All Chapters of カンタレラ〜毒公爵の甘い愛に溺れる〜: Chapter 11 - Chapter 20

47 Chapters

11 図書館で

だからといって俺が主体的にできることなんて何にもなく、ただ見守る事しかできないんだよなぁ…… とりあえずマリアから話を聞く限り、友人関係や学校は問題なさそうだった。 心配なのは暗殺くらいか……? セタリィ神王国ってエドアルドが言っていたけど、まじで王族、狙われてんのかな。 王家なら諜報機関とかあってそういう情報収集してそうだけどどうなんだろ。 でも俺にはそんなことわかる由もなく、ただ日々を過ごしていくだけだった。 次の週。七月十四日金曜日。 エドアルドとは毎日顔を合わせて、昼飯を食べている。 半分以上は講義が被るから、一緒に講義を受けることも多かった。 図書館で本を借り一緒にカフェでコーヒーを飲むことも多くて、俺、超充実した学生生活を送れている気がした。 月末には試験があって、それが終われば夏休みだ。 講義によっては課題が出され始めていて、今日は講義が全て終わった後大学に残って俺は課題をやることにした。 「お前が残るなら俺も残ろうかな」 三限目の講義のあと、俺が図書館で勉強をすることを告げると、エドアルドが言った。 「え?」 「家でやるよりもはかどりそうかなって」 そしてエドアルドは笑って俺の方を向く。 「じゃあ一緒にやろうぜ」 そう俺が言うとエドアルドは頷いた。 大学の図書館は、高校生も利用できるため時間によっては高校生の姿を見かけることがある。 たしか高校は今日まで期末試験だったはずだ。そのせいか制服姿の高校生の姿を普段より多い。 そういえば、マリアも今日は図書館に寄るとか言っていたっけ。 ここ、時間を潰すにはちょうどいいからな。 普段より人が多いからだろうか、エドアルドの足取りがなんか重そうだった。 「……高校生、多いな」 「あぁ、妹が今日まで期末試験だって言ってた」 「……あぁ、妹いるんだっけ」 あまり興味なさそうにエドアルドは言い、辺りを見回す。 「うん。今日、来てるかも」 「へぇ」 やっぱり興味なさそうに呟き、エドアルドは本棚へと向かう。 ……あれ、妹に興味ないのか。でもこいつ、確かにゲームの表紙にいたよな…… そうは思うけどさすがにお前、攻略対象だよな、なんて話、できるわけもなく俺も目的の本を捜しに行った。 互いに数冊の本
last updateLast Updated : 2025-11-25
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12 約束を

 歴史の課題のテーマを決めてまとめていると、エドアルドが口を開いた。「ルカ」「何」「明日時間ある?」「え? あぁ、まぁ」 いったい何を言いだすのかと思い、俺は顔を上げてエドアルドを見た。 彼はレポートを書く手を止めて、でも顔は上げず言った。「うちで一緒に課題やらないか……ほら、猫も怪我、よくなってきたし」 そしてエドアルドはゆっくりと顔を上げて俺を見る。 なんだろう。俺の様子を不安げな顔して伺っているように見える。 なんでそんなに不安な顔してるんだろ? 不思議に思いつつ俺は答えた。「別にいいけど。どうせひとりだとやる気にならないだろうし」 だから高校の時はよく友達とカフェ行ったり家に集まって勉強したもんな。 大学に入ってからはボイスチャットやりながらとかあったけど。 俺の言葉に、エドアルドはほっとしたような顔になる。 「じゃぁ、明日迎え……ってそうか、お前王宮なんだよな」 と言い、エドアルドは顔を伏せてしまう。 あぁ、迎えに来るつもりだけど、俺が住んでいるのは王宮で、おいそれと入れる場所じゃないから悩んでるのかな。 ……こういう時どうするんだ? じゃあ、こっちから行けばいいのか?「あー、どうしたらいいかわかんないからこっちからお前の屋敷に行くよ」「え……あぁ、そうか。うん、そうだな」「何時に行けばいい?」「えーと、九時過ぎ位、かな」「わかった。えーと、屋敷の場所、運転手に言えばわかるかなぁ」 俺はもちろんエドアルドの屋敷の場所なんて知らない。「わかるだろう。公爵家なんて数軒しかないし」  そうなんだ、なら良かった。「俺、こっちにきて人んちに行くの初めてなんだよなー」「……俺も、人を呼ぶのは初めてかもしれない」 ぼそり、とエドアルドが呟き俺は、ちょっと驚く。「……まじで?」「ないな。招待されたことは昔はあったけど、小さい頃だけだな」 普通、遊びに行ったりきたりするもんだと思うけど貴族だと厳しいのかな。 エドアルドは鉛筆を走らせて、本のページをめくる。「貴族ってそんなもんなの?」「商家や平民の連中はよく行き来しているみたいだったけど、貴族となると互いに構えてしまうみたいで。親の同伴も必須だし」 貴族は気軽に友達と近所で遊ぶ、なんてできないものなのか。俺にはよくわかんないけど、貴族には貴族の付
last updateLast Updated : 2025-11-25
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13 エドの家へ

その日、屋敷に帰ると俺は執事に明日、カルファーニャ家の屋敷に行きたい旨を告げた。 老齢の執事は一瞬嫌そうな顔をしたような気がしたが、 「かしこまりました。運転手に伝えておきます。それでお時間は」 と、静かに告げた。 「九時過ぎにあちらに着くように出たいんだけど」 「かしこまりました。さほど遠くはないので、八時半すぎに出発すれば間に合うかと思いますのでそのようにご準備を」 「わかった。ところでなにか土産を持っていきたいんだけど何かあるかな。お菓子とか」 「そうですね……コックに伝えておきますので、朝までには何かしらご用意できるかと思います」 ならよかった。俺は執事に頭を下げて、 「よろしくお願いします」 と言った。 すると執事は慌てた顔をする。 「頭を下げないでください。我々はルカ様ご兄弟をお支えするのがお役目ですから。ところで、あの、ルカ様」 執事は神妙な顔になり、声を潜めた。 「カルファーニャのご子息とはその……」 「あぁ、最近仲良くなって。べつに何にもないし普通だよ」 きっとメイド長と同じように、毒を盛られるのを心配しているんだろう。俺は笑って首を横に振り、 「マジ、普通の奴だし、大丈夫だよ」 「そうなのでしょうが……色々と黒い噂がございますからくれぐれもお気を付けください。貴方は王位継承権をお持ちなのですから」 あ……そっか。そういえばそうだっけ…… そんなものいらねえのに、でも俺は、王族のひとりなんだよな。 翌日。 普段と同じ時間に起き、着替えをする。 黒いズボンに半袖のシャツ。って、学校に行くときと変わり映えはない。 そもそも大して服を持っていないし、自由に買い物にも行けないから服も増えない。 たぶん、頼めばお店の人が服を持って来てくれるけど俺は一回しかそれを利用したことがない。 なんか気まずいしはずかしいんだよな……あれ…… 召使に連れられて俺は玄関へと向かった。 車に乗り、王宮を離れてエドアルドの屋敷に向かう。 昨日執事から聞いたけど、確かに王宮からカルファーニャの屋敷は近かった。 王宮を出て数分で、車はある屋敷の前で止まった。 運転手が門番に声をかけそして、門が開かれて車ごと中に入っていく。 広い庭と大きな屋敷が現れて、俺は思わず声を上げた。
last updateLast Updated : 2025-11-26
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14 ねこ

エドアルドに招き入れられて中に入ると、あの、花みたいな匂いがぶわっと広がった。 エドアルドの匂いだ。 甘い匂いの中に爽やかさを感じる匂い。 いったい何の匂いだろう。後で聞いてみようか。 そう思いつつ俺は、部屋の中を見回した。 そこは俺の部屋と同じように広かった。 二部屋に別れているらしく、右手の奥に扉があるのが見える。 部屋に入って真っ先に目に入ったのは、黒い猫の姿だった。 ソファーの上にいるその猫は俺に気が付くと、ひげをぴくぴく動かしてこちらを見ていた。 「そのこ、この間の?」 「あぁ、うん。ミャーコ。獣医師に見せたら一歳くらいのメスだと言っていた」 この世界、獣医、いるんだ。 そんなことに感動しつつ、俺は頷いた。 「そうなんだ。すっごいつやつやしてるな」 「あぁ。風呂にも入れてるし、ブラッシングもしてるんだ」 そう語るエドアルドは、とても楽しそうだった。 なんか大学とは雰囲気違うな。 普段はもっとこう、誰も近づくんじゃねえぞ、って空気出してるのに。 「可愛がってるんだな」 笑って言うと、エドアルドははっとした顔をしてこっちを向いた。 なんか顔、紅くね? 「え、あ……うん、あぁ。なあルカ、課題、やろうぜ」 なんかしどろもどろにエドアルドは言い、俺は頷き答えた。 「そうだな」 「こ、こっちに椅子とテーブル用意してあるから」 そう言って、エドアルドが部屋の奥に進む。 そこには、四角いテーブルとすわり心地のよさそうな椅子が二脚、向かい合う形で置かれている。 わざわざ運び込んだのかな。 すすめられるまま、俺は椅子に腰かけて持ってきた資料や教科書を取り出す。 エドアルドも教科書とかを持って来て、俺の向かいに座った。 その時、扉を叩く音がした。 エドアルドが返事をし、開いた扉からワゴンを押したメイドが入ってきた。 「エドアルド様、お茶とお菓子をお持ちいたしました」 「あぁ、ありがとう」 メイドさんは、ワゴンをこちらまで押してくると、湯気を上げる濃い青のカップをテーブルに置いた。 紅茶かな。 かぐわしい匂いがする。 それに、楕円の銀色のお皿に載せられたお菓子たち。 俺がお土産で持ってきたマドレーヌ。それにクッキーなどがのっている。 「エドアル
last updateLast Updated : 2025-11-26
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15 エドアルドの部屋で

 しばらくして、エドが戻ってくる。 数冊の本を抱えて。「これ。うちにある本。これはわりと事実に基づいて書かれてるから、そっちの本よりもいいと思うよ。こっちは初期の王族の伝説をユーモアを交えて紹介している本」 エドはそう説明しながらテーブルに本を重ねていく。「まじで? ありがとう、エド!」 超助かる。 そうだよなぁ。レポート書くのに本、数冊読むのが普通だよな。 全然分かんなくって、一冊しか借りてこなかったのすっげー失態。「たいていの貴族の家には図書室あるからな」 と言い、彼は笑う。「え、まじで?」 すげーな貴族。 あれ、うちにもあるんかな? 全然知らねえや。「君の屋敷にはないの?」 言われて俺は首を傾げた。「どうなんだろ。聞いたことはないなぁ。王宮にはあるだろうけど、さすがに行きにくいし」 正直、王宮での俺たちの立場はとっても微妙だ。 あんまり動きまわりたくもねえんだよな。「そうなんだ」 そう呟いて、エドは椅子に戻る。 お茶を口にした後、彼はこちらの様子を伺う様な顔で言った。「あの……何か見たい本とか資料あれば、うち、けっこう本があるから……」 そこで言葉を切りったあと、恥ずかしげに続ける。「よかったら、うちの本、見てもらって大丈夫、だから」 と言った。「え、まじで? ありがとう、エド」 すると、エドはなぜか、びくっと震えた後、目を泳がせて下を向いてしまった。「……大丈夫?」 不思議に思い声をかけると、エドは下を俯いたままぶるぶると首を横に振った。「いや、大丈夫」 そう、とても大丈夫じゃ無さげな声で言った後、ゆっくりとこちらを見た。「お前、不思議な奴だな」「う、え? 俺?」 俺が不思議? いや、まあ確かに不思議かも。 だってゲームの中に迷い込んじゃってるし。 エドは頷き、「あぁ、だって……俺にここまで関わってくる奴、珍しいし」「お前こそそうじゃん。ぽっと出の王族で、皆扱い方がわかんなくって遠巻きにされてた俺の相手してんだから」 絶対お互い様、だと思う。 俺の言葉を聞いて、エドははにかんだように笑い、「そうだな」 と言った。「なあエド、俺、ずっと田舎で暮らしていたからこの国のこと全然わかんなくって。だからさ、色々聞いてもいい?」  言いながら俺は身を乗り出す。 とにかく分かんね
last updateLast Updated : 2025-11-28
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16 勉強会

「子供の頃から決められた婚約者とかっていたりしないの? 貴族ってそういうもんかと思ってたけど」 俺の問に、エドは首を横に振る。 「確かにそういう話はよく聞くけど、俺にはいないよ。兄にはいるけど。いや、俺にもいたか……」 なんてぶつぶつと呟く。 「え、マジ?」 なんか修学旅行とかでやる恋バナみたいで、思わず俺、腰を浮かせる。 エドは顔を上げるとなんか困ったような顔をして言った。 「兄の相手の妹の方。一時期アプローチがすごかったなって思って」 「マジで? 何あったの?」 「プレゼントとか、手紙とか。でも俺、そういうの無理だし、休学もあったからうやむやになって、彼女はたしか婚約したって聞いたような」 そう答えたエドアルドはなんかほっとした様な顔になる。 もったいなくね? って言葉を俺は飲み込む。 エドとしてはそれでよかったんだろうな。 本人からは後悔とかそんな様子、見てとれないし。 でも羨ましい。 「いいなあ、俺にはそういう相手いねえし」 見合いのみの字もない。 俺は頬杖をついて、遠い目をして言った。 「あー、俺にも出会い、無いかなぁ」 「どうだろうな」 なんか冷たい声でエドは言って、鉛筆を走らせていった。 エド、どうしたんだろ。結婚とか恋人とかの話、嫌なんかな。 「エド、こういう話苦手?」 不思議に思って声をかけると、彼は手を止めてゆっくりと顔を上げる。 何だか恥ずかしそうな顔、してるような気がする。 エドは首を横に振り、 「慣れてないだけだよ。それより、課題やろうぜ」 そう俺に言い、ノートに視線を落とした。 学校でもエド、浮いてるからこういう話とかしねえのかな。 俺なんて大学でも、そういう話普通にしてたけど。 エド、今までどういう生活送ってきたんだろうな。後で聞いてみよ。 そう思って俺は、頑張って課題をすすめた。 ときどき会話をしながら課題をやって、二時間近く経った頃。 侍従がエドの部屋に訪れた。 なんだろう。そう思って、俺は侍従に呼ばれて立ち上がったエドの背中を目線で追いかける。 エドは廊下の方に行き会話を交わした後、こっちを向いて言った。 「ルカ、昼食なんだけど、ここで一緒に食べるのでいいか?」 あ、昼飯の時間か。 そう思って部屋の
last updateLast Updated : 2025-11-29
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17 帰宅して

 昼飯にパスタを食べた後、俺たちは夕方まで課題をこなした。 なんかすっげー充実した時間、過ごせた気がするなぁ。 俺の迎えが来て帰る時、俺は見送りに出てきてくれたエドに大きく手を振った。「ありがとう、エド! また来週な」 するとエドはぎこちなく手を上げて手を振る。「あ、あぁ。また」 俺は車に乗って、そこからもエドに手を振った。 なんかこういう勉強会って、高校以来かも。 試験前にファミレスとかで勉強してたなー。 懐かしさに胸がちょっと痛くなる。 だってその思い出は、ルカのものじゃなくって京佑としてのものだからだ。 俺は車の中で、じっと右手のひらを見つめる。 俺、ちゃんと帰れるのかな。 そう思うと不安で胸が締め付けられる。 思わず俺は振り返ってエドの屋敷の方を見た。 きっともう、エドは中に入っているだろうって思ったのに、彼はまだ玄関前に立ってこちらを見つめていた。「エド……」 呟いて、俺は車のヘッドレストをぎゅっと掴む。 なんだろう、この気持ち。 俺は、自分の心の中に生まれているエドへの気持ちの名前がわかんなくって、苦しさに心が痛くなった。  重い気持ちで王宮内にある俺たちの屋敷に帰る。 足取りも重くって、出迎えてくれた侍従たちに無理やりな笑顔しか作れなかった。 「お茶をお持ちいたしますか?」 そう侍従に声をかけられて、俺は頷き部屋に持ってきてほしいと伝え、さっさと自室に引きこもった。 荷物を勉強用のデスクの上に置き、着替えもせずそのままベッドに倒れこむ。 昔の……日本での生活を思い出すと苦しくなる。 どんなに懐かしく思っても、どんなに戻りたいと思っても戻る方法がわからないからだ。 ゲームのゴールを迎えれば戻れるんじゃないかって希望を持ってるけど、本当にそうかなんてわかんないから。 それでも勉強して、少しでも普通に過ごそうってやってるけど急に襲ってくる不安に押しつぶされそうになって、俺は丸くなって大きく息を吐いた。 侍従がお茶を持って来てくれたときはさすがにベッドから起き上がって、ソファーに座ってやり過ごしたけど、ひとりきりになるとちょっと辛かった。 俺は、花みたいな匂いがするお茶をひと口のみ、ひとり虚空を見つめた。 誰にも話せない秘密を抱えているのって辛い。 エドにだって話せねえもんな、こんな話。 
last updateLast Updated : 2025-12-01
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18 翌日

 日曜日。 今日も俺は、エドアルドの家を訪れることになっている。 朝食の席で、妹のマリアが嬉しそうに俺に言った。「ねえお兄様! 私ね、今日は王太子様と勉強をする約束をしているの」「王太子……マルセル殿下?」 言いながら首を傾げると、マリアは大きく頷く。「そうなの! 学校でね、時々お会いするんだけど、私が数学があまり得意じゃないって言ったら『みてあげる』って言ってくださったのよ」 話しを聞きながら、ちょっと複雑になる。 だって、王太子って従兄だもん。 でもマリアの攻略対象なんだよなぁ。 王太子だったらマリアのこと、幸せにしてくれる、ってわけじゃないし。 そんな複雑な兄心を奥にしまいこみ、俺は張り付けた笑顔で答える。「そうなんだ。よかったな、マリア」「えへへ。お兄様は今日もお出かけされるんでしょう?」 はにかんで言うマリアに俺は苦笑いして頷く。 昨日も今日も、同じ相手の家に行くってなんか恥ずかしいけど。 俺には攻略対象も友達もいないから、あいつしか頼れねえんだよ。 「お兄様にお友達ができてほんとよかった!」「あぁ、うん、ありがとう」 マリアはほんと、いい子だよなぁ。 いい人と巡り合って、幸せになってくれればいいけど。 食事のあと、俺は王宮に出かけるマリアを複雑な思いで見送り、出かける準備をした。 今日はエドアルドの家には行かず、大学の自習室に行くことになった。 それは図書館に併設されているらしくって、個室になっているそうだ。 車で大学に着くと、そこそこ人影があった。 学生たちが、図書館へと向かう姿が見える。 図書館の入り口で、十時にエドと待ち合わせることになってるけど、ちょっと早いかな。 そう思って、校舎についている大きな時計を見上げた。 時刻は九時五〇分。いや、ちょうどいいか。 俺はトートバッグを肩に下げ、図書館の方へと向かった。 エドに会うだけなのになんかすっげードキドキする。 今日も課題を一緒にやるってだけなのに。 なんか指先、震えてる。 夏の朝。 じんわりと暑くなってきてるけどそこまでじゃないのはありがたい。 でも俺、なんかすっごい汗、かいてる気がする。 手に溜まった汗を、履いてるズボンで拭いていると、図書館の入り口が見えてきた。 そこに、エドの姿を見つけて、俺は思わず足を早めた。 
last updateLast Updated : 2025-12-02
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19 近づく距離

 自習室を出て、静かな廊下を進む。 なんかこう静まり返っていると、私語、しにくいんだよな。 黙って廊下を歩いて階段を下りると、ちょっとざわめきが響く。 図書館併設のカフェは、さすがに賑わっていた。 人々の話し声と、軽やかな音楽が響いてる。 メニューを見ると、どこかのチェーン店で見るような飲み物の名前が並んでいた。 何飲むかな。 キャラメルカフェシェイカーとかモカシェイカーってなんとかフラペ的な奴だよな。 メニューを見て悩んでいると、エドから声がかかった。「ルカは何飲む?」「んー、甘いのがいいからキャラメルかなぁ」「あぁ、疲れてると甘いの欲しくなるもんね」「エドは?」 メニューを見つめたまま俺が言うと、んー、と呻った声のあと、「アイスカフェオレかな」 って言ってカウンターへと近づいていった。 さっとエドが飲み物とドーナツを注文し、さっさと支払いを済ませてしまう。「あ、金……」 言いながら俺は慌てて財布を出す。 まさか自然と注文と支払済ませるなんて思わなかった。 するとエドは片手ですっと俺を制したかと思うと、さっと俺の前に立って言った。「次会う時に」 そのときに見せた笑みに、思わずどきっとしてしまう。 同じ男なはずなのに。 妖しい光を帯びた紫の瞳に、俺の紅い顔が映っているような気がして思わず目が泳いでしまう。 なんで俺、緊張してるんだ? エドは男なんだぞ。 そう自分に言い聞かせていると、エドがさっと俺の腕を掴んだ。 やばい、掴まれた腕、あっつい。「行こう、ルカ。あっちのカウンターでメニュー、受け取れるって」「あ、う、うん」 頷いた俺は、エドに引っ張られるようにしてメニューの受け取り口に向かった。 使い捨てのカップに入れられたメニューと、紙袋に入ったドーナッツを受け取り、俺たちは図書館の自習室に戻る。「ドーナッツまでいいのかよ?」 言いながら俺は自習室の椅子に腰かける。 窓から差し込む日差しが強くて、カーテンは閉じた。 それだけでけっこう室内、涼しく感じる。 なんかの魔法かな。エアコンはあるわけないし。どういう仕組みなんだろ。 だからかエドが買ったチョコレートのドーナッツは溶けてない。「うん、お腹すいたし」 って言って、エドがニコッと笑う。 確かにちょっと腹は減っている。 でも昼飯にはま
last updateLast Updated : 2025-12-03
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20 甘い罠

勉強して帰宅してからも、なんか俺、ふわふわしていた。 妹のマリアが、王子との勉強会についていろいろと話しかけてくるのを、俺は上の空で聞いていた。 とりあえず、なんか嬉しかったんだなっていうのはわかる。 「来月の、陛下のお誕生日のパーティー、たくさん人が来るって言うから私、いっぱいおめかしするんだー」 と、最後に言っていたっけ。 国王のパーティーは、八月の初めだったよな。 乙女ゲーム的にも大きなイベントなはずだから、マリアにフラグ、たつといいけど。 そう思いたいのに、俺は今、自分の事で手いっぱいだ。 マリアの幸せが、俺がこの世界から抜け出す絶対条件だと思ってた。 でも今は、その結末を望んでるのかわかんなくなってきている。 まだ一年目の夏だってのに。 ひとり、自室でソファーに腰かけてぼうっとお茶のカップを見つめる。 エドの体温。エドの匂い。触れた唇の感触。 思い出すだけで俺、どうかなりそうだ。 思わず自分を抱き締めて、深く熱い息を吐く。 「俺、どうなってるんだよ……」 切ない呟きは、静かな部屋の中に溶けていった。 時間が過ぎ去るのは案外早く、あっというまに試験が始まりばたばたとした日々を送る。 試験の最中もエドとは毎日顔を合わせ、毎日昼を共にした。 互いにあの、図書館での出来事には触れない。 いつもと変わらない笑顔を向けてくるエド。 でも俺は全然いつもの気持ちでいられなかった。 俺、エドに惹かれてんのかな。 んなわけあるかよ。男同士、なのに。 そんな問いかけは延々と俺の頭を駆け巡り、夏休みを迎えた。 夏休みが始まって一週間ほどがすぎた八月の頭。 国王の誕生日がやってきた。 初めて俺たちは、おおやけのパーティーに出席する。 俺は大した準備ないけど、マリアはドレスにアクセサリーと用意が大変だったらしい。 パーティーは夜、六時頃かららしい。 お客様を迎えるために早めに王宮へ出向くように言われてて、昼過ぎには着替えをさせられた。 俺の自室で、侍従たちに手伝ってもらって燕尾服を着る。 なんか緊張するな。 緑がかった金髪は整えられてオールバックにされるし、鏡に映る俺はなんか別人みたいだ。 「本日は、たくさんの貴族の皆さまが集まります。また、ルカ様と
last updateLast Updated : 2025-12-04
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