者も死んでしまって。残されたウチらが奇跡を起こすには、何でも縋っていくしか、ないでしょ……」  ルキシアナの声が震えていた。  自分の無力さを噛みしめるように、唇を噛んで悔しがっている。 天才発明家でさえも魔王に抗えないという事実にセリュオスは胸を刺される想いだった。 「……ルキシ、アナ……」 セリュオスは気づかぬうちに、自身の左手を握り締めていた。  魔王を倒したいという彼女の想いが強く心に刻まれたのだ。  すると、その時――。 左手の甲に刻まれた紋章がはっきりと光を放った。  彼女の強い想いに、紋章が反応したのだ。  最初はただ眩しそうにしていたルキシアナだったが、やがてその目を見開いた。「……それ……!!」  彼女は椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がり、セリュオスの手をがしっと掴んだ。「嘘でしょ……! この光……勇者の紋章じゃない! なんで!?」  セリュオスは動揺し、慌てて手を引こうとする。  だが、ルキシアナの手は意外に力強く、離してくれなかった。「待て、ルキシアナ。落ち着いてくれ!」 「落ち着けるわけがないでしょ! 勇者は魔王に殺されたはずなのに……ウチの前に現れた、アンタが……勇者……?」  ルキシアナの瞳はその事実が信じられないという想いと僅かな希望によって揺れていた。「……本当に……アンタが、勇者なの?」  部屋に一瞬、静寂が落ちる。  セリュオスは言葉を探しながら、しかし隠しきれない真実の光をその手に抱いていた。  それから、少し照れたようにセリュオスは肩を|竦《す
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第34話「オリヴァンとルキシアナ、ときどきデート」

 中層の住民と機械が協力して祭りの準備を進めている中央広場にセリュオスたちがやって来ると、ルキシアナは自身の発明品の準備に没頭し始めた。  小型の機械を組み立て、光や風を操る装置を調整しているらしい。  正直言って、セリュオスには何をしているのかさっぱりわからない。 だが、彼女の手が止まることはなく、非常に楽しげな様子で作業に夢中になっていた。 「……よし、この仕組みなら絶対に派手な演出になるわね!」「……」  一方、セリュオスとエレージアは、完全に置いてけぼりを食らってしまったので、中層の街を巡ることにしたのだった。「……ルキシアナ、子どもみたいに熱中していて、本当に発明が大好きなんだな……」 「そうね。祭りって聞いただけでは全然動かなかったのに、発明品で勝負するとわかった途端にやる気を出すなんて……。まあ、あの子の好きにさせるしかないんじゃない?」 目に入ってくる街並みは、色鮮やかな装飾や光を放つ装置で賑わい始めていた。  色とりどりの提灯が並び、祭り前の街並みを一層華やかに彩っている。  まだ始まっていないというのに、祭りへの期待が高まっていく。 屋台を組み立てている大人たちの声、運ばれる楽器が鳴らす音、子どもたちの笑い声があちこちから聞こえてきて、セリュオスは立ち止まって目を細めた。「……中層の文明って、下層と違ってとても楽しそうにしているよな」  エレージアは冷静に街の様子を見渡す。 「祭りというのは住民が感謝と喜びを表すためにおこなわれるもの。そういう文化が、魔王の統治下で発展すること自体が不思議な感覚だわ」「その視点が、魔王って感じするよな……」  そうセリュオスが言った時、二人の前に一人の青年が現れた。  黒いコートに整えられた髪、知的な目を輝かせる青年――オリヴァンだ。「あ、セリュオスさんとエレージアさんじゃないですか」 「アンタはオリヴァンだったな。こんなところで何をしてるんだ?」「祭りで使う機材が足りなくなったので、取りに来たんですよ。今年こそは、ルキシアナに負けられませんからね!」  すると、やる気に満ちたオリヴァンの視線が自然にセリュオスの方を向いた。「セリュオスさんが、勇者、なんですよね……。見るからに力が強そう……。あ、そうだ! ちょうど荷物を運ぶ人手が足
last updateLast Updated : 2025-11-21
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第35話「誇り高き漢の声」

 祭りを存分に楽しんだセリュオスとエレージアは、中央広場の一角でルキシアナとオリヴァンが繰り広げる発明勝負を見ることにした。  そこでは、二人が互いに腕を競い合うように発明品を次々と展開している。 光を集めて拡散する装置、空中で高速回転する機械、風や光を自在に使った演出――どれもが圧倒的な技術で、見物客たちを驚かせていた。  ルキシアナは目を輝かせ、オリヴァンに向かって挑発的に言う。「これでも食らいなさい! ゼルフの力を借りて、去年よりもさらに完成度を上げておいたのよ!」  すると、オリヴァンはにやりと笑みを浮かべ、手元の装置を動かした。「フフッ……去年から成長しているのは、君だけではないんだ! 私の努力が天才を越える瞬間を見せてやろう!」  セリュオスはその様子を見ながら、ふっと肩の力を抜いた。  エレージアは隣で目を輝かせ、少し子どものように声を上げる。「わぁ……みんな盛り上がってるわね。オリヴァンも全く負けていないわ」  彼女は発明品そのものというよりも、この場の盛り上がりを楽しんでいるように見えた。「俺にはもう、別世界で起こっている出来事にしか見えないんだが……」 「セリュオスじゃあ、仕方ないわよね……」  さり気なくバカにされた気がしたが、セリュオスはツッコまなかった。 二人の天才が火花を散らす競演の場に、セリュオスとエレージアは静かに立ち尽くしていた。  だが、祭りの熱気と二人の無邪気なはしゃぎが、この世界の重さを少しだけ忘れさせてくれるような、そんな瞬間でもあった。 しばし休憩時間を挟んだ後、二人はまた舞台の上に現れて、お互いの発明品を展開し始めた。 「さあ、ここから後半戦と行くわよ!」 「望むところだ! ここから逆転してみせる!!」 ちなみに、現在観客たちの投票がおこなわれており、ルキシアナのほうが僅かにリードしているとのことだった。  その得票数の差は10。  このままルキシアナが勝つとは限らないだろう。  オリヴァンにも逆転の秘策があるかもしれないのだから。 すると、ルキシアナ製の浮かぶ光球が空中で舞い、微細な風を操る装置が屋台の周囲に涼しい気流を作り出す。  熱気が籠っていた会場の温度を下げてくれるのは非常に有り難い。  今度はオリヴァンの発明品である炎のように煌
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第36話「二人の発明品」

 騒ぎの熱がまだ冷めやらない中、四人は広場の片隅でひと息ついていた。  ルキシアナは荒れる息を整えながらも、その目は好奇心で輝いている。「……ねえ、なんでヴォルグラスはウチを狙ったんだろう? ウチ目掛けて一直線に向かって来たよね?」  ルキシアナが首を傾げて、思考を巡らせている。  彼女の言うとおり、魔物の行動には疑問が残る。 セリュオスは眉を寄せ、腕を組みながら口を開いた。 「うーん……俺の直感だが、発明品を持っているルキシアナに興味を持ったんじゃないか? もしくは、光や匂いに反応した、とか……?」 オリヴァンは腕を組み、少し厳しい表情で頷いた。 「あり得るかもしれません。中層の魔物は獣のような見た目で知能が低そうに見えますけど、動くものや光にはよく反応するんです。君の装置が光と動きで目立っていたということだろう」 しかし、ルキシアナは口元に手を当てて考え込んでいる。 「でも……ウチは光を使った発明品はたくさん造っていたのよ。それなのに、今までこんなことはなかったし、祭りの広場でウチだけを狙うなんて……」「もしかすると、君の個性や才能の微細な匂いに反応したのかもしれない……」  そう告げたのはオリヴァンだ。「個性……?」  オリヴァンが微かに笑みを浮かべながら、説明を補足する。「ルキシアナ、君はとにかく発明の才能に優れている。その発明をできるようにしている個性というか、才能の欠片が気づかないうちに微細な匂いを発しているんだ。……そのせいで、魔物のセンサー――いや、嗅覚――に引っかかったんだろう」 オリヴァンの推理を聞いて、ルキシアナは目を丸くした。 「なるほどね……。ウチの発明を支える個性の欠片に反応して、魔物がターゲットにしたと……。確かに、考えてみればその可能性は十分に考えられるわ」 セリュオスは手を組んで、少し険しい表情になる。 「……それはつまり、今後もルキシアナが目立つ行動をすれば、同じことが起こる可能性があるってことか……?」「そのとおりですね」  とオリヴァンが肯定する。 「だから私たちが連携してルキシアナを守りましょう。セリュオスさんの戦闘力と、私たちの発明品でカバーすれば、手こずるようなことはありませんよ」「ふっふっふっ。つまり、ウチはゼルフに代わる発明品をすぐに造
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第37話「爆誕、ゼルフ3号!」

 祭りの灯りが徐々に消え、広場では静かにそよ風だけが吹いていた。  あれだけ多かった屋台は跡形もなく片付けられており、ルキシアナがかつて発明したという掃除機械が地面に散らばる紙片を収集している。  歓声の余韻は消え、街全体が穏やかな静寂に包まれていた。 四人はルキシアナの研究室に戻り、ゼルフ3号を造るための設計図と睨めっこしていた。 「さて……これからが本番ね。どうやってセリュオスが持っている勇者の力をゼルフに取り込ませるかだけど……」  ルキシアナは机を組み立て、小型の光球や魔力結晶を並べている。「そうだね、肝心の方法は……?」 「……わかんない」  急に梯子を外されてしまい、セリュオスとオリヴァンは床に倒れ込みそうになってしまう。「何だかルキシアナらしくないな? ゼルフ3号を造るってあんなに意気込んでいたのに……」  セリュオスはその横で、魔王討伐の作戦を思い浮かべながら、ルキシアナに問い掛けた。「そうじゃない。ウチの頭の中ではほとんど完成しているんだけど、まだ何かが足りていない気がするの……」  彼女はぼんやりと中空を見つめている。「何かって、何が足りないんだ……?」 「それがわからないから、困ってるんでしょ!」  セリュオスに向かって怒鳴るルキシアナだったが、怒りというよりも腑に落ちない苛立ちが勝っているように見えた。「まあまあ、それなら一度造って確かめてみるという手もあるんじゃないかい?」 「私もそう思うわ。やっているうちに気づくこともあるでしょう?」  オリヴァンが提案すると、それまで黙っていたエレージアもルキシアナに近づいて来た。「……そこまで言うなら、やってみるけど……」  まだ不安そうなルキシアナだったが、彼女の中で決心がついたのか、手を動かし始めた。「これから造るルキシアナ式魔王特化型装甲機巧・ゼルフ3号は、魔王の力の干渉を防ぐことをコンセプトにしているわ。勇者の力に光と風、微細な魔力制御を組み合わせて魔王が持つ闇の力に対抗しようと思うの」 ルキシアナは説明しながら装置の位置を調整し、魔力結晶の供給ラインを組み上げる。  時にはオリヴァンやセリュオスに支えさせて、一人ではできない作業を淡々と進めていく。「……君の発明品の回路は本当に複雑だな。
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第38話「対魔王用殲滅砲ゼルフ・キャノンMK-Ⅲ」

 街の中央広場、薄暗い闇に包まれたその場所で、重低音の咆哮が響き渡った。  セリュオスたちの前に現れたのは――数多のヴォルグラスを統べる親玉である異形の怪物ドヴォルグラスだった。 その巨体は洞窟の天井に届かんばかりで、背には結晶化した甲殻が層を成し、光を吸い込むかのように黒く濁った鱗に覆われている。  目は赤く光り、魔力の振動が周囲の空気を震わせる。「……ゼルフ3号、怖いのであります……!」 「ウチの発明品が、恐怖感じるわけないだろぉ!」  ルキシアナの目には闘志が宿り、ゼルフ3号に檄を飛ばしている。 「もちろんでありますぅ!!」「セリュオスさん、倒せそうですか?」  オリヴァンがセリュオスを不安そうに見つめていた。  セリュオスの背筋に冷たい汗が流れる。  ヴォルグラスとは桁違いの圧力が、身体に纏わりつく。「すごい……。ヴォルグラスにこんな個体がいるとは思ってなかったわ。でも、ウチが生まれ育ったこの街を壊されるわけにはいかない……!」  ルキシアナは遠眼鏡を覗き込み、その巨体の細部を冷静に観察していた。「マスターの街は、ゼルフ3号が守ります……!」 「セリュオスさん、相手の動きを見極めてください。不用意に接近すれば、私たち全員が巻き込まれる可能性もあります!」  オリヴァン自身も彼の造った発明品を展開する準備を進めながら言った。「……それは大丈夫だ。何があっても、俺がお前たちを守る……!」  セリュオスは肩に力を入れ、右手の剣を握り直す。  左手には生み出した盾を構えて、相手の動きの一挙手一投足に集中していた。 すると、巨蝙蝠はゆっくりと前進し、セリュオスに向かって来た。  セリュオスは盾に全体重を預けて、ドヴォルグラスの突進を真正面から受け止める。「おも、いっ……!」  それは圧倒的な質量による突進だった。  身体中が軋むような音を響かせながら、その場に留まろうと踏ん張り続ける。  そして、何とか耐えきったセリュオスは背後に飛び上がると、壁を蹴った反動でその巨体に接近し、甲殻の裂け目に斬撃を浴びせた。 しかし、勇者の刃は硬質な殻に弾かれてしまう。 「硬すぎる……!」  閃光が散り、耳
last updateLast Updated : 2025-11-22
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第39話「錆びれた昇降機」

 激しい戦闘が終わった翌日の街にはいつもどおりの静けさが戻っていた。  数多の瓦礫はというとルキシアナ製の運搬装置が街の外に運び出し、その魔力結晶の放つ光が微かに脈打っている。 セリュオスはルキシアナの研究所の一室で目覚めると、目の前にはなぜか楽しそうに微笑むエレージアの姿があった。 「どわっ! ……朝からびっくりさせないでくれよ……」「失礼ね。そこは、おはようって言いなさいよ。朝から可愛い幼馴染が添い寝してあげてるんだから!」  セリュオスは一瞬幼馴染という言葉に思考が停止してしまうが、すぐに反論する。「お前はいつから俺の幼馴染になったんだよ! 俺たちは勇者と魔王の関係だろ! 急な設定入れてきたら、混乱するだろ!」 「ケチね……。だから、モテないのよ」 すべての発言が魔王としてどうかと思うが、彼女が拗ねてしまったことには違いない。  それに、モテるかどうかも関係ない。 仕方なく息を吐いたセリュオスが彼女を置き去りにして起き上がろうとしていると、部屋の入口に人影があることに気がついた。「エレージアが魔王って、どういうこと?」 「あ……」 そこに立っていたのは、ルキシアナだった。  セリュオスの発言をちょうど聞いてしまったらしい。「でも、ウチの知ってる魔王オルデリウスは男のはずでしょ! それなら、目の前にいるエレージアは何なのよ! この世界に魔王が二人いるとでも言うつもり!?」 「あー、全部話そうとすると長くなるんだが……、彼女は何て言うか、未来の魔王なんだ……」 ルキシアナは突然のカミングアウトに口をパクパクさせていた。  それは誰であっても当然の反応だろう。  彼女がただ驚いているだけなのか、怒りに震えているのかはわからないが。「……はあ!? 本当に魔王が二人いるの!? 魔王は世界に一人だけじゃないの!? どういう原理なのよ!? それだけでカオスなのに、セリュオスも未来から来た勇者だったってこと!?」 「まあ、そういうことになるな……。でも、ジアは無害、らしいぞ……」 セリュオスも信じられないとは思いつつ、そう説明することしかできなかった。  ネクロラドに来てから、彼女が魔王らしいことを何一つしていないのだから。「なんで! そんな大事なことをずっと黙ってたのよ!?」 「
last updateLast Updated : 2025-11-23
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