あっという間に日は過ぎ、幼稚園の親子参観の日が訪れた。正門で蒼介たちと顔を合わせた杏奈は、小春が「ママにはあげない、全部紗里ちゃんにあげるんだから」と勝ち誇るように言い放つ声を聞いた。けれど、その瞳にはもはやさざ波ひとつ立たなかった。紗里が同行することは予想外だったが、彼女を目にしても杏奈の心は凪いだままだった。ただ平静に、形式的な挨拶を交わす。まるで目の前にいるのが、夫と娘を奪い去った女ではなく、ただの行きずりの他人であるかのように。その無関心な反応に、紗里の瞳に一瞬だけ驚愕の色が走った。傍らに立つ男も、わずかに眉を動かして杏奈を一瞥したが、それ以上意に介さなかった。そう――この七年間、彼女が幸福の絶頂にあろうと絶望の淵に沈んでいようと、蒼介は、いつだってガラスのように冷淡な瞳をしていた。彼の視界に、初めから杏奈という存在は映っていなかったのだ。去ることを決意した今、どれほど胸が痛もうと、七年以上の歳月を費やした真心が無に帰したと悟ろうと、杏奈は歯を食いしばって、彼との、そして過去のすべてとの繋がりを断ち切らなければならない。だからこそ、紗里がいかに「不倫相手」らしく振る舞おうと、杏奈にとってはすでに無関係なことだった。蒼介の寵愛も、小春の執着も、もはや杏奈の知ったことではない。今日、杏奈がここに立っているのは、ただ純粋に母親としての責務を果たすため。ただ、それだけのことだった。杏奈の内心など知る由もない小春は、期待していた「母親のうろたえる姿」が見られないことに苛立ち、眉を吊り上げて睨みつけた。「ママ、この作品、絶対に見せないからね」「興味ないと言ったでしょう。あなたが提出すればいいわ」杏奈は静かに小春を見据えた。それでも、小春は食い下がった。「ふん!その前に全部、紗里ちゃんに見せるんだから!」「そう。小春は優しいわね」杏奈は淡々と答えた。その言葉に、小春は戸惑い、言葉を失った。ママに褒められた。嬉しいはずなのに、なぜかちっとも心地よくない。想像の中では、ママは粘土作品を紗里ちゃんに渡すのを嫌がり、必死に阻止しようとしたり、自分の手から奪い返そうとしたりするはずだった。そうなれば、それを切り札にして、ママを以前のような従順な世話役に戻し、今後紗里ちゃんと遊ぶのを邪魔しないと約束させられたはずなの
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