「蓮司さん。合羽橋にきましたが、川に行きますか? それとも池に行きますか?」到着して早々、桔梗が真顔でそんなことを言うものだから、一瞬だけ思考が止まった。だがすぐに、その問いがさっきまでの会話の延長だと気づく。移動中、ずっと“河童は川にいるのか池にいるのか”という話をしていたのだ。河童といえば川、という印象は強いが、「河童の川流れ」ということわざがある以上、流れのある場所にいるのは逆に不自然ではないか、むしろ流れのない池のほうが生息に適しているのではないか、などと、どうでもいいようでいて妙に真剣な議論を重ねた結果、結局どちらとも言い切れないという曖昧な結論に落ち着いたばかりだった。「……とりあえず、隅田川のほうに向かって歩くか」適当な折衷案を口にすると、桔梗は小さく頷き、すぐにスマートフォンの地図アプリへ視線を落とした。その数秒後、何かに気づいたように「あ」と声を漏らし、こちらへ画面を差し出してくる。「ここ……見てください」指先が示していたのは【曹源寺】という寺の名前だった。そういえば、ここに来るまでの道中、合羽橋の由来として河童の伝説があるという案内板を見かけた記憶がある。この寺には“かっぱ大明神”なるものが祀られているらしい。「……川でも池でもなく、寺か」「はい。河童がいるなら、こういう場所にいてもおかしくないかと」妙に納得したような顔で言うものだから、思わず笑いそうになる。確かに、どこにいてもおかしくない存在だと考えれば、寺にいても不思議ではないのかもしれない。「近いな。寄っていくか」そう決めて歩き出す。合羽橋道具街の喧騒から少し外れた場所にあるその寺は、観光地の近くにありながら、どこか落ち着いた空気をまとっていた。「蓮司さんは、この辺りに来たことはあるんですか?」「いや、この辺りはないな。浅草や上野なら仕事で来ることはあるが」視察や会食、そういった目的で訪れる場所は限られている。こうして何の予定もなく歩くのは、ほとんど初めてだった。「落ち着いた雰囲気のお店が多いですね」桔梗が門の向こうに見える通りを眺めながら呟く。その横顔が、柔らかな光に包まれて一枚の絵のように見えた。無意識にスマートフォンを取り出し、シャッターを切る。画面を確認すると、思った通り、いやそれ以上に綺麗に収まっていた。「蓮司さんって、写真を撮るのが好き
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