けれど小春の頭の中では、すでに別の目論見が形を成しつつあった。パパに頼んで、別の園に変えてもらおう。ママを替えることに理解を示してくれる、そんな幼稚園に……!……「いい加減に諦めなさい。ママは絶対に許さないからね」高木浅美(たかぎ あさみ)が、幼い娘・琴音の額を指先で軽く弾いた。傍らに立つ杏奈は、ただ苦笑するしかなかった。本来なら園を出た後、すぐに帰宅するつもりだった。だが、正門をくぐった先で待ち構えていたのは、琴音を連れた浅美だった。浅美は杏奈を見つけるなり、その手を強く握って離さなかった。前回の礼も満足にできていないからと、なかば強引に腕を引かれたのである。けれど、琴音のわがままに手を焼き、一行は門の前で釘付けになっていた。「お父さんだって、私からの連絡だってわかれば、絶対に来てくれるも!」「あともう一つしか残ってないの!今すぐ来ないと、間に合わないじゃない!」琴音もまた、この幼稚園に通う生徒だった。小春とはクラスが違うものの、同学年だ。父親である高木正輝(たかぎ まさき)が多忙のあまり姿を見せないせいで、琴音の期待は失望へ、そしてなりふり構わぬ駄々へと変わっていた。浅美は溜息をつき、申し訳なさそうに杏奈へ微笑みかけた。「お恥ずかしいところをお見せしてしまって。夫は約束していたのですけれど、どうしても外せない急用が入ってしまったの。それであの子ったら、あんな風に意地を張ってしまって……」浅美は再び琴音の小さなお尻を軽く叩いた。「いい加減にしなさい。これ以上騒いだら、本当にお仕置きよ」「でも、お父さんが約束したのに……!」琴音の大きな瞳には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。「琴音ちゃん、お父さんだって決して、あなたを傷つけたくて遅れているわけじゃないの」杏奈は、泣き出しそうな少女の涙を指先で拭い、優しくなだめた。「お家に帰ったら、お父さんにたっぷり謝ってもらいなさいね。その代わり、おもちゃをいっぱい買ってもらえおう。ね?」父は家族のために働いているのよ、といった「正論」は、今の子供には無意味だ。親の愛情を盾に聞き分けの良さを強いるのは、将来的な反抗に油を注ぐだけだ。案の定、琴音は小さな鼻をひくつかせて考え込み、やがて不承不承といった様子で頷いた。「……じゃあ、お父さんに謝ってもら
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