Semua Bab 知らないまま、愛してた: Bab 1 - Bab 10

164 Bab

2.

「まさか……あそこまでするなんてね……」 あの夜の全ては、継母である玲子さんと、彼女と父の間に生まれた桜子の企てだった。    *   あの夜、私をホテルに呼び出したのは玲子さんだった。あの夜、父たちはそこで開かれたパーティーに参加していた。午後十時をまわった頃、玲子さんから「桜子が酔ったからホテルに彼女を介抱しにきなさい」と連絡があった。呼び出された場所は格式高いホテルだったから、桜子が「好みじゃないからあげる」といって押しつけてきたワンピースを着て向かった。宝飾品一つない地味な装いだけど、いつもより濃いメイクをして、いつもと違う雰囲気の服を着て、久しぶりにしたお洒落は私の心を浮きだたせた。 フロントで名前を言えばいいと玲子さんに言われていた。「花嶺」というと部屋番号を教えてくれた。玲子さんのとった部屋はかなり上の階であることに驚き、廊下に出て部屋と部屋の広い間隔にやはりスイートルームかと呆れた。花嶺家は父の代になってから家業の業績がよくなく、家計は私が何とかやりくりしている状態だというのに、父たちの散財は止まらない。 1泊でいくらだろうと思いながらドアのインターホンを押すと、見知らぬ男が扉を開けた。 私が来るまで桜子の介抱をしていた人だと思った。桜子が言うところの『便利なお友だち』、桜子にはそういう男性がたくさんいる。ただ、その男は雰囲気が違った。いつもならもっと派手な、軽薄な雰囲気の男たちなのに、その男は明らかにオーダーメイドの落ち着いたデザインのスーツを着ていた。意外だなと思ったが、無遠慮に頭の上からつま先までを値踏みするように見られて、やっぱり桜子のお友だちだと思った。 「お待たせいたしまし……「遅い」」 突然、その男は私の腕を掴んで部屋の中に放り投げるように押し込んだ。桜子のお友だちには何度か襲われかけたことがあるから、咄嗟に悲鳴をあげようとしたが、男が何もせず、しかも部屋を出たので拍子抜けしてしまった。扉が閉まった瞬間に真っ暗になった。 状況が読めなかったけれど、ただ真っ暗なだけで、男は出ていったから安全だと私は思ってしまった。 そして気を抜いた瞬間、部屋の中から伸びてきた腕に捕まり――私は地獄を味わった。   *  一難去ってまた一難とは、あの夜の私
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-12
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3

父は婚約破棄に際して慰謝料を払うと言ったが、柾さんは慰謝料を拒否し、代わりに桜子との婚約を願い出た。柾さんは由緒ある錦野家の長男。錦野家と花嶺家は以前から付き合いがあり、私と柾さんの婚約は錦野家のほうから打診されたもの。それを受けたお祖父様には先見の明があったに違いない。お祖父様が亡くなって後を継いだ父は当主としての能力がなく、家計はどんどん苦しくなった。お祖母様はお祖父様のあとを追うように亡くなり、傾いていく花嶺家を見なくてすんだのは良かったとお母様が言っていたことを思い出す。いまの花嶺家は錦野家がバックにいるということでなんとか持っているのだ。おそらくそれを柾さんは知らない。だから「代わりに桜子を」と願い出て、父はそれを受け入れた。父は錦野家が家の命綱だと気づいていたのか。いや、多分だが溺愛する娘の桜子がそれを望んだから受け入れたに過ぎないだろう。 物事はあとで振り返るとこうして分かることもある。本当に、冷静であることは重要だ。 あの日、玲子さんと桜子のとても満足気な様子だった。父と柾さんも満足気な様子は同じだったが、あまり覚えていないからもうどうでもよくなっていたのだろう。私があの日二人から目をそらせなかったのは、ただ怖かったから。自分たちの願望を叶えるために、あんなことをしでかす二人が本当に怖かったし、いまも怖い。いままでの稚拙な嫌がらせとはレベルの違う。罪を犯すという倫理を越えた行為は二人の理性の箍を外した。そして、一度箍が外れた人間は何でもする。そのことを私は予感し、怖かったのだと思う。 婚約破棄の後、私は父に謹慎を命じられた。謹慎は、世間体と母の実家である西園寺家の目を気にする父らしい選択である。あのときどうにかして病院にいき、アフターピルを処方してもらえばこうして妊娠することはなかっただろうが、あのときはそこまで考えられなかった。あのときのことを努めて考えないようにして、忘れようとしていたのもある。今となってはタラレバの無駄な考え。 いつまでと言われない謹慎期間だったけれど、すぐに解かれるとは思っていた。あの三人は、なんでも私にやらせていたから。無料で使える便利な家政婦だとあの三人は私を笑っていたけど、私がいなければ何もできない三人はすぐに音を上げた。家事の全てを「そんなこと」と
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-19
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4.

家を出てすぐ、玲子さんからもらった小切手は現金に換えた。花嶺家の資産管理は父も玲子さんも面倒臭がって私に丸投げしていたから、二人の口座にどのくらいのお金があるかを私は把握している。私が要求したのは、あの夜に玲子さんが来ていた服と身につけていた宝飾品をあわせた額。あれを買うとき玲子さんは『このくらいのお金』と軽く考えていた。だからあのときも、玲子さんは『このくらいのお金』という気持ちで小切手にサインしたのだろう。でも『このくらいのお金』を捻出するのに私がどれだけ苦労したのかを知らない。あの家にとってあの額は決してはした金ではない。それどころかかなりの負担になる金額なのだけど……あれから二ヶ月、残高ゼロ円になった口座には気づいているはず。なにで気づいただろう?クレジットカードが利用できなくなったことで気づいたか、どこからの督促状が届いたか……そのときのあの三人の反応が見れないのが少々残念ではある。 あの三人、特に玲子さんは金遣いが荒いから、換金の手続きは急いだ。小切手は玲子さんの銀行口座にその額がないと意味がない。  その資金でウィークリーマンションを借りた。母の生家である西園寺家には心配させたくないし、騒がれたくもなかったから自分から連絡をした。あの夜のことは話していないし、話したくもないから、「家を出て働くことにした」とだけ伝えた。祖父母も、母の弟で現当主の叔父も、あの家で私が受けている扱いを薄々察していたから、「分かった」とすぐに受け入れて、あとは何も言わないでくれた。祖父は西園寺家で暮せばいいと言ってくれたが断った。母の妹である明子叔母とその息子の明広兄さんがまだ西園寺家で暮らしていると聞いたから。あの二人には関わりたくない思い出がある。「自立したいから」と曖昧な答えで祖父の申し出を拒否した。自立の当てもあった。私は友人の華乃に頼み、華乃が代表を務めている会社『コンシェルジュ・ド・ハウス』に家政婦として登録してもらった。 『花嶺桔梗』は都内のお嬢様学校に通い、都内の短大を卒業したあとは遊び惚けているということになっているが真っ赤な嘘である。実際は桜子がその高校に通いたがっていて資金が足りないという理由で県立高校に進学し、大学に行きたかったら自分の金で行けと言われて母の遺産と奨学金で地方の国立大学に進学し、卒業後は年中無
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-12
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5.

「おはよう」朝食の準備をしていると、和美様がリビングの扉を開けて入ってきた。菊乃井和美さん。 私が家政婦をしている菊乃井邸の主人。七十半ばで、家政婦を希望する理由は最近体調を崩されたからだと聞いている。けれど、見た目からは分からない。いつも背筋がすっと伸びていて、気品があり、きびきびと動き回る元気な方だ。いまも起きたばかりなのに、キリッとなさっている。 「美香さん、コーヒーをいただける?」 私は東国美香と名乗り、和美様のお宅で住み込みの家政婦として働いている。せっかく偽名を名乗るのだからと、奇をてらった派手なものにすればいいと華乃は残念がったが、きらきらネームは遠慮したい。 和美様が椅子に座ったところで、コーヒーの準備を始める。イギリス人のお父様を持つハーフの和美様だけど、十年ほど前に亡くなった旦那様の影響で紅茶党からコーヒー党になったらしい。「いい匂いね」コーヒーの匂いが和美様の元まで届いたのか、和美様が表情を緩める。ギャップ萌えという言葉が正しいのか分からないけれど、お顔立ちもあって普段の和美様は厳かな貴婦人に見えるが、こうしてふわりと笑われるとその柔らかい表情にグッときてしまう。 「お祖母様、おはようございます!」 キッチンに戻ろうとしたところで、和美様のお孫様である朋美様がリビングに入ってきた。朝のランニングからお戻りになって、シャワーを浴びたあとなのだろう、まだ髪に湿り気がある。「おはよう、朋美。しっかり髪を乾かしなさい、風邪を引きますよ」「はーい。 美香さん、おはよう」和美様の身だしなみに対するお小言は朋美様にとっては日常茶飯事。サラっと流して私を見る。朋美様の目に籠った期待に、私は嬉しくなる。「おはようございます。もうすぐパンが焼けますので、お席でお待ちください」「やった!」朋美様は喜んでくださったけれど……和美様の眉間に皺が。「今朝は和食をお願いしたことは朋美も知っていたでしょう。合わせなさい。美香さんの手間になるわ」少し目を吊り上げて、和美様が朋美様を叱る。私を気遣ってくださる和美様の言葉。心が温かくなるけれど、私としては問題がない。朋美様がパンを食べたいと仰ったのは昨夜のこと。花嶺家では朝食を並べたあとに「やっぱりパンがいい」と言われて作り直させられ、さらに準備が遅いと文句を言
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-19
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6.

「蓮司が来ているの?」蓮司様も和美様のお孫様で、朋美様のお兄様。ご兄妹のお母様が和美様の娘で、桐谷家に嫁いで次期当主夫人。桐谷家はご兄妹のご祖父様がいまも当主として健在で、ご長男の蓮司様は次の次のご当主ということになる。蓮司様は桐谷グループで専務として、毎日夜遅くまで働いていらっしゃる。同じ御曹司なのに、まだお祖父様が現役だからと遊び歩いている……もとい、社交に精を出す柾さんとは大違い。駄目だわ。柾さんのことを思い出すと、どうしたって悪口が出てきてしまう。 「蓮司は、いつ来たの?」 「昨夜の十二時少し前にいらっしゃいました。寝ているお二人を起こしたくないと仰られたので、お二人に声をかけませんでしたが……」起こしたほうが、良かったのかしら?この菊乃井家の別邸の主人は和美様だ。本邸は息子夫婦に譲った和美様は、ここで、ご本人曰く『気楽な隠居暮らし』をなさっている。私が来るまでは通いの家政婦さんがいたそうだけれど、和美様が体調を崩されて、夜の間に何かあったら心配ということで、住み込みで家政婦ができる私が派遣されることになった。「いいえ、美香さんの判断で問題ないわ。起こされてもまた眠るだけだから」和美様が、気遣ってくださる。「美香さん、今後も同じようなことがあったら……夜十時を過ぎたら、うちのことは何もしなくていいわ」「でも……」「孫たちはここの鍵も持っているし、勝手に入ってくるでしょう。逆にごめんなさいね、そんな時間に対応させてしまって」「いえ、十時少し前に蓮司様からご連絡をいただいたので、全く困ることはありませんでした」全く困ることはなかったのだけど、なぜか和美様は大きな溜め息を吐かれた。  「お兄、すっかりここに入り浸っているよね」「同じく入り浸っている朋美だけは言われたくないでしょうけれど……あの子はまだ寝ているの?」 「昨夜は、朝まで残りそうなほどお酒を飲まれたそうです」桐谷家といえば旧財閥家で、いまも政界や経済界に影響力をもつ名家。お付き合いが大変なのだろう。花嶺家にとって、桐谷家はとてもではないけれどお近づきになれない、雲上の存在。だから蓮司様を初めてここで見たときは、ニュースで見た顔とそっくりだと驚いてしまった。本人だから当たり前なのだけれど。それにしても、ご縁とはどこで繋がるか分からな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-12
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7.

吉川凜花様とは何度かお会いしている。吉川凜花様は、どこか桜子を彷彿させる雰囲気があって、怖いという気持ちが出てしまっているのか、毎回上手く対応できていない。「さっき朋美が血相を変えて二階にいったけれど、さっきの電話は凛花さんかい?」 頷くと、和美様は朝食を早めに用意してほしいと仰った。騒がしくなる前に食べてしまおう。そういうことらしい。   *  「おはよう」テーブルに食事を並び終えたところで、蓮司様が朋美様に連れられてリビングにいらっしゃった。蓮司様のお顔が疲れてみえるのは、昨夜のお酒が残っているからかしら。それとも、朋美様に叩き起こされて、多分だけど、愚痴を聞かされたからか。「お兄、美香さんに謝りなよ」謝る?「美香さん、昨夜は、申し訳ない」「いいえ、体調は大丈夫ですか?」「大丈夫だ、ありがとう」良かったとは思うけれど、顔色は悪い。一晩たったが、万全ではないのだろう。「言い訳になるが、昨夜はかなり飲んで……その、飲んでいる途中からの記憶が曖昧なんだ」そうだったのね。そんな雰囲気はなかった。蓮司様は、酔っ払っていらっしゃってもキビキビしていらっしゃった。「昨夜、俺は何をした?」……え?「十時ごろに連絡を下さり、深夜近くになるけど待っていてほしいと仰られました」「……そうか」蓮司様が、俯いた。「十二時頃、いつもの方が運転する車でここにいらっしゃいました。足取りがしっかりしていらっしゃったので、不調に気づかなくても申し訳ありませんでした」どう見ても、蓮司様は項垂れていらっしゃる。「いや……それからは?」「運転手の方に朝九時に来てほしいと仰られて、いつもご利用なさっている客間にいかれたあと着替えてリビングにいらっしゃりスーツとワイシャツを頼むと。ワイシャツは洗濯し、アイロンを掛けてありますので食事のあとでお渡しいたします」「……ありがとう……そのくらい、だろうか?」他には……。「蜆の味噌汁がお飲みになりたいと仰いました」「……蜆の味噌汁」蓮司様の目がテーブルの上の彼の分の朝食に向かう。和美様の味噌汁と見比べていらっしゃるけれど、和美様は野菜たっぷりの味噌汁が飲みたいと仰っていたので蓮司様の分とは違う。「……すまない」「いいえ、本当にそんなにお気になさらないでください」花嶺家では深夜だろうと明け
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-19
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リビングに向かうと、戸口に吉川様が立っていらっしゃった。「凛花さん、騒々しいですよ」和美様の言葉に、なぜか吉川様は私を睨む。……「桜子二号」と心の中で呼ぼうかしら。 「おはようございます、蓮司さん」気を取り直したのか、弾んだ声を出す吉川様。いいことがあったのか、とても機嫌がよさそうだ。「おはよう」蓮司様の淡々とした返事に、吉川様はパッと明るい表情をなさった。 朋美様の愚痴によれば、吉川様は朋美様たち兄妹とは幼い頃から面識があったとのこと。俗にいう幼馴染という奴だと思うが、朋美様はお認めにならない。「面識がある」「知人」止まり。吉川様は幼い頃に蓮司様に一目惚れをして以来、朋美様曰く「ずっと付きまとっている」とのこと。朋美様によると、蓮司様に付きまとってきた女性は、吉川様一人だけではない。想像がつく。吉川様は、蓮司様に近づく女性を片っ端から追い払っていたそう。想像がつく。吉川様のなさったことは、蓮司様にとっては実害でなかった。逆に、邪魔だ迷惑だと思っていた女性たちを吉川様が自動的に追い払ってくれるのだから、吉川様を便利だとさえ思っていたらしい。どんな思惑があれ、蓮司様は吉川様が傍にいることを黙認していた。それは、吉川様にご自分が「蓮司様の特別」だと勘違いさせる原因になったと朋美様は仰っていた。 お年頃になると、吉川様はお父上を通して蓮司様との婚約を打診。それに対して蓮司様は「その気はない」とお断りになった。それでも吉川様はめげず蓮司様の傍にいて、定期的に婚約を打診しては蓮司様に断られるということを繰り返していた。吉川家との結婚は桐谷家にとって、一般的な情報から判断するに悪い縁組ではない。しかし、例の和美様の目が「蓮司に凛花さんは合わない」と判断したので、桐谷家側は二人の結婚はなしだと思っていた。それでも、吉川家からの打診はずっと続いていた。桐谷家側は蓮司様が自分で断るだろうと思っていたし、実際に蓮司様はご自分でお断りになっていた。しかし二ヶ月ほど前、蓮司様はご両親に「吉川様と結婚する」と仰られた。桐谷家を筆頭に親戚一同大パニック。和美様の目は、科学的根拠はなくとも約五十年の実績はあるため、一族にとっては決して無視できない。蓮司様の宣言を真正面から聞いたご両親は「全くその気はないと言っていたじゃないか」と
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-15
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和美様の言葉に吉川様は戸惑ったあと、私を睨んだ。……睨まれても、これが仕事。思うところはあるのだけれど、こういうときに反論しても無駄だということは桜子たちで学んだので黙っておくことにしよう。「こんな素人の作った料理なんかより、お店のもののほうが美味しいのに」それは、そうだと思う。でも……。「私が何を食べるかは、私が決めます。食べたいものは、美香さんにお願いします」「でも、せっかくなのに……」吉川様の目に涙が浮かぶ。……残念ながら、この涙を本気にしている人はこの場にいない。涙は女の武器だというけれど、男性の蓮司さんにも効いていない模様。「食事くらい好きにさせて。それとも、私はあなたが認めたものしか口にしてはいけないの? それは随分と、まあ、傲慢……」「祖母さん」蓮司様が割り込むように口を挟んだ。「……何かしら?」「このあと、話したいことがある」「……分かりました。時間を作りましょう」蓮司様の言葉を、和美様は了承した。これで、一件落着……。「蓮司さん、せっかくだから、ここで報告しましょうよ」……吉川様、先ほどまで泣いていたのでは?本当に、桜子によく似ている。「凛花」蓮司さんは凛花さんを諫めるように見た。そして、そのまま私を見る。……なるほど、ご家族での話なのね。「和美様、食後の飲み物を準備してまいります」「そうね、人数分のコーヒーを用意して頂戴」和美様の言葉にキッチンに向かおうとしたところ、「家政婦さん」と吉川様が呼び止める。「家政婦さんも、ここにいてほしいわ」私を呼び留めたけれど、吉川様が甘えた声でそう蓮司様に強請った。和美様の顔が強張る。……他人の家の事情に口を挟むつもりはないけれど、私を雇っているのは和美様。私を雇っているのは蓮司様ではないため、吉川様のおねだりは和美様にとっても不快だし、正直私も気分が悪い。「凛花」「いいじゃないですか、蓮司さん。嬉しいことなのですから……こういうことは、みんなでお祝いしないと」そう言いながら、吉川様は自分のお腹に両手をあてた。 !それは、妊娠している女性特有の仕草。私にもその意味が通じたのだから和美様と朋美様も当然お分かりになって……唖然として、いらっしゃる。 「もちろん、蓮司さんの子どもですよ。家政婦さんも、喜んでくれますか?」……どうしてそん
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-19
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10

「美香さん、明日もまた人が来ることになったの」電話を終えた和美様が、困ったような顔をした。「お休みの予定のところ大変申しわけないのだけれど、また対応してもらえないかしら。もちろんその費用も、色をつけてお支払いするわ」「分かりました。大丈夫です」和美様の言葉にそう答えつつも、産婦人科の予約をいつに変更するかと考える。「ごめんなさいね」「本当に大丈夫です。大した用事もないので」吉川様の妊娠報告から約一ヶ月。ずっとこんな調子が続いている。そして、この一ヶ月は、私が産婦人科に行くのを先延ばしにしてきた時間でもある。先延ばしの口実を作るために仕事を引き受けているようなもの。でも、それには気づかない振りをして、ズルズルと確認を先延ばしにして現実から逃げている。 「お祖母様、明日は誰が来るの?」この一ヶ月、朋美様はこの別邸に滞在していらっしゃる。それまでもこの別邸にいらっしゃることが多かったけれど、それでも週に数日は桐谷家の本邸にお戻りになっていた。それが、この一ヶ月は入り浸り。蓮司様の婚約を知った親族の方々がひっきりなし桐谷本邸に確認に来て、それから始まる騒ぎが煩くて落ち着かないとのこと。「明日は、武美よ」「武美ちゃんかあ。吉川凛花と、相当派手にドンパチしたんだろうね」「そうみたいよ」「武美ちゃんって気が強いし、昔から吉川凛花のこと大嫌いだったもんね」「朋美、それは鏡で自分を見てからおっしゃい」和美様のツッコミのような迅速で的確な返答に、思わず笑ってしまいそうになった。 「来るのは武美ちゃんだけ? 武司兄さんは?」「武司は来ないわ」「そう言えば、最近全然武司兄さんを見ないね」「ここ三ヶ月くらい、ずっと海外にいるみたいよ。武美は帰国したばかりだからまだ家がないし、実家から春樹と唯花さんと一緒にくるのではないかしら。美香さん、お客様は三名で考えていてもらえる?」「畏まりました」今度は、どんなご親族なのだろう。「武美ちゃんが玄関潜った瞬間から騒がしくなるよ」「そうね。おそらく第一声は――」 「大叔母様、アレは蓮司ではありません。蓮司の振りをした何かです」「みたいなこと言うかなと思っていたけれど……一言一句同じことを言われると複雑だわ」武美様の第一声は、和美様の予想通り。和美様の複雑そうなお声に、思わず笑ってしま
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-16
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