「まさか……あそこまでするなんてね……」乾いた呟きが、自分の耳にさえ他人事のように響く。あの夜に起きたすべては、偶然でも不運でもなかった。継母である玲子さんと、その娘である異母妹の桜子――中途半端に繋がった家族によって、最初から最後まで綿密に仕組まれていたものだったのだと、今なら分かる。だが、その事実を理解できたのは、すべてを失った後だった。あのときの私は、まだ疑うことを知らなかったし、疑うべき相手が誰なのかも知らなかった。.*.あの夜、私をホテルへ呼び出したのは玲子さんだった。父たちはそのホテルで開かれていたパーティーに参加。三人だけで。場の空気は華やかで、私には縁のない世界だった。午後十時を回った頃、玲子から連絡が入る。 『桜子が酔ったから、部屋に来て介抱しなさい』―――命令のような口調だった。断るという選択肢は最初から存在しない。私はただ「分かりました」と応じるしかなかった。向かうホテルは、名前を聞いただけで緊張してしまうような格式の高さを持っていた。場違いにならないようにと、私は桜子から半ば押しつけられたワンピースに袖を通した。「好みじゃないからあげる」と言われたそれは、確かに私の趣味ではなかったが、普段の自分よりも少しだけ華やかに見える服。アクセサリーは何も持っていないから、せめてといつもより少し濃いメイクを施す。鏡に映る自分は、見慣れた自分とは少し違って見えた。こんな状況でなければ、素直にお洒落を楽しめたのかもしれない―――そんな場違いな感情が、ほんの一瞬だけ胸をよぎった。.フロントで「花嶺です」と名乗ると、何の確認もなく部屋番号を告げられた。その対応の滑らかさに、改めてここが自分の知らない世界なのだと実感する。告げられた部屋は高層階にあり、エレベータを降りて廊下に出た瞬間、その静けさと空間の広さに息を呑んだ。部屋と部屋の間隔が広く、まるで一つひとつが独立した空間のように感じられる。おそらくスイートルームだろうと察しながら、私は内心で苦いものを噛みしめていた。花嶺家は、父の代になってから明らかに傾いている。表向きには取り繕っているものの、実際には家計のやりくりをしているのは私だから知っていた。同じく知っているはずなのに、父も玲子さんも平然と贅沢を重ねる。その矛盾に慣れてしまっている自分が、少しだけ嫌だった。
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