当時、現場は混乱を極めており、岳の生死すら分からない状況だった。彼の弁護士チームが、真っ先に加害者とその家族を拘束し、供述を取り、証拠を固めるのは、基本中の基本と言える。それなのに、なぜ逃がしてしまったのか?賢人もこの点に奇妙な違和感を覚え、慌てて弁明した。「それは……我々も不可解に思っております。道理で言えば、明岳法律事務所の面々があれほど対応に遅れるはずがありません。ですが、当時は一刻を争う事態でした。霧島弁護士は救急搬送され、命の危険にさらされていたのです。おそらく……全員の意識が霧島弁護士の容態に集中し、激しく動揺したせいで……あの一家にまで手が回らなかったのではないでしょうか」その理由は一見筋が通っているように聞こえる。極限の混乱と不安の中に置かれれば、確かに細かいことを見落としてしまう可能性はある。だが、湊の眉間には、さらに深い皺が刻まれた。あそこは明岳法律事務所だ。明乃と岳が心血を注いで育て上げたチーム……たとえリーダーが倒れても、下の者がてんでバラバラになって、最低限の後始末すらできないなんてことはない。ましてや、この件は岳が絡んでいる。部下たちならなおさら神経を尖らせ、細心の注意を払うはずだ。こんな初歩的なミスを犯すとは、到底考えにくい。となれば、考えられる理由は……湊はわずかに目を細めた。その深い瞳の奥を、冷たい光がかすめた……「調査を続けろ」彼は冷徹に命じた。その声には一切の温度がなかった。「あの一家が一体どうなっているのか、誰の手引きで逃げ、どこへ隠れたのか、徹底的に突き止めろ。それから、岳の方も……厳重に監視しておけ」「承知いたしました、藤崎社長!」賢人は即座に応じ、一刻の猶予も置かずに動き出した。湊は電話を切ったが、その周囲には依然として、近寄りがたいほどの威圧感が漂っていた。彼は眉間を指で揉みながらふと視線を上げると、少し離れた場所で彼に背を向け、慌てて服を整えている明乃の姿が目に入った。照明の下で見る彼女の背中はどこか儚げで、耳の付け根はまだ真っ赤に染まったままだ。邪魔をされたことで燻っていた湊の苛立ちは、その光景を前に不思議と凪いでいった。彼は長い足を進め、数歩で彼女の背後に立った。明乃は足音に気づくと、微かに身を強張らせた。襟元を直す手つきはいっそう速くなり、顔を
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