翌日、莉緒が圭太とデパートで新しいワンピースを選んでいると、背後から嫌というほど聞き慣れた声が聞こえてきた。「莉緒?本当に君なのか?」莉緒は思わず背筋をこわばらせ、手にしていたハンガーを強く握りしめた。圭太もすぐに莉緒の異変に気づき、彼女の視線の先を追って振り返った。少し離れたところに祐介が立っていた。無精髭は伸び放題だったが、服装はきちんとしていた。けれど、その目には嬉しそうな光が宿っていた。彼は足早に近づくと、莉緒の手首を掴もうとした。「やっと見つけた!」そこを圭太はとっさに莉緒を背後にかばった。その大きな体はまるで壁のように、二人を引き離した。「すみません、やめていただけますか」すると祐介の表情が一瞬で歪んだ。「こいつは誰だ!」彼は圭太の向こう側にいる莉緒を捕まえようとしながら言った。「莉緒、話がしたいんだ」「あなたに、私のことをとやかく言う権利はないから」圭太の後ろから姿を現した莉緒は、感情のこもらない冷たい声で言い放った。「権利がないわけないだろ!」祐介は声を震わせた。「俺は君の夫だ!5年も夫婦だったのに、もう心変わりしたっていうのか?」デパートの明るい照明の下で、莉緒は不意に笑みを浮かべた。その笑顔は、祐介に離婚協議書を突きつけた日のことを思い出させた。あの日も彼女は、こうして笑いながら自分にペンを渡したのだ。「心変わり?」莉緒は軽く首をかしげた。「あなたは本当にお忘れになるのが得意なのね。結婚しているのに浮気したのは誰だったかしら?妊娠中の私に、浮気相手への輸血を無理強いしたのはどなた?」彼女は一歩前に進み出た。「他の女の足にキスしたその口で、私を愛してるなんて言われるのがどれだけ気持ち悪いことか、思い出させてあげようか?」それを聞いて祐介の顔は血の気を失い真っ青になった。よろめきながら後ずさる。「俺が悪かった。沙耶香の子は、俺の子じゃなかったんだ。もう――」「だから何?」莉緒は彼の言葉を遮った。「それで私の子は生き返るの?私たちは元に戻れるっていうの?」そうこうしていると、周りにはすでに人だかりができていた。圭太は、黙って莉緒の震える手を握った。その手の温もりが、彼女の心を少しだけ落ち着かせてくれた。突然、祐介がその場にひざまずいた。光沢のあるデパートの床に、彼の惨めな姿
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