Semua Bab 知らないまま、愛してた: Bab 1 - Bab 7

7 Bab

1.

……嫌だ。嫌だ。やめて。痛い。やめて。放して――。 「いやああああああ!」突き飛ばされるような感覚で目が覚めた。咄嗟に自分の体に触れて、パジャマを着ていることにホッとすると同時に泣きたくなる。 あの悪夢のような夜から二ヶ月。忘れるべきだと自分に念じていたことが功を成したのか夜への恐怖心は少しだけ薄まり、少しだけ寝られるようになったのに……。「なんで……こんなことに……」 ずっと生理がきていなかったから“もしかして”と思った。 心当たりもあった。 ネット通販で妊娠検査薬を取り寄せた、念のために二本。朝、一本検査をして陽性だった。間違いに違いないって、祈るような気持ちで、二本目の検査をしたのに結果は陽性……妊娠、している。 思い出すのは、新月の夜の、真っ暗な部屋の中でのこと。乱暴に下着をおろす大きな手。 獣のような荒い呼吸。逃げようにも男の力には適わず、「煩い」とただ一言でふさがれた口からは助けを求める声も出なかった。 なにをされるか分からない子どもではない。必死に抵抗するものの、足が開かれ、乱暴に男は押し入ってきた。 そこから先は、ただ痛く、苦しかった。無理やりの行為はただ痛く、口を塞がれて満足に呼吸をできず、力づくで押し込まれるものに体の中がぐちゃぐちゃにされ、息苦しさと激痛に意識が遠のいた。意識が辛うじて保たれていたのは、逃げたいという本能が残っていたからだろう。長い間揺さぶられ続けて体の感覚が麻痺しても意識は飛ばず、体の中に男の精が放たれる気色悪い感覚を何度も味わった。 満足したのか男が意識を失うように倒れ込み、やがて寝息が聞こえてきた。その瞬間に沸き上がったのは憎悪、私を凌辱した男を殺してやりたいと思った。でも人を殺すなんて今まで考えたことなく、中途半端な行為で男を起こしてしまうことのほうが怖かった。奪われてどこにあるかも分からない下着を暗闇の中で探すことは諦め、汗を吸って冷たくなった服は気持ち悪かったけれどなんとか身なりを整えて、全てをコートで覆い隠した。逃げ出す直前、扉の前に落ちていた自分の鞄を蹴飛ばしたのは、運がよかった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-12
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2.

「まさか……あそこまでするなんてね……」 全ては継母である玲子さんと、彼女と父の間に生まれた桜子の企てだった。    *   あの夜、私をホテルに呼び出したのは玲子さんだった。あの夜は私を除く家族三人がそこで開かれたパーティーに参加していた。午後十時をまわった頃だろうか、玲子さんから桜子が酔ったから彼女を介抱するようにと連絡がきた。あそこは格式高いホテルだったから、桜子が「好みじゃない」といって押しつけてきたワンピースを着て向かった。宝飾品一つ付けず地味な装い。でも、いつもより濃い目の化粧をして、いつもと違う服を着て、久しぶりにしたお洒落は私の心を浮きだたせた。フロントで「花嶺」というと、ホテルマンが部屋番号を教えてくれた。エレベータに乗ってその部屋がかなり上の階であることに驚き、廊下に出て部屋と部屋の広い間隔にスイートルームをとったのかと呆れた。花嶺家は父の代になってから家業の業績がよくなく、家計は私が何とかやりくりしている状態だった。一拍いくらだろうと思いながらドアのインターホンを押すと、見知らぬ男性が扉を開けた。 私が来るまで桜子の介抱をしていたのかと思った。桜子にはそういう『お友だち』がたくさんいることは知っている。ただいつもならもっと派手な、軽薄な雰囲気の男たちなのに、その男は明らかにオーダーメイドの落ち着いたデザインのスーツを着ていて、意外なタイプの『お友だち』だとは思ったが、無遠慮に頭の上からつま先までを値踏みするように見られて、やはり桜子の『お友だち』だと思った。 「お待たせいたしまし……「遅い」」 突然、その男は私の腕を掴んで部屋の中に放り投げるように押し込んだ。桜子の『お友だち』には何度か襲われかけたことがあるから、咄嗟に悲鳴をあげようとしたが、男が部屋を出たので拍子抜けしてしまった。扉が閉まった瞬間に真っ暗になった。 状況が読めなかったけれど、ただ真っ暗なだけで、男は出ていったから安全だと私は思ってしまった。 そして気を抜いた瞬間、部屋の中から伸びてきた腕に捕まり――私は地獄を味わった。 一難去ってまた一難とは、あの夜の私のためにある言葉だと思う。 タクシーに乗って花嶺家に帰ったまでは良かった。全てを忘れようと思いながら自室に向かう途中、待ち構えていたように玲
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3.

玲子さんからもらった小切手は早々に換金した。花嶺家の資産管理は父も玲子さんも面倒臭がって私に丸投げしていたから、二人の口座にどのくらいのお金があるかは把握している。私が要求したのは、あの夜に玲子さんが来ていた服と身につけていた宝飾品をあわせた額。玲子さんは『このくらい』という気持ちで小切手にサインしたのだろうが、『このくらい』を捻出するのに私がどれだけ苦労したのかを知らない。今この瞬間に自分の銀行口座の残高を見て悲鳴をあげているかもしれないと思うと少しだけ溜飲が下がる思いだ。 その資金でウィークリーマンションを借りた。母の生家である西園寺家には、心配させたくないし、騒がれたくもなかったから自分から連絡をした。あの夜のことは話していないし、話したくもないから、「家を出て働くことにした」とだけ伝えた。祖父母も、母の弟で現当主の叔父も、あの家で私が受けている扱いを薄々察していたから、「分かった」とすぐに受け入れて、あとは何も言わないでくれた。祖父は西園寺家で暮せばいいと言ってくれたが、母の妹である明子叔母とその息子の明広兄さんがまだ西園寺家で暮らしていると聞いて、「自立したいから」と曖昧な答えで祖父の申し出を拒否した。自立の当てもあった。私は友人の華乃に頼み、華乃が代表を務めている会社『コンシェルジュ・ド・ハウス』に家政婦として登録してもらった。 『花嶺桔梗』は都内のお嬢様学校に通い、都内の短大を卒業したあとは遊び惚けているということになっているが真っ赤な嘘である。実際は桜子がその高校に通いたがっていて資金が足りないという理由で県立高校に進学し、大学に行きたかったら自分の金で行けと言われて母の遺産と奨学金で地方の国立大学に進学し、卒業後は年中無休で家族の世話に追われていた。いや、年中無休で家族の世話をしていたのは中学生のときからだったわ。 華乃とは同じ大学の同じ学部で、学生専用アパートの隣同士。利害が一致して後半の二年間はルームシェアをしていた。母一人子一人で育った華乃は、母親が家事と育児に苦労してきたのを見て育ったため、大学在学中に下準備をし、卒業早々に『コンシェルジュ・ド・ハウス』を立ち上げた。アイデアを提供したことと、西園寺家経由で上流社会の顧客を紹介してきたことから、『嶺桔梗』が副社長とはなっている。会社にいった私を華乃は歓迎
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4.

「蓮司が来ているの? いつ来たの?」「昨夜の十二時少し前にいらっしゃいました。寝ているお二人を起こしたくないと仰られたので……」……起こしたほうが良かったのかしら?「お兄、ここに入り浸ってない?」桐谷蓮司様は和美様のお孫さんで、朋美様のお兄様。お二人のお母様が和美様の娘なので、和美様は菊乃井姓で、朋美様たちは桐谷姓が違う。桐谷家といえば旧財閥家で、いまも政界や経済界に影響力をもつ名家。花嶺家ではお近づきになれずニュースで知る程度だったけれど、本当にご縁とはどこで繋がるか分からない。「朋美に言われたくないでしょうけれど……あの子はまだ寝ているの?」「朝まで残りそうなほどお酒を飲まれたそうです。九時にお迎えの車が来ると伺っております」「……朝食も食べていくってことかしら?」「ご用意しておりま……失礼いたします」キッチンで電話の鳴る音が聞こえたので、私は和美様と朋美様に断りを入れてキッチンに急いだ。「はい、菊乃井でございます」『蓮司さんはそこにいらっしゃる?』吉川様?「はい、いらっしゃいます」……ん? 切れた?「美香さん、どうしたの? 悪戯電話?」「朋美様……吉川様からのお電話でした。蓮司様はこちらにいるか、と」「……お兄を叩き起こしてくるわ」朋美様の形相に、思わず苦笑しか出てこない。吉川凛花様は蓮司様の一応ご婚約者。「一応」なのは和美様が御許しになっていないからだと聞いている。菊乃井姓の和美様の決定が桐谷家に影響するのは、和美様が桐谷家ご当主のお姉様だから。朋美様と蓮司様のご両親は従兄妹の間柄で、桐谷家ご当主様は姉である和美様に頭が上がらず、次期ご当主である朋美様たちのお父様は伯母であり義母でもある和美様に頭が上がらないとのこと。そんなことをなぜ私が知っているのかと言えば、吉川様との婚約を反対している朋美様の愚痴の捌け口となっているからに他ならない。朋美様は吉川様を苦手にしている……というより、お嫌いだ。吉川様は蓮司様の秘書をなさっているので、蓮司様をお迎えにきたときに対応しているけれど、どこか桜子や玲子さんを彷彿させる雰囲気があって毎回腰が引けそうになってしまう。「朋美が血相を変えて二階にいったけれど、さっきの電話は蓮司の秘書かい?」「はい。朝食の準備をしてもよろしいですか?」「そうね。騒がしくなる前に食べて
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5.

「おはようございます、蓮司さん」 ご機嫌な吉川様とは対照的に淡々と「おはよう」と返す蓮司様はいつも通り。朋美様の愚痴によれば、吉川様はお二人のお父様のご友人の娘で、朋美様たち兄妹とは幼馴染という間柄。吉川様は蓮司様にずっと付きまとっているとのことだが、「付きまとっている」というのは朋美様の主観で、吉川様は蓮司様にずっと恋心を抱いていたのかもしれない。どちらにせよ、蓮司様にその気はなかったらしく、今まで全くその気のなかった蓮司様の突然の心変わりは朋美様にとって不思議で仕方がないらしい。天地がひっくり返ってもあり得ない、とまで仰られていたけれど、男女のことに「あり得ない」はなかなかない。あり得ないと思っていた男女が恋愛関係に発展するなどドラマや小説ではありふれている。 「蓮司さん、お祖母様に言ってくださった?」「まだだ」 蓮司様が私のほうを見た気がしたけれど……気のせいかしら?「昨夜ここに来たのは遅くて、祖母さんたちは寝ていたからな」「それなら、私と一緒にこうして朝ここに来ればよかったではありませんか……どうして昨夜のうちにここへ?」「会社からは家よりここのほうが近いし、昨夜はかなり飲んでいた」「どうしてそんなに? 誰と飲んでいたのですか?」吉川様がヒートアップしてきたところで、和美様が大きく息をついて二人の会話をお止めになった。 「朝から何の騒ぎです。言い争いなら他でやって頂戴」黙る蓮司様とは対照的に、吉川様はにこりと笑って「申しわけありません、お祖母様」と仰った。「凛花さん、ここは私の家よ。私の孫でもないのに勝手に来て、私の許しもなく入ってこないで頂戴」和美様の言葉に吉川様の笑顔が固まったものの、「でも」と吉川様は仰って持ってきた紙袋を和美様にお店になった。 「お祖母様に美味しいパンをお持ちしました。うちの近くにあるとても人気のお店のパンで、特別に……「結構よ」」吉川様の言葉を和美様が静かに遮る。「見て分からないかしら、私はもう朝食を終えるところよ。それは貴女がお食べなさい」「そんな……」「あと、今後のために言っておきますが余計な気遣いは結構です。私の食事は美香さんが準備してくれているの。突然やってきて親切を押しつけられても迷惑だわ」和美様の言葉に吉川様は戸惑ったあと、私を睨んだ。睨まれてもこれが仕事なのだけど……
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-15
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6.

「美香さん、明日もまた人が来ることになったの。お休みの予定のところ大変申しわけないのだけれど、また対応してもらえないかしら。もちろんその費用も、色をつけてお支払いするわ」和美様の言葉に大丈夫と答えつつも、産婦人科の予約を次はいつにするかと考える。「ごめんなさいね」「本当に大丈夫です……大した用事でもないので」妊娠検査薬で陽性が出てから約一ヶ月、ずっとこんな調子が続いているけれど……また予定が延びてしまったことに、どこか安堵している。でもそれには気づかない振りをして、忙しいのだから仕方がないと仕事を言い訳にしている。だめね、現実から逃げてしまっている。 「お祖母様、明日は誰が来るの?」吉川様がここにきて妊娠を発表して以来、朋美様はこの家に滞在していらっしゃる。それまでもこの家にいらっしゃることが多かったけれど、それでも週に二、三日は家にお戻りになっていた。それがこの一ヶ月はゼロ。蓮司様の婚約を知った親族の方々がひっきりなしに来るから落ち着かないと仰っている。「武美よ」「武美ちゃんかあ……相当派手にドンパチしたんだろうね。武美ちゃん、気が強いし昔から吉川凛花のこと嫌いだったもんね」「朋美、鏡で自分を見ておっしゃい」和美様のツッコミのような迅速で的確な返答に、思わず笑ってしまいそうになるのをグッと堪えた。 「来るのは武美ちゃんだけ? 武司兄さんは?」「武司は来ないわ。三ヶ月くらい前に海外に行ってまだ帰ってきていないそうよ。武美は帰国したばかりだからまだ家がないし、実家から春樹と唯花さんと一緒にくるのではないかしら。そして、おそらく第一声は――」 「大叔母様、アレは蓮司ではありません。蓮司の振りをした何かです。本物の蓮司は地球外生命体にでも拉致されたんです」 「みたいなこと言うかなと思っていたけれど……一言一句同じことを言われると複雑だわ」
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7.

「は~、すごいわ。お祖母様が美香さんを気に入るわけよね……いや、最近は他の人も美香さんのことが好きな気がする。そうだよね、お兄の婚約のことを愚痴りにきたはずなのに、帰るときは全員揃って何が美味しかったとか今度は何を食べたいとか……実際に、あれから三日と開けずに来ている人もいるし」「蓮司様のご婚約はご親族が集まるキッカケになったのですね」「まあ、そういう言い方もあるかな……まあ、これから来るイトコたちはある意味本番の人たちだよ。私から見てもお兄に対する忠誠心が強いというか、DNAにお兄の名前が彫られているんじゃないかってくらいお兄ラブなんだよね」「それでは武美様も?」「武美ちゃんは中の下、かな。武美ちゃんの弟、お兄と同じ年の武司兄さんがお兄激ラブだから、武美ちゃんはちょっと引いている感じ」ちょっと引いている感じで中の下なのね……。「お祖母様もそんな感じでみんなに慕われているし、うちって一代に一人ずつそう言う人が生まれるんじゃないかな」「成程」蓮司様を中の下レベルで慕っている武美様は蓮司様の二歳上で、昔から自分の目が黒いうちは蓮司にいい加減な嫁は認めないと仰っていたらしいけれど――。「武美様の目の色は、先ほど見た感じでは緑色のようでしたが?」「ヘーゼルアイだった曾祖父様の影響だね」「ヘーゼルアイ?」「青色とか茶色って単色ではなくて、茶色や緑色が混じった変わった色の目のことだよ。昼間の外だと緑色が濃く見えて、薄暗い場所だと茶色っぽく見えるの」「お詳しいですね」「お父様がそうだから」隔世遺伝ということなのだろうか。そう考えると、吉川様のお腹にいらっしゃるお子様ももしかしたらヘーゼルアイかもしれないということね……あら……いま、私、なんて……なんで、羨ましいなんて……。 
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