「蓮司君」準アトリエを出て、外で庭を眺めていたら、石川先生に呼ばれた。「なぜ、こんなところに?」「トイレの場所が分からなかったので」石川先生に時間が必要だった理由を、俺の理由にする。目元にまだ残る湿り気にも、気づかない振りをする。「君の用事がまだだったね。今度は、こっちでコーヒーを飲みながら話そうか」「そうですね」あの霊廟のようなアトリエにまた足を踏み入れることにためらいがあったので、俺は石川先生の提案を二つ返事で受け入れた。 通いの家政婦だという初老の女性が部屋を出ると、その場は静寂が満ちた。開け放たれた窓から見える庭の景色。机の上で立ちのぼるコーヒーの湯気。時間が流れていることは確かだが、話の切り口に俺は躊躇してしまう。「今日、石川先生を訪ねたのは、写真について相談があったからです」「……写真?」石川先生の目が、警戒したものになる。「写真をお見せする前に、俺がこの写真を手に入れた経緯を説明します」石川先生が静かに頷く。「この写真は、俺の元婚約者である吉川凛花が”脅迫材料”として俺のもとに持ってきました」「脅迫とは……物騒だね」「ええ、物騒でしたのできちんと処理しました。ご安心ください」「桔梗さんと誠司くんに害がなければいいよ」
Last Updated : 2026-02-15 Read more