「どういたしまして。こちらとしても、現場の生きたデータを取得できたのは有益でした」 翔吾はパソコンを閉じ、眼鏡のレンズを拭いた。 実際、実加の言う内容は彼にとって新鮮だった。データ上で把握していたはずの業務も、現場の人間の生の声には遠く及ばない。それを再実感した。 実加と理玖に改めてお茶でも出そうと思い、翔吾は立ち上がりかけて。「よし。じゃあ、今日のお礼にウチが飯作ってやるよ」 実加の唐突な提案に、翔吾の動きがピタリと止まる。「……夕食ですか。手間のコストを考えれば、外食で済ませた方が効率的です」「何言ってんだ。自炊した方が安上がりだろ。ウチも理玖のために、少しでも貯金しておきたいしな」 実加は立ち上がり、パーカーの裾を引っ張った。「ここに来る途中、近所にスーパーがあったな。買い出し行こうぜ」「しかし……」「いいから行くぞ! ほら理玖、お外行くよー」「おそと!」 おもちゃの車を握りしめたまま、理玖が立ち上がる。 午後いっぱいを室内で過ごしていたのだろう、出かけるのが実に嬉しそうだ。 実加のペースに完全に巻き込まれ、翔吾はコートを羽織るしかなかった。 ◇ 3人はスーパーに入ると、通路を歩いた。 夕方の店内は、夕食の買い出しに来た客で混み合っていた。特売のポップが貼り出されて、軽快なBGMが流れている。「お、今日の豚挽き肉、安いじゃん。ハンバーグにするか。理玖も好きだし」 実加がパック入りの挽き肉を手に取り、カートに放り込む。「合い挽き肉よりも豚肉の比率が高いですね。脂質が多いため、焼く際の温度管理に注意が必要です」 翔吾がパッケージのラベルを見ながら補足する。「はいはい、わかってるよ。玉ねぎと……ニンジンのすりおろしも入れとくか。栄養バランス大事だろ?」
آخر تحديث : 2026-07-25 اقرأ المزيد