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第3話

Author: 甘い梨氷
車はすぐにエンジンをかけ、勢いよく走り去った。

私はその場に呆然と立ち尽くした。

義方は静江を抱きしめ、私の脇を通り過ぎていったが、私には一瞥すらくれなかった。

舞い上がった砂埃が、地面に落ちた。ふと、地面に一枚の写真が落ちているのが目に入った。

――私たちの家族写真だ。

あの時、私は命がけで真司を産んだ。

義方は私を抱きしめ、鉄のような男が涙をこぼし、「一生、君を裏切らない」と言った。

真司も大きくなって、「ママがいつまでも幸せでいられるように」と言った。

だが、今や残っているのは私一人だった。

私は写真を拾い上げ、しばらく見つめた。手から流れる血が、写真を赤く染めていく。

私は苦笑いし、写真を引き裂き、風に吹かれて舞い散らせた。

そしてまた、私の記憶の一部が失われた。

「大丈夫。すぐに離れるから」

私は、止まらない血で濡れる傷口を見つめ、ハンカチで雑に巻いて止血し、痛みに耐えながら家へ歩き出した。

家の門に辿り着いた時、義方が焦っている表情で車を走らせてやって来た。

「静江が気を失った。すぐに病院へ連れて行かなければ」

義方は早足で私の前に来て言った。

「星子、俺も急いでいて、君を置いていくつもりじゃなかった」

その焦りも、悔恨の色も、作り物には見えなかった。

私の手を握った彼の指先は、かすかに震えていた。

「手がどうした?どうして怪我なんか……!」

私の血まみれの手を見ると、義方は慌てて引っ張り、医者を呼ぼうとした。

私はその手を遮り、そっと引き抜いた。

「私たち、いつ離婚するの?」

義方は呆然とした。

「離婚?いつ離婚を口にした?

星子、どうしたんだ。急に何を馬鹿なことを言ってる」

また手を伸ばして私を捕まえようとした義方を、私は一歩退いた。

「離婚しないなら、静江はどうするの?」

義方は不思議そうに私を見つめた。

「星子、俺はずっと静江を妹としか思っていない。君も知ってるだろう。彼女は加藤家でつらい思いをしてきた。

俺が君に抱く感情、こんなに長く一緒にいて、まだ分からないのか。ほかの女で変わるはずがない」

本当にただの妹なのか?

私は口を開いたが、言葉が一つも出てこなかった。

ただの妹なら、どうして静江に何かあれば、義方はすべてを投げ捨てて駆けつけ、「一生面倒を見る」などと言うのだろう。

義方、自分が変心したと認めることは、そんなに難しいのか……

義方は私を家に連れ込み、医者を呼んで手当てをさせ、それから一言もなく車を走らせて去っていった。

遠ざかる車の音を聞きながら、私の心は急に真っ暗になった。記憶はほとんど消え、身体を引き裂く痛みだけが強く残っていた。

私は椅子の肘掛けにつかまり、立ち上がろうとしたが、よろけて倒れそうになった。

すぐに、使用人の中村淳子(なかむら あつこ)が駆け寄って支えてくれた。

「若奥様、身体にお気をつけくださいませ。このところ、目に見えて痩せておいでです。

お医者様を呼びましょうか?」

私は首を振った。……すべては自分が招いたこと。

傷を包帯で巻き、薬を飲み、そのまま朦朧としたまま眠りに落ちた。

どれほど眠ったのか分からない。外の騒ぎ声で、私は目を覚ました。

身を起こした途端、静江が勢いよく部屋へ飛び込んできた。手には、血まみれの猫を抱えて。

その三毛の色を目にした瞬間、私の頭は真っ白になった。

「若奥様、ごめんなさい、真司と遊んでいたら、この子が突然飛び出してきて、私を引っ掻こうとしたんです!とっさに蹴ってしまって……

それで、庭の築山にぶつかって、鋭い岩で頭を割ってしまって」

静江は泣きじゃくりながら跪いた。

「ごめんなさい、若奥様!どんな罰でも受けます、全部受けます!」

真司も慌てて駆け込んできた。

「ママ、加藤お姉ちゃんはわざとじゃないんだ!加藤お姉ちゃんを罰しないで!」

私は、血に染まり、息もないハナちゃんを呆然と見つめた。

ハナちゃんは私が拾ってきた。活発で、よく懐いて、いつも私を守ってくれた子だ。

私は震える手で、静江の腕から、その小さな亡骸を奪い取った。

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