……嫌だ。嫌だ。やめて。痛い。やめて。放して――。 「いやああああああ!」突き飛ばされるような感覚で目が覚めた。咄嗟に自分の体に触れて、パジャマを着ていることにホッとすると同時に泣きたくなる。 あの悪夢のような夜から二ヶ月。忘れるべきだと自分に念じていたことが功を成したのか夜への恐怖心は少しだけ薄まり、少しだけ寝られるようになったのに……。「なんで……こんなことに……」 ずっと生理がきていなかったから“もしかして”と思った。 心当たりもあった。 ネット通販で妊娠検査薬を取り寄せた、念のために二本。朝、一本検査をして陽性だった。間違いに違いないって、祈るような気持ちで、二本目の検査をしたのに結果は陽性……妊娠、している。 思い出すのは、新月の夜の、真っ暗な部屋の中でのこと。乱暴に下着をおろす大きな手。 獣のような荒い呼吸。逃げようにも男の力には適わず、「煩い」とただ一言でふさがれた口からは助けを求める声も出なかった。 なにをされるか分からない子どもではない。必死に抵抗するものの、足が開かれ、乱暴に男は押し入ってきた。 そこから先は、ただ痛く、苦しかった。無理やりの行為はただ痛く、口を塞がれて満足に呼吸をできず、力づくで押し込まれるものに体の中がぐちゃぐちゃにされ、息苦しさと激痛に意識が遠のいた。意識が辛うじて保たれていたのは、逃げたいという本能が残っていたからだろう。長い間揺さぶられ続けて体の感覚が麻痺しても意識は飛ばず、体の中に男の精が放たれる気色悪い感覚を何度も味わった。 満足したのか男が意識を失うように倒れ込み、やがて寝息が聞こえてきた。その瞬間に沸き上がったのは憎悪、私を凌辱した男を殺してやりたいと思った。でも人を殺すなんて今まで考えたことなく、中途半端な行為で男を起こしてしまうことのほうが怖かった。奪われてどこにあるかも分からない下着を暗闇の中で探すことは諦め、汗を吸って冷たくなった服は気持ち悪かったけれどなんとか身なりを整えて、全てをコートで覆い隠した。逃げ出す直前、扉の前に落ちていた自分の鞄を蹴飛ばしたのは、運がよかった。
Terakhir Diperbarui : 2025-12-12 Baca selengkapnya