「もう一年先になるけれど、ナターシャに関しては高校卒業は“いいこと”だと思うわ」「母さん?」「高校の場合、学校生活が世界のほぼ全てで、噂や嫉妬が生まれやすいし、価値観が似た者同士が集まりやすいから序列も生まれやすいわ」 母さんによると、大学生になれば、自分のコミュニティが学部・サークル・バイトなど複数に分散し、大学によっては全国から人が集まるため、価値観が多様になる。「高校生ほど、ナターシャの違いは悪目立ちしなくなるし、誰それと付き合いがあるなんて噂も高校生ほど強く影響しないわ」母さんは、言葉をいったん区切る。「世界が広がれば広がるほど、違うことへの周囲の目の影響は弱くなる。だから、ナターシャにとっては世界が広ければ広いほうがいいと、私や華乃たちはどう思ったの」「だから、折々舎にナターシャを紹介したの?」「そうよ。華乃たちはナターシャが周りの目を気にしすぎてしまっていることを、とても心配していたから」「それは、俺のせい?」「そうじゃないとは、言わないわね。恋愛は、戦いだし、桐谷家のことを考えるとどうしたって利権が絡んでくるから“子どもの恋愛”で片付けられるわけではないでしょうから」父さんが頷く。「何人か彼女を適当に作っておけば別だったが、誠司の場合はそういう相手がゼロなせいでナターシャはよけい目立つからな」「……父さん」母さんの目が怖い。父さん、学生時代は適当に遊んでいたみたいな発言しちゃっていることに気づいていないのか?「先のことを考えれば、いい加減なお付き合いをしていないことはとてもいいことよ」母さんが、笑いながら俺のコップに水を足す。「元カノですって女性と会うたびに、火花を散らさなければいけなくなるもの」「き、桔梗?」失言に気づいた父さんだけど、かなり遅い。母さんは笑いながら、目は全く笑っていないけれど、父さんのグラスに水を注ぐ。ドバドバと、零さんばかりの勢いなのに、表面張力で盛り上がった絶妙なところで止めるテクニックがすごい。「どうぞ、お水です」「あ、ありがとう」「いいえ。連日連日、夜遅くまでお仕事お疲れ様です。明日も、また遅くまでお仕事なんですよね」……なるほど。大きなプロジェクトが動きはじめたから最近の父さんの帰宅が遅いが、その仕事の相手が父さんの元カノということか。父さんが元カノと仕事をするこ
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