「まさか、あそこまでするなんて……」自分しかいない部屋の中。乾いた呟きは、自分でさえ他人事のように聞こえた。.あの夜に起きたことは、偶然でも、不運でもなかった。仕組まれていた。そして仕組んだのは継母の玲子さんと、その娘で異母妹の桜子。家族なのに、と裏切られたようにも思う。同時に、中途半端に繋がっていたのが良くなかったのだろうと諦めている。でも、それらは全て、いまにして思えばの話。あのときは何も感じなかった。二人が仕組んだとも思わず、ただ巻き込まれただけの、自分の不運だと思った。何を疑うべきかも分からず。ただあの男から逃げること、家に着けば安心できると、それだけを考えていた。◇◇◇『すぐに来なさい』名乗りもせず、命令から始まった電話。玲子さんからだと画面に表示されていたから、無駄なことをせず黙って聞いた。桜子が酔ったから。パーティー会場のホテルに部屋をとった。父と玲子さんも参加していたではないか。そのまま桜子の面倒をみればいい。言いたいことはいくらでもあったが、黙って聞いていた。玲子さんとの話は会話ではない。命令で、断るという選択肢は存在しない。私は応じるしかない。向かったホテルは、名前を聞くだけで緊張してしまうような格式の高い場所。場違いにならないように、桜子が気に入らないと言って寄越したワンピースを着ていた。あのときの私は、少し浮かれていたように思う。桜子のお下がりのワンピースは私の好みでもなかったけれど、普段と違う華やかさに心が浮き立った。アクセサリーはないからと言い訳をして、いつもより少し濃いめにメイクした。.「花嶺です」フロントで名乗ると、向こうはすでに事情を聞いていたのだろう、何の確認もなく部屋の番号を教えられた。教えられた部屋は高層階。エレベータを降りて、廊下の静けさと広さに息を呑んだ。部屋と部屋の間隔は広かった。スイートルームを取ったのだと分かって、悔しさのような、苦いものを噛んだ。花嶺家にはもう、何の計画もなく高級ホテルのスイートルームに泊まれるような余裕はないのに。父は、花嶺家がお金に困ることなんて一度もなかったとよく自慢していた。それが事実だということは知っていた。それと同時に、父の代になってから急激に傾き、今では必死に取り繕わなくては『資産家』の顔をできないことも
Huling Na-update : 2026-04-27 Magbasa pa