「桔梗」その声に、びくりと肩が揺れた。振り返るよりも早く、勢いよく開かれた扉の音が耳に届く。子ども部屋に飛び込むように入ってきた蓮司さんの姿に、私は目を見開いた。「蓮司さん、どうしました? お仕事は?」思わずそう問いかけると、ラグの上で遊んでいた誠司がぱっと顔を上げ、嬉しそうに声を上げる。大好きな父親の突然の登場に、全身で喜びを表しているのが分かる。その無邪気さに一瞬だけ空気が和らぐが、蓮司さんの表情はそれどころではなかった。「錦野柾が桔梗に接触したと聞いて……大丈夫か?」真っ直ぐに向けられる視線。その奥にある焦りと不安に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。大丈夫か、と問われても、どこからどこまでを指しているのか分からない。ただ、あの場で感じた不快感や恐怖を思い出すと、完全に平気だったとは言えない気もする。「足元がふらついたと聞いている。いまの気分は? 気持ち悪かったり、頭が痛かったりしないか?」まるで医者のように矢継ぎ早に問いかけるその様子に、思わず小さく笑みがこぼれる。こんなにも分かりやすく心配してくれる人がいる。その事実が、どうしようもなく嬉しかったからだ。「ふふっ」自分でも抑えきれない笑いが漏れる。夜ではないし、誠司もいる。だから普段のような甘い空気ではない。それでも、胸の奥に生まれたこの温かい感情は、自然と体を動かしていた。私はラグの上に寝転がっていた誠司を抱き上げ、そのまま蓮司さんの胸に飛び込む。しっかりとした胸板に頬が触れる。硬くて、温かくて、安心できる場所。ふわりと香るミント系の爽やかな匂いに、思わず深く息を吸い込む。……ウッド系の香りも似合いそう、なんて場違いなことまで考えてしまう。「桔梗?」突然の行動に戸惑った声。それでも次の瞬間には、蓮司さんの腕が私たちを包み込むように背中で交差する。その自然な動きに、言葉以上の愛情を感じて、また胸が高鳴った。「心配してくださってありがとうございます。大丈夫でしたけれど、蓮司さんが来てくださって、もっと大丈夫になりました」顔を上げてそう言うと、蓮司さんはじっと私の表情を見つめる。まるで本当に大丈夫かどうか、嘘がないかを確かめるように。「……よかったよ」吐き出されたその言葉は、肺の中の空気をすべて吐き切ったかのような、心の底からの安堵を含んでいた。その声音に、彼がどれほど心配していたのかが伝わってくる。そこまで思
Read more