芳子は目の前が真っ暗になり、危うく気を失うところだった。苦労して陸のために藤崎グループで取り付けてきたポジションが、これですべて水の泡になってしまったのだ。……水南地方国際空港にて。明乃は、上品なベージュのトレンチコートを羽織り、髪をアップにまとめていた。整った額とすらりとした首筋をのぞかせながら、国内線の到着口で常北市(じょうほくし)から来る重要なクライアントを待っていた。空港内は人でごった返していた。彼女は出口の方をじっと見つめており、背後に忍び寄る不審な影には気づかなかった。一人のスリが混乱に乗じてある女性に近づき、素早く財布を盗み取った。うつむきながら急ぎ足で立ち去ろうとしたスリは、ちょうどスマホを見ていた明乃とすれ違う。「私のバッグが盗られたわ!!泥棒よ!誰か泥棒を捕まえて!」背後から上がった叫び声に、泥棒は焦った。彼はふと見ると、少し先にヘッドフォンをつけた大柄な男が背を向けて立っていることに気づいた。男の背負ったリュックのサイドポケットが開いているのを目にするやいなや、泥棒は何も考えずに盗んだばかりの財布をそこへ突っ込み、すぐ脇のトイレへと姿を消した。明乃も騒ぎに気づいて反射的に振り返ると、被害者の女性が必死な様子で前方の一人を指差すのが目に入った。それは、先ほどのヘッドフォンをつけた男だった。「あの人が泥棒よ!早く捕まえて!」男がちょうど自分の脇を通り過ぎようとした瞬間、明乃は思わずに相手の手首を掴んでいた。その時、陸は兄の湊に電話をかけようとしていた。不意に手首を掴まれた彼は、わずかに眉をひそめて不快そうにヘッドフォンを外した。「何か用ですか?」目の前には、驚くほど美しい顔をした女性がいた。潤んだきれいな目。ポニーテールをした顔は手のひらに収まりそうなくらい小さくて、灯りに照らされると白玉みたいに透き通って見えた。これまで数多くの美女を見てきた陸でさえ、この女性が纏う気高さと艶やかさが混じり合った独特の雰囲気には、心を揺さぶられるものがあると認めざるを得なかった。陸が一瞬呆然としている間に、空港の警備員と被害者が駆けつけ、彼を取り囲んだ。「お客様、他のお客様の財布が盗まれたとのことですので、事情聴取にご協力いただけますか……」警備員が説明した。陸はあまりのバカバカしさに鼻で笑っ
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