Semua Bab 黎明の風と永遠の指輪ー夜の世界で出会った二人、危険で甘い約束ー: Bab 101 - Bab 110

130 Bab

第百一話 消えた写真、残る影

玲が姿を消してから、三カ月以上が過ぎた。 柊 蓮の瞳の光は、少しずつ鈍くなっていた。 毎日は仕事はこなしているものの、心はどこか空洞のままだ。黎明コーポレーション本社の応接室。 大型のスクリーンには、新規プロジェクトのプレゼン資料が映っている。 部下たちは緊張しながら蓮の顔色を伺っていたが、彼の口から出たのは、静かで的確な指示だけだった。「……この数字を見直せ。利益率が甘い。来週までに再計算して報告しろ。」「は、はい!」淡々とした声。冷静だが、どこか人間味が失われていた。 報告会が終わると、蓮は無言で席を立つ。 オフィスを出たあと、スマートフォンの画面を開いた。 “成瀬 玲”――その名前を検索欄に打ち込む。 ヒットしない。 SNSも削除、電話も不通。まるで最初から存在しなかったかのように。(……どこへ行ったんだ、玲。)その夜。 蓮はひとり、かつて玲が勤めていた「クリスタルローズ」の跡地を訪れた。 看板は外され、シャッターには「賃貸募集」の紙。 ――すべてが消えていた。 まるで時間ごと、玲の存在が街から切り取られたようだった。「……ここに、あの笑顔があったのに。」街の明かりの中、蓮は立ち尽くしていた。 そのとき、背後から声がした。「……あんた、もしかして柊さんですか?」振り向くと、黒いジャケットを着た若い男が立っていた。 「俺、前に“クリスタルローズ”でバーテンをしていた者です。名前は篠原です」蓮の表情が動いた。 「お前が……あの店で?」篠原は苦笑した。 「ええ。玲さん、店畳む直前まで頑張ってました。でも……“もうお店を続ける意味がない“って言ってたんです。だから、俺もあの夜を最後に蓮絡取れなくて。」「意味がない?」 蓮の胸に、冷たいものが走った。「ええ。自分の経営してた“クリスタルローズ”が、実は黎明の金の流れに利用されてたって。それ、玲さん知らなかったんです。知った途端、店も閉めて、全部精算して……。 “もうここにはいられない”って。」蓮は息を呑んだ。 玲が経営者だったのか――!?。 彼女がただのホステスではなく、黎明の裏の資金ルートに関わっていた事実を、 彼は初めて知った。しかし、そんな事実はない。蓮は仕事に玲を巻き込むつもりもなかったのだ。夜の風が冷たく吹き抜けた。 「……ありがとう
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第百二話

夜の六本木。  雨上がりの舗道が照明を反射し、宝石のように輝いていた。  タクシーの音、笑い声、ネオンの瞬き――  どれも蓮の心には届かない。 その夜、蓮はひとつの情報を掴んでいた。  かつて“クリスタルローズ”で玲と親しくしていたホステス・麻美が、新しい店で働き始めたという。  蓮はためらいもなく店の扉を押し開けた。 クラシックが小さく流れ、シャンパンの泡がグラスの中で静かに弾けている。  どこか高級感のある落ち着いた空間。  別のテーブルから聞こえる笑い声すら、遠い雑音のようだった。 奥まったテーブル席で、麻美が他の客を相手に微笑んでいた。  蓮の姿を目にした瞬間、彼女の笑顔がぴたりと止まる。 ――驚愕。  そして、その奥にわずかな警戒。「……柊さん?」 蓮は静かに頷いた。  声は低く、張りつめていた。「玲の居場所を、教えてくれ」 麻美は息をのむ。  視線をそらすようにグラスを置き、そのまましばらく沈黙した。  店内の静けさが、かえって重くのしかかる。「……知りません」 ようやく絞り出された声は震えていた。  だが、続く言葉はさらに重かった。「でも、ひとつだけ……玲はあなたのことを、守るために離れたんです」 蓮の胸が強く締め付けられた。  喉の奥が熱く、痛む。「守る……?」 麻美はうつむき、唇を噛んだ。  それでも勇気を振り絞るように、小さく頷いた。「“蓮を巻き込みたくない”って。……あの子、何度も言ってたんです」「……巻き込みたくないとは? 何に? ……誰に?」 蓮の問いに、麻美の肩がびくりと震えた。  彼女は恐る恐る顔を上げ、周囲を見回す。  そして、怯えた瞳で蓮を見つめた。「――西條組の鷲尾……と神威会。……関西の人たち」 空気が、音を立てて凍りついたようだった。  蓮はしばらく何も言えなかった。 胃の奥が拒絶するように跳ねあがり、指先が冷たくなる。  手にしたグラスが軋んだ。  氷が小さく鳴り、ひび割れそうなほど張り詰めた。(黒澤……鷲尾……そして、玲……) 血が逆流するような感覚が走る。 ふと脳裏に浮かぶのは――  先日“クリスタルローズ”で聞いたあの話。 篠原というバーテンダーが言っていた、  「玲が黎明の裏金ルートを知っている女だ」という、あのデマ。 そ
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第百三話 沈黙の夜、消えた言葉

 冬の夜の風は鋭く、街のネオンがぼやけて見えた。  柊 蓮は、今も夜になると足が自然に向かう場所があった――  元「クリスタルローズ」の従業員、麻美が働くクラブだ。 薄暗い店内には、クラシックが静かに流れ、氷の音が響く。  麻美は相変わらず明るく、だがどこか芯の強さを漂わせていた。  蓮はその姿を見ると、ほんの少しでも玲と繋がっている気がして、いつも少しだけ心が軽くなる気がした。 「また来たの? 柊さん。」  「……麻美に会いに来たんだ。」  「はいはい、そういう軽口が言えるうちはまだ元気ね。」 グラスに琥珀色の液体が注がれる。  薄い笑みを浮かべながらも、蓮の目の奥にはいつも“探している人”の影があった。 麻美から少しずつ、玲の話を聞けるようになったのは、通い始めて三度目の夜だった。 「玲ね……最後に私に電話してきたの。」  グラスを置きながら、麻美は静かに語り出した。  「“私が消えるね”って。」 蓮の手が止まった。 心臓が、少しだけ痛む。  「消える……? なんでそんな……」 「西條組の鷲尾って人、知ってる?」  「……ああ。関西の組織だ。」  「その人から電話がかかってきたらしいの。“黎明の資金ルートを教えれば、利衣子に手を引かせる”って。」 蓮は息を呑んだ。「そうとうひどいこと言われたみたいよ。柊は利衣子に夢中で、毎晩利衣子を抱きに行ってるとか、言うこと聞かないなら、その動画を送るぞとか」  喉が乾く音がはっきりと聞こえるほど、空気が重かった。 「時間と場所まで指定された。でも、玲は……行かなかったのよ。」 「なぜ……行かなかった?」 麻美は少し俯いて、玲の言葉を思い出すように呟いた。  「“あんなところを見ても、私、蓮を憎めない。今も蓮を愛してるから、蓮がその人と居て幸せならそれでいい”って。」 静寂。  氷がグラスの中で小さく鳴る音が、店中に響いた。 蓮は、言葉を失っていた。
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第百四話

その夜、店を出た蓮は、冬の夜空を見上げた。  冷たい風が頬を刺す。  だがその胸の中には、不思議な温かさがあった。 ――玲は、まだどこかで生きている。  ――そして、自分を信じてくれている。 そう信じることで、ようやく立ち上がれる気がした。 蓮はポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見つめた。  保存していた玲の番号は、いつ鳴らしても「圏外」。  だが、消すことはできなかった。 胸の中に響くのは、麻美の最後の言葉。 “玲は、あなたを守るために消えたのよ。” 蓮は足を止め、空を見上げた。  「……必ず見つける。どんな闇に隠れていても。」 その誓いだけを胸に、柊 蓮は歩き出した。  冬の風が髪を揺らす。  遠くの街の灯りが、まるで玲の微笑のように霞んでいた。蓮が誓いを新たに胸に抱いていたころ、麻美は玲に電話を掛けていた。蓮が冬の風の中で誓いを胸に歩き出していた、その同じ頃。 六本木の店の控室で、麻美はため息をつきながらスマートフォンを取り出した。  画面に映る“玲”の名前を押すと、数回の呼び出し音のあと、ようやく小さな声が出た。「……麻美?」「玲、蓮がまた店に来たわよ。」 その一言に、受話器の向こうで空気が止まったのがわかった。  沈黙が数秒続き、ようやく玲の声が落ちてくる。「……また、来たの。」「うん。しかもね、あんたを今でも必死に探してる。今日も、泣きそうな顔で『玲に会いたい』って。」 玲は息を呑んだようだった。「……麻美、鷲尾さんのこと……話したの?」「バリで襲われた件は話してないよ。でも、あんたが脅されていたことも、店の裏の話も、蓮が利衣子って女に夢中だって言われたことも話した」 麻美は少し声を潜めた。「そのあと蓮に聞いたのよ。あんた、その女と、ホントにやっちゃったの?って。蓮は記憶がないんだって。酔って爆睡してて。でも蓮は“あの夜、パン
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第百五話  華やぎの影で揺れる思惑

来週末に迫っていた「十八会」は、いつになく緊張感を孕んだ空気をまとうことになると、黎明コーポレーションの柊蓮は薄々感じていた。  桐島コンツェルン会長・桐島宗一郎の誕生日であり、同時に桐島グループ創業記念日。  この二つが重なる特別な節目が、十八会の開催日と重なったのだ。 国内の名のある政治家や財界人、それに裏社会と繋がると噂される商社の会長や有力者らが集まり、互いの影響力を誇示する場として「十八会」は存在してきた。  だが今回は“家族同伴”。  普段の冷え切った会合とは異なり、華やかで公的な表の顔の色彩が強い。 その背景に、桐島宗一郎の“世代交代”を見据えた思惑があるのは、この界隈に身を置く者なら誰もが気づいていた。 ――新しい時代の始まりを暗示するような夜。 蓮は、会場となるホテルに到着した瞬間、その予感をさらに色濃くした。 ホテルの正面玄関には、普段十八会には見られないカラーの高級車が並び、ドアマンたちは緊張した面持ちで客を迎えている。  赤絨毯の上を歩く女性たちは、こぞって色鮮やかなイブニングドレスで飾り立て、男性たちもまた、普段より数段格調の高い装いをしている。   「随分と華やかだな……父さん、今日のホテルは特別扱いらしい」 隣に立つ晴臣は、白髪をきちんと撫で付け、落ち着いた笑みを浮かべた。「当たり前だ。桐島会長のためだけにホテルを“貸し切り”にしてある。これほどの贅沢は、財界でも数えるほどだろう。……まあ、我々黎明が港湾ルートを取り戻したおかげで、肩身が狭くなることはなさそうだがな」 晴臣は余裕を漂わせながらロビーへと歩を進める。  蓮もその後を追いつつ、人々の視線をさりげなく観察した。 美女を伴う国会議員。  息子を次期派閥の“顔”にしようと目論む大手銀行頭取。  名刺交換を繰り返す通信グループの経営陣。  裏稼業の匂いを漂わせる商社の男たちも、表向きは礼儀正しく談笑している。 蓮は、思わず苦笑を漏らした。 表向きは祝賀会。  だが裏では、利権のやり取りや政治的駆け引きが渦巻く。 しかし今日のそれは、いつもと少し違った。 華やかさの裏に、どこか落ち着かない気配がある。  まるで誰もが、今夜“何か”が起こる予感を抱いているかのような、奇妙な緊張が空間に漂っていた。 エレベーターで最上階へ上がる間、
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-01
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第百六話

黄金色のシャンデリアが天井に輝き、壁には創業当時からの桐島コンツェルンの歴史写真が飾られている。  会場へ続く廊下には、ワインレッドのカーペット。  その上を歩くたび、靴音が吸い込まれるように静かに響く。 会場の入口では、名前のチェックとセキュリティ確認が厳重に行われていた。  黒服による目視だけでなく、わずかに見えるが最新式と思われる金属スキャナーが置かれている。(……さすが桐島コンツェルン。これだけの安全対策をしているのに、表向きは“家族パーティー”なんだから) 蓮は半ば呆れ、半ば感心しながら中へ入った。 会場の中はすでに来客で賑わっていた。  だが熱気というよりは、“華やかさを演出しつつ様子を窺う者たち”の空気が漂っている。 ステージ横では、桐島家の親族と思われる女性たちが笑顔で談笑していた。  反対側では、若手政治家が自分の息子を銀行頭取に紹介している。「うちの息子は、来年からアメリカに留学させようと思いましてね。将来は――」「それは素晴らしい。うちの孫娘も、来年帰国しますので、ぜひ一度……」 蓮は思わず苦く笑った。(家族を持つって、大変そうだな……いや、問題はそこじゃないか) 十八会のメンバーにとって、子どもは“将来の投資対象”。  その子どもたちを繋げれば、自社の未来の利益にも直結する。 そういった意味では、今日のパーティーは“政財界の婚活会場”のようでもあった。 隼人が蓮に近づいてくる。「社長、挨拶を求められています。港湾ルートの件で、声を掛けられるかもしれません」「だろうね。……付き合うよ」 蓮は柔らかく微笑み、会場を見渡す。 政治家、銀行頭取、通信企業の社長――  さまざまな“力”の象徴たちが、こちらへ視線を向けているのがわかる。 その眼差しは、祝賀でも、友好でもない。――探っている。 ――蓮が、黎明コーポレーションが、今後どこへ向かうのか。 蓮は腹の底でため息をついた。(……まだパーティーが始まってもないのに、これか) しかし、嫌ではなかった。 この場に立つということは、黎明コーポレーションの未来を背負っているという証でもある。  父・晴臣の傍に立ち、龍一にも胸を張って会える。  それは蓮にとって、確かな自信になっていた。 そんな中、会場にふと静寂が訪れた。 ざわつきが止まり、
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第百七話

二人が並んで歩く様子は、王とその影のようで、誰もが自然と道を開けた。 会長が最前列中央の席に腰を下ろし、その右隣に龍一が静かに座ると、周囲で挨拶を交わしていた財界人たちも、まるで吸い寄せられるように席へ戻っていく。 そして、司会を務める桐嶋コンツェルンの社員が前へと進み出た。 「皆さま、本日は桐嶋コンツェルン創業55周年、そして桐嶋会長のお誕生日を祝う記念パーティーに、ご多忙の中お集まりいただきまして、誠にありがとうございます」 拍手が上がる。  煌びやかな会場に、祝福の空気が満ちた。 「それでは、ご挨拶を。桐嶋会長、お願いいたします」 会長はゆったりと立ち上がり、演台へと向かった。  白髪交じりの髪に威厳を漂わせ、しかし笑みは柔らかい。 「創業55年……長いようで、あっという間だった」 低くよく通る声が、会場の空気を支配する。 「先代の志を継ぎ、この日本経済と共に歩んだ歳月でもある。皆の支えがあってこそ、今日、この日を迎えられた。本当に……感謝している」 再び拍手が巻き起こる。 だが次の言葉は、会場の雰囲気をわずかに緊張させた。 「そして今日は、皆に紹介したい人物がいる」 会長がゆっくりと視線を横に向けると、そこには龍一がいた。 「我が息子、桐嶋龍一だ。表舞台に立つことは少なかったが、コンツェルンの事業を支える重要な役割を担っている。今日は改めて顔を覚えてほしい」 龍一は立ち上がり、無表情のまま壇上に上がった。 視線を集めても、表情ひとつ変えない。  まるで氷でできた彫像のようだ。 「……桐嶋龍一です。父を支え、皆様にご迷惑をおかけしないよう努めて参ります」 簡潔すぎるほど簡潔な挨拶に、一部の参加者が小さく笑ったが、龍一はまったく意に介していない。 挨拶を終えると、会長の斜め後ろへと戻り、静かに控えた。 会長は再び会場を見渡し、今度は別の名前を呼んだ。 「続いて……こちらも皆に紹介したい人物がいる」 その瞬間、招待客たちがざわめく。  会長が誰を呼ぶのか――皆が興味を抱いていたからだ。 「黎明(れいめい)コーポレーション、柊蓮(ひいらぎ・れん)社長だ」 会場の奥に座っていた蓮が静かに立ち上がった。  黒のタキシードを纏い、引き締まった表情で歩いてくる姿は、若き獅子を思わせた。 「蓮くん、こちらへ」 壇
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-02
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第百八話

蓮が壇上から降りると、父である柊晴臣が満面の笑みで待ち構えていた。 「蓮、よくやった!!」 晴臣は勢いよくシャンパングラスを掲げ、誇らしげに息子と軽く合わせる。  黎明コーポレーションが“第八席”に入った。  これは、どんな大企業でも一朝一夕に得られる立場ではない。  晴臣にとっても、これ以上ないほどの名誉だった。 蓮もグラスを傾けながら、静かに微笑んだ。  だが、その笑顔の裏で、周囲の視線を敏感に感じ取ってもいた。  ――羨望、興味、嫉妬、警戒。  さまざまな感情が混ざり合った視線が、蓮にも晴臣にも突き刺さってくる。 そんな中――  ふと、蓮のテーブルにひとりの令嬢が近づいてきた。 「柊さん」 柔らかい声に振り返ると、白いマーメイドドレスを身にまとった、まるで映画のワンシーンから抜け出したような美女が立っていた。  背筋はすらりと伸び、宝石のような瞳が静かに蓮を見つめている。 蓮も席を立ち、礼儀正しく手を差し出した。 「はじめまして。失礼ですが、どちらのご令嬢でしょうか?」 彼女は蓮の手を取ると、上品に微笑んだ。 「橘商事の社長の娘、橘紗季(たちばな さき)と申します。   本日はご挨拶させていただきたくて……」 柔らかな声、完璧な笑顔。  彼女は間違いなく、この会場の“華”の一人だった。 「先ほどのご挨拶、とても素敵でしたわ。『心に決めた方がいる』……あの言葉、とても印象的でした」 蓮は少し照れながら、曖昧な笑みを浮かべる。 ――嫌な予感がした。 彼女は蓮の反応を確認しながら、一歩近づいた。 「でも……まだご結婚はされていないのでしょう?   でしたら、私にも……少しだけ、チャンスをいただけませんか?」 その声は甘く、周囲の空気を変えるほどの美しさがあった。 晴臣も思わず目を丸くする。 蓮は一瞬だけ息を呑んだが、次の瞬間にはもう表情を整えていた。 「……申し訳ありません。実は、近いうちに正式にプロポーズをする予定なんです。ですので……お気持ちは嬉しいのですが、お受けするわけにはいきません」 令嬢の瞳から、一瞬で光が消えた。 「……そ、そうですか……。大変失礼いたしました!!」 青ざめた顔で深く頭を下げると、そのまま踵を返し、逃げるように去っていった。  周囲の客が小さくざわめき、ちらりと蓮の
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第百九話

パーティーも中盤になり、会場全体が温かな余韻と高揚の空気に包まれ始めたころ――  前方の最前列付近でざわめきが広がった。 蓮と晴臣は何事だと前を向く。  ほかの招待客たちも、同じように視線を吸い寄せられていた。 照明を受けて輝くドレス。  遠目に見ても、ただならぬ存在感を放つ女性が、ゆっくりと会場へ入ってくる。  その腕をエスコートしているのは――桐嶋龍一。 その姿を目に捉えた瞬間、蓮の呼吸が止まった。 次いで胸の奥で、何かが激しく弾けた。 シャンパングラスをテーブルに置く音が、やけに大きく響く。  父・晴臣が振り向くより早く、蓮は短く叫んだ。「ちょっと行ってくる!!」 何も説明せずに、大股で前方へ向かって行く。  晴臣は「おい、蓮!」と声をかけたが、その背中はもう人混みに紛れかけていた。 蓮の顔色が一瞬で変わったことに気づいたのは、後方に控えていた隼人だった。(……なにが見えたんだ?) 隼人も表情を引き締め、蓮を追って歩き出した。 会場の中央へと進むにつれ、蓮の耳には周囲のざわめきが遠ざかっていくようだった。  視界の中心にいる美しい女性以外が、まるで色褪せて見えた。 ――玲。 ドレスの裾が揺れるたびに、胸が締め付けられた。  失ったと思った。  もう二度と、目の前に現れないと覚悟した。 だが、今そこにいる。 誰よりも美しく、誰よりも強く。  そして今夜は、桐嶋龍一の腕に支えられて。 その光景は、蓮にとって息を呑むほど眩しく、同時に――刺すように痛かった。 蓮は自然と歩幅を大きくし、前席へと向かう。  隼人は距離をとりながらも、いつでも蓮を支えられる位置を保ち続けた。 会場の空気が、ゆっくりと熱を帯び始める。 龍一と玲華が登壇する。  そのタイミングで、蓮はさらに早足になった。 隼人は蓮の背中を見る。  あれは、覚悟を決めた男の背中だった。(あれは……社長……もう逃げるつもりはないわけですね) 隼人は玲の姿に驚いたが、静かに息を吐き蓮の後を追った。 ――そのころ。 蓮の視界に映る玲は、遠くの光に包まれているように美しかった。  その佇まいの中に、どこか寂しげな影があることにも、蓮は気づいた。 その影が、蓮の心をさらに突き動かした。 ――前日の夜。  玲華の心に影響を落としていた出来
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-03
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第百十話

前日の夜。  桐嶋本邸のダイニングルームは、静謐な温度に包まれていた。 久しぶりに宗一郎・龍一・玲華――三人だけでの食事だった。  使用人たちはすべて席を外し、桐嶋家としては珍しい、完全な家族だけの時間。「玲華、バリ島は楽しかったか?」 宗一郎がワイングラスを軽く揺らしながら言った。 玲華は一瞬だけ遠くを見るように視線を伏せ、「はい」とだけ答える。 その短い返事に、宗一郎は目を細めた。「帰って来てから一歩も家を出ていないと聞いたぞ。バリで何かあったのか?」 宗一郎はそう言って食卓を離れ、ソファへ移動した。 玲華はわずかに父を見るが、「何にもありません」と立ち上がる。 宗一郎は空いたソファの隣を軽く叩いた。「玲華、ここへおいで」 玲華は一瞬、兄の龍一を見る。  龍一は淡々と食事を続けていたが、ふと顔を上げ、妹に頷いた。 玲華は静かにソファへ歩き、宗一郎の隣に腰掛けた。 宗一郎は、まるで壊れ物を扱うような優しい眼差しで玲華を見つめた。「うちの大事なお嬢さんは、お前を泣かせた男のことを、まだ忘れられないのか?」「お父様……」 玲華が顔を上げる。  宗一郎はふっと笑い、「もう『パパ』とは呼んでくれないのか?」と言いながら、彼女の頭を優しく撫でた。 玲華は驚き、そして照れくさそうに小さく言った。「パパ……?」 宗一郎は満足げに笑うと、玲華の肩を抱いた。「玲華、男っていうのはな、心と体が別々の意思を持って行動することがあるんだ。だからお前と龍一のママは出て行ってしまったんだが……パパも若いころは色々……まぁ色々だが……その先は、お前も大人なんだから察しなさい」 言いにくそうに目をそらしながら続ける。「だからパパが言いたいのはだな、女は心が無ければ体を許したりはしないんだろうが、男って生き物を、玲華も少しは理解してやれと……まぁそんなとこだ」 玲華の目に涙が滲んだ。「パパ。慰めようとしてくれてるの?」「もう泣くんじゃない。お前が惚れた男が本物なら、今後挽回してくれるんじゃないのか? ……もしもこのまま諦めて消えるのなら、それまでの男ってことだ」 玲華は宗一郎の胸に頭を預け、小さく頷いた。「うん。……もし、本当にもう一度信じることができたら、ちゃんとパパに紹介するね」 宗一郎は優しく目を閉じ、その頭をそっと抱き寄せた
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