私が彼とともにいたのは、ありあまるほどに存在する、単調さ、少しばかりの思考で容易に見通しのつく長さにおいては窒息さえ生み出しかねない私の生涯の中で、わずか数千分の一にも満たない日数でしかなかった。 それでいて彼は、だれひとりとして犯すことのできない禁足の位置というものは、たしかにだれの胸の中にも存在するのだということを私に気付かせ、そして私の中に空室となって眠っていたそれを探り出し、そこに入り込んだのだった。 それは、私の中ではとうに蜘蛛の巣が張り巡らされ、埃に薄汚れた、小さな片隅だった。 持ち主であるはずの私ですら慮ることの憚られる、辛うじて存在するだけだった小さな部屋。 そのさびついた扉を彼はいとも易々と開いてみせ、そして生涯唯一の個室として、幻影だけを忍ばせた。 とてもずるいことだと、のちに私は幾度も罵ることとなる。 年月とともに薄れ、褪せて、散っていくだけの幻。 だのになぜ、私はすがるのか。 なぜ、必死になって彼を思い起こそうとするのか。 3週間。 彼とはひと月にも満たない数日間しかともに過ごすことはなかったというのに。 説明のつかない不思議な異常さに、わがことながら惑わずにいられない。 そんな私ではあったが、しかし彼と特別親しかったというわけでもなかった。 親同士が友人であったとかいうわけでもなく、それまでになんらかの場で彼の姿を目端に入れていたというわけでもない。 私が彼を見たのはほかの者たちと同じく高校入学の日が初めてであり、その日を入れて数えての日数が3週間だったのだ。 そして同じクラス、続く席順だったというだけでは説明不足だろうか。 それでも、と言うのであれば、では、彼を述べればいずれの者であれ理解してもらえると思う。 彼は、名を玖珂 翠惟――といった。 家系図をたどればかつてその身に公家の血でも入っていたのかと思わせる、雅な高貴さを振り撒いている名なのだが、翠(私は、その呼びにくさから彼をそう呼ばせてもらっていた)自身、名にし負うと言うべきか、我々と同じ歳の男としてはとても端正な、それでいて洗練された品位をそこはかとなく身にまとっていた。 常に平静を崩さない面。容姿端麗にして眉目秀麗である。 が、そうして口にした途端その言葉の持つ要素すべてが色あせ、そし
ปรับปรุงล่าสุด : 2025-11-21 อ่านเพิ่มเติม