羽田空港・到着ロビー。黒のコートを羽織った利衣子が、携帯を耳に当てながら歩いていた。 「はい、今着きました。……蓮には私から連絡を取ってみるわ」 声には焦りも迷いもない。 彼女は“まだ狙われている”と思っていた。黒澤の部下に追いかけられ、隼人に逃がしてもらってから、利衣子はずっと隠れて暮らしていた。黒澤が原因不明の死を遂げたことも、ネットのニュースで目にしていた。だが、まだ天城壮真がいる。自分が知っていた情報を流せば、必ず天城に狙われる。利衣子は危機感に駆られ、蓮の部下だった“東条圭吾”に連絡を取り、この何週間かを共に行動していた。しかし、東条圭吾も、利衣子と一緒に蓮を陥れる計画を仕組んだことで、蓮からは“二度と俺の前に顔を出すな”と言われてしまった。しかしもうこんな隠れて過ごすのび、圭吾も利衣子もうんざりしていた。そして、東京へ行って蓮に会い、助けてもらおうと利衣子が言い出した。飛行機から降りてから、まずは利衣子が蓮と話すと言って、圭吾と別行動を取ることにした。だが、空港の出口を出た瞬間――。 人波の向こうで、ひとりの男が彼女の前に立った。 無表情、黒いスーツ、冷たい視線。 その男の手がわずかに動く。 利衣子の背筋に、理由のない寒気が走った。(……誰?) 小さく呟いたそのとき、黒いスーツの男が二人、音もなく近づいてきた。 「桐嶋様がお待ちです。こちらへ」 低い声。 利衣子の心臓がどくりと跳ねる。 「……桐嶋? 誰のこと?」 「こちらへ」 男の表情は一切変わらない。 利衣子は拒もうとした。 「待って、私、用事が――」 だが、男は一歩も引かない。 目の奥に、わずかに光る冷たい意思。 人通りが多い場所だったが、異様な圧に抗う気力が削がれた。 ――下手に逆らえば、本当に消される。 利衣子は小さく息を呑み、観念したように頷いた。 黒い車が滑るように止まり、彼女を後部座席に促す。 ドアが閉まった瞬間、車内の空気が変わった。 香水の香りも、会話も、何もない。 ただ、沈黙だけが支配していた。 数十分後、車は都内の高級ホテルの前で停まった。 フロントも特別階。 エレベーターを上がる途中、利衣子は自分の手のひらに汗が滲むのを感じていた。 「ここ……どこ?」 「すぐにわか
Last Updated : 2026-01-09 Read more