夕方の空は、ようやく雨雲が割れ、淡い橙色の光が海面を照らし始めていた。 とはいえまだ雲は重く、島全体が静かな湿気に包まれている。 玲は、部屋にこもっていても胸のざわつきが抜けず、思い切って外に出ることにした。(……少し、歩こう) 麻美は大地と買い物に出たまま戻らないらしい。 ふたりが楽しんでいるなら、それでいいと思えた。 ホテルからビーチへ続く道は、雨に濡れた植物が光を反射して輝き、いつもより静かだった。 観光客もまばらで、波の音がよく聞こえる。 玲はサンダルのまま砂浜へ下り、波打ち際へと歩いていく。(……この波の音、落ち着く) 気持ちが沈んでいるとき、なぜか海の音は心をゆるめる。 蓮と過ごした日も、この音が何度も二人を包んでくれた。(蓮……) 胸がぎゅっと締まる。 目を閉じ、深く呼吸をした瞬間―― その柔らかな時間のすぐ外側で、別の気配が動いていた。 一方そのころ。 少し離れたビーチ沿いのカフェの陰で、大地が携帯を耳に押し当てていた。「……瑛斗さん、玲さん動きました。ビーチに向かってます」『見えてる。俺もそっち行く』「龍一さん側の護衛は?」『三名が近くにいる。でも……天城側の連中がビーチ両端に展開してる』 大地の眉が険しくなる。「マジっすか……」『黒澤残党は動いてない。つまり――』「今日、天城側の奴らが来るってことですね」『ああ。玲華様が一人になるのを待っている』 大地は周囲を警戒しながら歩き始めた。 表情は穏やかでも、その瞳は鋭い。「俺ら、どう動きます?」『まずは玲華様に近づく。こっちは表立って戦えない。観光客に見えるように立ち回る』「了解」 大地はカフェの影から抜け出し、足早に砂浜方向へ向かった。 その一方で、天城壮真の側近たちは、すでにバリで別行動を取っていた。 黒いサングラスをかけた男が、ホテルの裏手にある廃屋の影から海を眺めながら口を開く。「……桐島の娘が一人でビーチだ。今が絶好のタイミングだな」「問題はあの二人だ。瑛斗と大地……本当にただの観光客か?」 別の男が低く呟く。「あいつら、歩き方が素人じゃない。後ろの取り方も、目線の流し方も……訓練されてる」 サングラスの男は鼻で笑った。「問題ない。女だけ連れ去れればいい。本命は“桐島玲華”だ」「黒澤は
Terakhir Diperbarui : 2025-12-20 Baca selengkapnya