「なんだ、この絵……お前が描いたのか?」思わず口をついた俺の言葉に、画集を見ていた朋美は露骨に眉をひそめ、ため息まで添えて呆れた顔をした。「そんなわけないでしょ。石川明梗の作品。彼の代表作で、人間国宝にまで推す声が出た『四連花』よ」朋美がページを指先で軽く叩く。その仕草には説明以上の熱があり、しまったと思った。朋美は美大生だ。色や構図の話を始めれば止まらないタイプで、正直なところ、俺にはその半分も理解できていない。美術に関しては、教科書で習った程度の知識しか持ち合わせていない。良し悪しの基準が時代や評価者によって変わるという話も、理屈としては分かるが、どうにも腑に落ちない部分がある。時代で変わるくせに、名画と呼ばれるものはなぜ今も名画なのか。結局は誰かの価値観のに振り回されているのではないかと考えてしまう。一度それを朋美に言ったら「屁理屈」で片づけられた。そんな俺でも、画面に視線を戻したときには言葉がこぼれた。「……きれいな絵だな」その一言に、朋美は待っていたと言わんばかりに口角を上げた。「ほらね、お兄でもそう言うと思った」得意げな声音が少し癪に障る言い方だ。「それでね、石川明梗先生に会ってみたいんだ」「なぜそれを俺に言う?」即座に返すと、朋美は当然のように肩をすくめた。「桔梗さん、今度石川先生にお会いするでしょ?」桔梗と石川先生。もしかしてあの医師が石川明梗なのかと朋美に確認すれば、そうだと言われた。「それなら、桔梗に一緒に連れていってくれと言えばいいだけだろう」「そんなことしたら“ミーハーな子”だって桔梗さんに思われるじゃない?」「いや、ちょっと待て……」「これを機に、お兄が妹想いだって桔梗さんは思うはず。ここで私のお願いを無視して、私が狭量だと桔梗さんに愚痴ったらお兄の株は急降下するからね」俺はこめかみを押さえながら、ため息を飲み込んだ。面倒臭い。桔梗のことだから朋美が頼めば同好の士として歓迎するだけだろう。俺の株は関係ないのではないか?.案の定、桔梗は二つ返事で了承し、朋美からは感謝の形で石川明梗の画集が渡された。あくまでも貸すのだと十回くらい念を押された。嵐が去ったあと、気になって検索窓に「石川明梗」と打ち込む。表示された結果を開いた瞬間、やはりあの石川だった。祖母の知人の医者という断片的な情報しか
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