夫が自分の幼なじみ・加藤静江(かとう しずえ)を家に迎えて世話をすると言い、私はそれに同意した。使用人たちは、若奥様が性格を変えた、嫉妬もせずにいると噂した。夫もまた、私の従順さと物分りの良さに安堵したが、あと三日で私が去ることを知らなかった。久しぶりの「システム」の提示音が脳内に響いた時、私、水橋星子(みずはし せいこ)はようやく、前回「システム」を見たのはわずか八年前のことだったと思い出した。「こちらはまだ処理しなければならないことがあります。三日後、宿主さんを迎えに行きます」冷たくも聞き慣れた「システム」の声を聞きながら、胸の奥に酸い痛みが込み上げた。「……はい」当時、私は夫の小林義方(こばやし よしかた)のために、「システム」の制止を振り切ってこの任務世界に留まった。彼と末永く愛し合って死ぬまで添い遂げられると信じていた。だが、八年の時が経ち、私たちの愛はすっかり変わり果ててしまった。思案に沈んでいた時、突然、私の手が別の冷たく湿った手に握られた。驚いて顔を上げると、いつの間にか義方が帰って来ていた。彼は眉目秀麗、端正に整った顔立ちだったが、全身が雨に濡れ、仕立ての良いスーツが肌に張り付いて、どこか狼狽の色を帯びていた。「星子、今日はこんなに大雨だったのに、銀行でずっと君を待ってた。なぜ迎えに来てくれなかったんだ」長い睫毛の先にはまだ水滴が残り、義方は不満げに、しかしどこか甘えるように私を責めた。私はその水滴が床に落ちて弾けるのを見つめ、目も向けずに言った。「忘れてた」結婚して八年、雨の日には必ず私が迎えに行っていた。ずっとそうしてきたのに、今日は忘れていた。義方を迎えに行くのを忘れただけなら、大したことではない。でも私は、もっと多くのことを忘れていた。当初「システム」が言った。不確かな人のためにこの任務世界に残るのは賢明ではない、と。だが私は構わなかった。義方は一生私を愛してくれると信じていた。それで私は「システム」と賭けをした。――もし義方が心変わりしたら、私たちの記憶は消され、私は自分が日に日に弱っていくのを見届け、ついには死に至ると。実際には私の記憶はすでに酷く薄れていた。ただ自分自身をごまかしていただけ。義方はしつこく私の手を掴んだ。「体調悪い君
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