葛城莉緒(かつらぎ りお)は、ネイルサロンの特別ルームに座っていた。でも、店員は気まずそうな顔でこう言った。「葛城さん、こちらのカードですが、残高が足りないようでして……」莉緒はきょとんとした。先月、夫の葛城祐介(かつらぎ ゆうすけ)がこのカードをくれた時、たしか60万円入っていると言っていたのに。しかも、それを使うのが今日が初めてなのに。そこで店員に履歴を調べてもらうと,こう言われた。「葛城さん、先週の木曜の午後に、56万円のご利用がございました」「先週の木曜日?56万円?」莉緒は思わず指を止めた。「その日、私は一日中、会社にいましたけど」店員は口ごもった。「は、はい。ご主人が、ある女性の方をお連れになったんです。お帰りの際に、その女性が店員の一人へのチップだと言ってお支払いをされて行かれました」それを聞いて、莉緒の心臓が急にどきどきして、耳鳴りがした。先週の木曜日、祐介は大事なクライアントと会うと言っていた。家に帰ってきたのは夜の8時過ぎで、接待が長引いて疲れたと愚痴っていたはずだ。自分はそれを聞いて、わざわざ会議を早く切り上げて、彼のために酔い覚ましのスープまで作ってあげたのに。「防犯カメラ、見せてください」莉緒の声はか細く、気持ちが重く沈んでいった。そして防犯カメラの映像には、祐介が水色のワンピースを着た女の肩を抱いて入ってくる姿が映っていた。女が祐介を見上げて何かを言うと、彼は愛おしそうに彼女の髪を撫でた。莉緒は呆然とした。その親密な仕草は、まるで二人が付き合いたての若いカップルのように見えた。もし、祐介が自分の夫でなければ、それは何とも微笑ましい光景だっただろう。そう思っていると、突然、映像の中の祐介が店員に何か言われ、ひざまずくと、その女の足にペディキュアを塗り始めた。それだけじゃない。塗り終わった後、彼は愛おしそうに女の足を両手で包み込んで、キスまでしたのだ。それを目にした莉緒は全身の血が凍りついた。あのプライドの高い祐介が、他の女のためにひざまずいてペディキュアを塗るなんて。しかもあの夜、家に帰ってきた彼は、他の女の足にキスしたその口で、自分にキスしたのだ。そう気が付いた莉緒はこみ上げてくる吐き気を抑えきれなかった。そして映像は続いた。祐介はずっと女の子のそばにいて、帰り際
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