明乃は彼がわざととぼけているのだと分かっていたが、口喧嘩では勝てず、また顔を背けた。この厚かましい男を絶対に無視してやると決めた。エレベーターが「チン」と鳴って、明乃の家の階に着いた。湊は明乃を抱き上げたまま外へ出て、パスワードを入力してドアを開けるまで、淀みのない動作でこなした。玄関に入ると、彼は明乃を柔らかい靴履き用のスツールに座らせた。自分は片膝をついて彼女の前にしゃがみ込み、その手を握る。まだ膨れている彼女の横顔を見上げ、ようやく少し真面目な口調になった。「分かった。もう怒るなよ。プレゼントをあげるから、な?何が欲しい?」明乃は「ふん」と鼻を鳴らしたまま、何も言わない。湊は彼女をじっと見つめた。その瞳は静かだ。彼は少し考え込んだ。「ヒカリスバイオの株価、今はかなり安定してる。お前にあげようか?」明乃は勢いよく顔を戻すと、目を丸くして彼を凝視した。聞き間違いかと思ったのだ。ヒカリスバイオ?時価総額が数兆円にも上り、ハイテク株市場で独走状態の、投資家たちがこぞって追いかけるあの業界最大手のこと?それを、あげるって言った!?湊は彼女の驚きなど目に入らない様子で、淡々とした口調を崩さない。「足りないか?藤崎グループがいいならそれでもいいが、ただ……」彼は少し言葉を切り、どこか名残惜しそうに言った。「今はまだ完全には引き継いでいないから、おじいちゃんが手を引くのを待つしかないな。正式に継いだら、真っ先にお前に回すよ」「……」明乃はあまりの衝撃に、口をぽかんと開けたまま、しばらく言葉が出てこなかった。これはもうサプライズどころか、ホラーだ。「だが、今のヒカリスバイオの持ち株ならすぐに譲渡できる」湊はそう言いながら、本当にポケットからスマホを取り出した。長い指で画面を操作し、賢人の番号を見つけるなり発信ボタンを押した。「株式譲渡の契約書を作ってくれ。俺名義のヒカリスバイオの株、四十パーセントを……」「藤崎さん!」明乃はようやく我に返り、飛びつくようにして彼の口を両手で塞いだ。心臓がバクバクと高鳴る。焦りと怒りが混じった声で叫んだ。「正気なの!?」スマホの向こうでは、賢人も突然の命令に面食らっているようだった。携帯から微かに声が漏れてくる。「ふ、藤崎社長?今、ヒカリスバイオの株四十パーセントって言いまし
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