彼の指先には、風呂上がり特有の微かな冷たさが残っていた。それが彼女の火照った肌に触れると、明乃の体には細かな戦慄が走った。不甲斐なくも、明乃の心臓の鼓動は再び速まり始めた。彼女は無意識に視線を逸らしたが、その先にあった別の写真が、ふと目に留まった。「あれ?」明乃はその写真の隅を指さした。「ここにも……私が写ってない?」彼女は不思議そうに首を傾げた。世界ってこんなに狭いの?あまりにも偶然すぎない?だけど、記憶をいくら手繰り寄せても、湊との接点などどこにも見当たらないわ……湊は彼女の傍らに立ち、写真を深い眼差しで見つめていた。喉仏を微かに動かしたが、結局は聞き取れないほどの低い笑い声を漏らすだけで、何も答えはしなかった。返事を待ちきれず、怪訝そうに振り返った明乃は、そのまま彼の深い瞳に吸い寄せられた。その瞳には、見る者の魂を絡め取るような何かが潜んでいるようだった。「何笑ってるの?」心臓がまたドクンと跳ね上がった。「つまり……」彼は身を乗り出し、鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけると、低く艶のある声で囁いた。「こういう結論に至ったわけか?俺が……あの時からお前に片思いしていた、と」近すぎる。湯上がりの湿り気を帯びた彼の香りが、強引に彼女の五官を支配した。明乃は一気に頭に血が上り、酸欠状態で思考が完全に麻痺してしまった。「デタラメ言わないで!そんなこと一言も言ってないわ!」彼女は恥ずかしさのあまり、彼を押し返そうとした。薄いシルクのパジャマ越しに、硬く熱い胸板の感触が鮮明に伝わってきて、心臓が爆発しそうだった。「もう帰る!」彼女の耳の付け根まで真っ赤なのを見て、湊は、これ以上からかえば彼女が本気で噛みついてくると悟った。彼は潮時と見て身を起こすと、抵抗する彼女の手をそのまま優しく握り、楽しげに口角をつり上げた。「わかった。家まで送ってやるよ」……翌日、明光法律事務所にて。明乃が仕事に追われていると、徹が書類を手にドアをノックした。「ボス、新規の案件っす。目を通してください」「どんな案件?」「医療トラブルっす。依頼人は高齢の女性で、病院で投与された薬の副作用で重篤な症状が出たと主張しているんですが、病院と製薬会社が責任を擦り付け合っている状態でして」徹が資料を差し出した。「証拠が複雑なうえ、
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