九条湊は恐妻家であるという噂は、こうして見事に業界内に広まっていったのだ。遥は呆れて言った。「周りから笑われるんじゃないかって、心配にならないの?」「笑われたって構うもんか。どうでもいい飲み会に付き合わされて、無駄な時間を過ごすよりずっとマシだ」湊は世間体など、これっぽっちも気にしていなかった。彼はわざと怖い顔を作って、遥を脅かすように言った。「あのな、金融界隈の裏側がどれだけドロドロしてるか、お前は知らないだろ。あいつらの遊び方ときたら、見てるだけでこっちの目が腐りそうになるくらいだぞ」遥は彼の性格をよく知っている。本当にそんな時間があるなら、湊は一秒でも長く自分にまとわりつき、結衣と一緒に過ごす方を選ぶだろう。結衣のことに思いを馳せた瞬間、遥の頭に再び健太の妹のことがよぎった。もしもいつか、自分の娘が同じような目に遭ったら……遥は考えることすら恐ろしかった。もしそんなことが起きれば、到底受け入れられないだろうし、親としての自分の教育を深く責めることしかできないはずだ。健太の口ぶりから察するに、あの妹はおそらく両親が年を取ってから生まれた末っ子なのだろう。家中で溺愛され、欲しいものは何でも買い与えられて育ったに違いない。だからこそ、世の中のすべてに対して甘い幻想を抱き、純真すぎるほど無防備に育ってしまった。スマホの画面越しに、お互い無言で手元の仕事を進める。ふと作業の手が止まった時に、顔を上げて二、三の言葉を交わす。それが二人の日常だった。……翌日、帝京府。空は晴れ渡り、突き刺すような猛烈な日差しが降り注いでいた。八月を目前に控えた畿内は、アスファルトの照り返しで息もできないほど熱気に包まれている。真理は全身黒ずくめの装いだった。半袖のロングワンピースに革靴まで真っ黒で、見ているだけで暑苦しい。彼女は今、自分があらゆる熱気を吸い込んでしまっているような錯覚に陥っていた。幸い、車を降りてから少し歩いただけで、すぐに病院の中へ入ることができた。誠が前を歩いている。偶然か意図的か、彼もまた全身黒ずくめの服だった。黒い半袖シャツから覗く腕の筋肉は、今にも袖をはち切れさせんばかりに隆起している。後ろから見ても、彼の体格の良さは際立っていた。相当なト
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