All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 751 - Chapter 760

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第751話

「それは好都合じゃない!」綾芽は思わずとっさに本音を漏らした。しかし、浩之の自分を見つめる眼つきを見て、すぐに付け加えた。「私が言いたいのは、もしそれが事実だとしたら、私たちにとって入札が有利になるってこと」浩之は険しい表情で頷いた。「さっき、私も西園寺さんには探りを入れてみたんだが、彼女は淡々としていたよ。きっと返答する勇気がなかったからだろう。でも、わざとああいう態度を出して、私に何かあると思わせるという可能性もある。伊集院社長が何か企んでいて、今は姿を現わせないだけなのかもしれない。そしてタイミングを見て一気に動きだすとか?」浩之は多くの可能性を考えていた。伊集院家の中で、柊馬を除いて舵取りのできる人間は他にもいる。修治は会長として、入札に参加することだってできる。だから、全てを一花一人に負わせる必要などない。「この件は、そう難しいことじゃないわ。私に任せて」この時、綾芽は何か思いついたらしく、目をぎらりと光らせた。……翌日の昼、一花は会議を終わらせたばかりで、夏海から電話がかかってきた。昼休憩をとる暇もなく、すぐに西園寺グループへと急いだ。勇がすでにオフィスで一花のことを待っていた。彼の手には株式の書類があり、しっかりと準備を整えてきたようだった。この時、夏海はドアの前に立っていて、目で合図を送り、一花に注意を促した。勇の今回の登場は非常に大々的で、会社内には見物に来る人が多くいた。彼らのほとんどは社長室に集まることをためらっていたが、近くを通り過ぎる時には、ちらりとそのほうへ視線を移していた。少しでも何か動きがあれば、すぐに西園寺グループに関する衝撃的なニュースが漏れだしてしまう。一花は早い段階で心の準備をしていた。彼女は夏海に視線を送り、そのフロアの付近の人を払い、一人、オフィスの中に入っていった。勇はこの時、確かに一花に責任追究に来ていた。勇と侑李は仲違いし、侑李は西園寺家の一切の支援を断つと、二人の間で約束が交わされた。しかし、今日西園寺グループは侑李に、陸斗の副社長という席を与えることに決定した。一花がオフィスに入って口を開く前に、勇が単刀直入に言った。「一花さん、君のプライベートなことに私は一切口を出してこなかっただろう。私の家のことに君が口を挟む権利
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第752話

一花は本来、勇と冷静にきちんと話し合いたかった。しかし、相手がまったくそれを許さず一歩も譲ろうとしなかった。だから彼女も断固とした態度で言うしかなかった。「伯父様が侑李さんにとても期待していたことを知っています。彼が何か間違った選択をしたとしても、彼の人生を決める権利はあなたにはないはずです」勇は鼻で笑った。「一花さん、私に説教でもしようというのか?」一花は言った。「そんなつもりじゃありません。でも、彼とそのような約束をしたのなら、堂々と彼を西園寺家から完全に追い出して、恩恵が受けられないようにしたらいいのではないですか?それと同時に、西園寺家のせいで彼を困らせる状況にさせるのは、不公平というものですよね」「公平だ。あの子は小さい頃から一般人には受けられない恩恵を受けてきたのだから。私に公平さを訴えるなんて、どんな資格が君にはあるのかね」勇は一花の訴えに笑えてきた。勇が全くいうことを聞く気がないのを見て、一花もこれ以上は彼と話し合いにならないと判断した。「伯父様、私はあなたときちんとお話したかっただけですよ。でも、私の言葉に耳を傾けてくださらないのなら、もう何も言いません。彼を副社長にするのは私の決定であり、彼には関係ありません。会社の規定に違反しているというのなら、私が責任を持ちます。伯父様が心配なさる必要はありませんから」一花は勇がもし彼女と本気で争う姿勢なら、内部の手続きにおいて、自分はかなりのプレッシャーを受けることはわかっていた。でも、彼女はそれに構わなかった。勇と西園寺家を怒らせても、今の彼女はどうでもよかった。そしてこの時、侑李が入ってきた。侑李は勇と一花が自分のせいで衝突していると聞き、すぐに駆けつけてきたのだ。侑李が来た時、茉白もドアの前にいた。彼女は本来、中に入って勇に謝りたかったが、ずっと勇気が出なかった。そして侑李が来たのを見ると、彼が衝動的になるのではないかと心配し、無意識に彼の腕を掴んだ。この間夏海が、侑李は西園寺グループに来たらいいと提案した時、まさにこのような事態になると予想していた。しかし、彼女はただ黙って侑李が外で苦労している姿を見たくなかった。だから、今回侑李が彼女に西園寺グループで働く相談をしてきた時、彼女はすぐに賛成した。今思えば、彼女は
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第753話

「私に一度だけでいいからチャンスをください!おじ様が今はただ怒りがおさまらないだけで、本当に息子さんにひどいことをするお父様じゃないって分かっています。私に対して要求があればその通りにやります。私を罰し、罵られても構いません。おじ様の気が済むまでなんでも私は言う通りにします!」「茉白!」侑李は暫く呆然としていて、やっと彼女を止めに入った。侑李は彼女がそう懇願したところで、勇には通用しないと思ったし、彼女が屈辱を味わい、つらい思いをするのが嫌だった。それに……茉白の性格からして、二階堂家に何か嫌がらせをされても、頭を下げて懇願することは絶対になかった。そんな彼女が今、侑李のためにみんなの目の前で勇の情けに縋ろうとしている。この行為は、彼女にとって彼女の自尊心を粉々に砕くのと同じだ。勇は二人を見つめ、突然何かを思いついたように、冷たく笑った。「いいだろう」その言葉に茉白は期待の眼差しを向けた。しかし、侑李と一花が驚く中、勇はまたこう告げた。「今すぐ三度土下座しろ、そうすれば許してやろう」「……」茉白はその言葉に顔色を変えた。侑李はすぐに茉白の手を掴み、怒りに燃える目で勇を睨んだ。「父さん、それはあまりにもひどすぎるだろう。彼女は何も間違ったことなんてしてないんだぞ」「さっき彼女が自ら言ったじゃないか。罰してほしいとな。昔この女のために、お前は肋骨まで折る重傷を負った。そして今また同じ女のために全てを失っていいと言う。それなのに、彼女のほうはただ口先だけで、お前と一緒になりたいと言ってるだけなのか?」勇の一言一言が、茉白を揶揄している。茉白は唇を噛みしめ、あまりためらわずに、膝を床についた。侑李は力を込めて、彼女を止めようとした。「茉白何をしているんだ!やめてくれ!」「放して」茉白は嗚咽交じりの声でそう言うと、真っ赤な顔で侑李を見つめた。「私にはできるわ……」勇は立ち上がると、オフィスのドアを全開にし、他の社員たちにも見えるように、わざと彼女に屈辱を与えようとした。そして冷ややかな声で放った。「私はあまり我慢強くないんだ。もし、私の許しが欲しくないというなら、もういい」一花はもう見ていられず、強制的にオフィスのドアを閉めた。「伯父様、もうこれ以上二人を追いつ
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第754話

「私にお前たちの結婚を認めさせたいというのなら、いいだろう」やっと勇が重たい声を出した。一花はその言葉を聞いた瞬間、二人のほうを見た。茉白と侑李の瞳にも希望の光が宿った。しかし次の瞬間、再び勇の冷たい声が響いた。「私が死ねばな」勇は侑李のほうへちらりと視線を向けた。そこには失望と、言葉では形容し難い冷たさが感じられた。勇はその言葉を吐き捨ててから、背を向けて去っていった。その頑固な態度には、一花もおかしいと思うくらいだった。しかし、一花は少しの間呆然としていてから、すぐに二人のほうを向いて、侑李と茉白を起き上がらせた。茉白は真っ赤な顔で俯いていた。今にも泣きだしそうなくらい、挫折を味わった顔をしている。侑李はそんな彼女の心情が痛いほどにわかっていて、胸を締め付けられ、彼女を優しく抱きしめた。そして慰めるように軽く背中を叩いてあげた。「本当にバカだな。なんであんなことしたんだよ。父さんの性格はよく分かってるんだ。僕たちと同じくらい彼も頑固なんだよ」侑李は小さな声でため息まじりにそう言った。しかし、茉白は堪えられなくなり、侑李に抱きしめられた瞬間、涙が抑えきれずにポタポタと落ちていった。「……」一花は二人の様子に、鼻の奥がツンとした。彼女はそもそもこのような状況を見ていられない性格だ。今は妊娠していて、余計に感情の起伏が激しく、見るのがつらかった。「茉白さん、侑李さん、あまり悲しまないで。伯父様もきっと今は怒りで我を失っているだけ。こんな時にいくら何を言ったって聞き入れてもらえないわ。二人はここでしっかり働いてちょうだい。伯父様のほうは彼が何をしてこようとも、私が対応するから」侑李は暫く茉白を落ち着かせるため抱きしめていてから、一花のほうへ顔を向けた。「僕は父さんのことをよく分かってるから。父さんは何をするのも勝ち負けにこだわるタイプで、母さんともそれが原因で別れたんだ。それに父さんが言っていた言葉も間違ってないよ。僕は西園寺家からずっと恩恵をもらってたんだ。今は自分勝手で思うままに行動したいなんて甘過ぎる考えだし、僕たちのことを受け入れなかったとしても、それは責められないよ。こうなるだろうって心の準備はしてたんだ。だから、素直に自分の気持ちに従った結果がどうなるか、その覚悟はできてたよ」
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第755話

一花が持つ資金は、西園寺家に関係するものだ。だから、彼女は侑李に投資してあげることはできない。しかし、彼女の友人には西園寺グループとの繋がりのない頼れる資本家が結構存在する。徹はその一人だ。一花の言葉を聞き、茉白も憂いを払い、侑李の懐から離れて、一花を強く抱きしめた。これは彼女が初めて自分の気持ちを行動に示した瞬間で、一花は驚いてしまった。「本当にありがとう、一花さん!」「そんな、当然のことでしょう。私たちは家族同然なんだから」一花は茉白の頭を優しく撫でた。この時突然、茉白がまだ大きくなっていない女の子のように感じた。なるほど侑李がいつも彼女を支え、大事にしているわけだ。「だけど、茉白さんにも約束してもらいたいことがあるの」相手を喜ばせる話をした後、一花は茉白の頬に両手をあて、重みのある口調で話し出した。「あなたは侑李さんと結婚したんだから、絶対に簡単にめげてはダメよ。どのような困難だって必ず克服できるわ。愛する二人が結局寂しく別れる、なんてことは望んでないの。それに、周りから言われる心無い言葉に自分の決意を揺らがせてはダメ」茉白はその言葉を聞き、しっかりと頷き、侑李に目を向けた。茉白を見つめる彼の眼差しに、優しさと決意を感じ取った。今まで何も変わっていないように感じていた。しかし、茉白は彼を見て、自分も強くならないといけないと思い始めた。昔、彼女の傍にいたあの男の子はとっくの昔に大人になってしまっていた。彼女だけがその場から離れることを恐れ、何も成長できていなかったのだ。実際、周りが茉白を捨てようとしたことはなく、ただ彼女自身が自分を諦めていただけだ。だからこの日をもって、彼女は絶対に誰かに捨てられてもいないのに、自分を諦めたりしてはいけないのだ。……M国、夕方。柊馬の部屋から、またガラスのグラスが割れる音が聞こえてきた。ドアの外にいた人がその音を聞き、慌ててドアを開けて入ってみると、やはりグラスが床に粉々に散っていた。ベッドの上にいる男はこの時手を伸ばしたまま、自分の体の制御がなかなかできない様子だった。「伊集院さん、何かお手伝いすることがあれば、いつでも呼んでくださいとお伝えしましたよね?」女性の使用人が呆れた顔で言った。一時間で、同じことがもうこれで五回目
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第756話

優紀は柊馬がそう言うと思い、無理強いはしなかった。優紀は柊馬がお腹を減らしていないのではなく、自分の体がこのようになったのを受け入れたくないだけだと分かっていた。誰かに世話されないのなら、粥を食べることすらも困難だ。まるで廃人になってしまったかのような自分をどうしても受け入れられない。「西園寺さんの情報を聞きたくないか?」この時、優紀は淡々とした口調で言った。その言葉に柊馬は眉をピクリと動かした。優紀はまた黙ってしまった。暫くして、柊馬は我慢できず、彼のほうを見た。「彼女がどうかしたのか?何かあったんじゃないだろうな?」「彼女自身には何もないけど、今はとても面倒な状況になっているみたいだよ」優紀は再びさっきの粥の碗を手にとり、立ち上がって、柊馬の口元にまた運んだ。彼は柊馬が一日中何も口にしていないと聞いて、わざと一花の話題を出したのだ。やはり、この方法が効くらしい。柊馬は食べる気など微塵もなかったが、顔を下に向けて、大きく一口すすった。柊馬がおとなしく食べたのを見て、優紀は続けた。「ギャロップの責任者が最近南関市で活動し始めたようだ。聞いたところだと、ギャロップと伊集院グループはある発注機関が公示した競争入札に参加するらしい。彼女はやはり女性だ、誰も彼女がそれに対抗できるかどうか分からない」その話を聞き、柊馬は落ち着いた。他のことなら、柊馬はきっととても心配しただろう。しかし、他でもなく伊集院グループの件であれば、彼は完全に一花を信じている。「彼女なら大丈夫だ」その声にはかなりの自信があった。それに、微かに一花に対する誇りも滲んでいた。「もちろん、彼女の能力は高いことは分かっているけど、そこまで自信を持ちすぎないほうがいいと思う。能力の高い女性は、周りが余計にどうにかしてそれに対抗しようと措置を取ってくるはずだ。お前だってすごい奴だろ。それでも誰かから罠にかけられたことはないのか?彼女は女性だ。女性は、良く言えば優しさだが、悪く言えば甘い部分を持ってる。お前のことのせいで、彼女がもう二度と立ち上がれないほど脆くなってしまうとは思わないのか」優紀がそう言うと、柊馬はすぐに反論した。「彼女は絶対にそんなことにはならない。お前は彼女を知らないだろう」優紀の瞳の底
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第757話

一花は心臓がバクバクして、頬は涙で濡れていた。どうにか気持ちを落ち着かせても、もう眠気はまったくなかった。昼、一花はあるメッセージを受け取った。それは幸雄が送ってきたものだ。和香が南関市に戻ったという。再び会ってみると、和香は一花が想像していたようなひどい有り様ではなかった。和香は化粧をしていなかったので、見た感じ普段よりもあっさりとした印象だった。しかし、肌の手入れはよくされているので、見た目はその年齢を感じさせなかった。逆に普段完璧に着飾っている時よりも、親切で優しそうに見えた。和香はM国から送還されてきた。あちらの警察は彼女の行方を探すことなく、彼女自ら自首し、一花に会いたいと申し出た。そして約束の場所は警察署ではなく、あるホテルの部屋だった。部屋の外には警察が見張りでついていた。和香が極悪人を雇ったという証拠が不十分だったため、今はただ警察に拘束されただけで、弁護士を通じて仮釈放され、今はただ自由な行動が制限されているだけの状況だった。一花は和香に会っても平静でいられると思っていたが、実際に会ってみると、体が制御できずに震えてしまった。瞬時に、脳裏に多くの血が散っているシーンが思い浮かんだ。柊馬の命は、彼女の血で償わせてやる!湊が一花の傍にいて、彼女の表情がどうもおかしいことに気付き、急いで注意した。「奥様、衝動に駆られませんよう」和香がわざと一花に会うために自首したのには、何か企みがあるに決まっている。今はまだ彼女の罪を断定できる証拠はない。ホテルの部屋には弁護士も、警察もいる。和香の傍には彼女の世話をするための付き人もいた。「一花さん、また会えたわね。ここ最近元気だった?」和香のほうからまず一花に挨拶の言葉をかけた。一花の今にも殺してやるといわんばかりに睨みつける目つきを見て、和香はとても満足げだった。一花は拳をぎりぎりと握りしめ、唇を動かし、暫くしてやっと冷笑を漏らした。その瞬間、口の中には血の味が広がった。「元気でしたよ。でも、あなたのほうはきっとあまり状況がよくなかったのでは?ずっと世界の果てまででも逃げると思っていましたけど、まさかこんなに早く出てくるなんて」「逃げる?どうして私が逃げないといけないの?」和香は挑発するようにそう尋ねた。「私
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第758話

一花が明らかに自分を恨んでいるのを見て、和香は得意になった。彼女は言った。「一花さん、実際私の要求はシンプルなのよ。私が裏で手を引いていただなんて馬鹿げた告発は取り下げて、西園寺グループの実権と匠の遺産を私に譲ってくれればいいの。そうすればあなたとは平和的に和解し、私たちがもう衝突することなんてなくなるの」一花はその言葉に、笑い声を漏らした。「ねえ、あなた頭でもおかしくなった?」この場にいる全員が一花が我を忘れた行動を起こすのではないかと警戒していた。警察でさえも、相手の挑発に乗って冷静さを失ってはいけないと諭してきた。全員が和香の罪を証明する証拠が不足しているが、極悪人を使ったことはほぼ事実だと思っている。M国のほうが協力してくれさえすれば、その罪は遅かれ早かれ確定するだろう。「伊集院柊馬さんは大丈夫?」突然、和香は小声でそう尋ねた。その言葉に、全員に緊張が走った。ただ唯一、一花だけが、素早く和香に飛びかかった。一花は手を伸ばして和香の襟を掴み、引っ張った。「あんたに彼の名前を口にする資格はない!」湊は慌てて反応し、和香の付き人が一花を引き剥がした瞬間、一花を庇うように前に出た。警察はただ低い声で注意した。「西園寺一花さん、手を出さないように」すると一花は力を込めて和香の襟を引き、和香の首がきつく絞まった。それでも一花は手の力を緩めようとしなかった。周りの人も一花になかなか手を出すことができずにいた。和香は冷たく笑った。「夫婦といっても、森の中に住まう鳥と同じようなものよ、危険が近づいた時には別々に飛んで逃げていくでしょ?それにしても、あなたたち夫婦はそれほど深い絆で結ばれているというのに、どうしてバス事故の時に、あなたは彼とともにいなかったの?」「またふざけた言葉を吐き出してごらんなさい、今すぐ口がきけなくしてやるから」一花も嘲笑した。彼女は和香の耳元に近づき、かなり落ち着いた低い声を出した。しかし、まったく冗談で言った言葉ではなかった。和香は背筋が凍るような思いがした。彼女はもちろん一花が冗談でそう言ったわけではないと分かっている。それに、別に一花を怒らせるためにこうやって来たわけではない。「口がきけなくなったら、彼の行方をあなたに伝えることができなくなるけど?」
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第759話

しかし今、亮は「青空」を率いている。和香も完全に白川家とは決裂してしまったし、匠に対する情もなくなっている。だから、ようやく二人は一緒になれる。それが、二人が会った時、和香はまだ西園寺グループにこだわり続けていた。亮もまさか彼女が諦めないとは思っていなかった。和香はいくら亮に止められても、南関市に戻り、引き続き一花と争うと、意見を変えることはなかった。亮は彼女がどんな野心を持っても支えられるつもりだというのに、どうして今でも彼女はまだ西園寺グループに執着しているのか、この時亮はようやくわかってきた。和香は別にどうしても西園寺グループを手に入れたいわけではない。ただ、彼女の匠に対する恨みが深く、どうしても勝負がつくまで、食い下がりたいわけだ。たとえ自らの命を犠牲にしたとしても、和香は止まるつもりはなかった。亮はそんな彼女を止めることは不可能だと判断し、柊馬がまだ生きているという情報を和香に教えた。それにより、一花の弱点をつこうという策だ。「青空」の人間はひたすら柊馬の行方を追っていた。柊馬の生死が確実に分かるまで……そしてやっと数日前に、柊馬と誠の消息が掴めた。和香は突然口を閉じ、ただ一花を冷たい目で睨んだ。一花は彼女の意図を読み取り、すぐに口を開いた。「みんな出て行って、私と彼女、二人っきりで話し合いたいから」湊は何か言おうと口を開いたが、一花が目配せで彼を制止し、そして、和香の見張りを担当する警察官に近づき、何かを短くささやいた。相手も安心できなかったが、一花の顔を立て、二人っきりの時間を五分だけ与えた。みんなが去ると、一花はすぐに引き続き和香に詰問し始めた。一花は和香の言葉など一切信用していないが、柊馬の情報であれば、嘘だったとしても、それを無視することはできない。和香は一花の我慢できない様子を観察しながら、バスの中の出来事を生き生きと語りだした。そして一花が泣きそうになった瞬間、話を止めた。和香は話し終わっていなかったが、その言葉の端々から柊馬は彼らの手中にあるのだと一花に暗示するものだった。今、彼は満身創痍。生きてはいるが、明日はどうなるのか分からない状況だ。「……口ではどうにでも語られるでしょう。それをどうやって証明するつもり?」一花はどうにか自分の気持ちを抑え
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第760話

一花が言うと、湊はすぐに彼女が伝えたい意味を理解した。「奥様、あの女の言葉を信じてはいけません!きっと作り上げたものでしょう。簡単に騙されてはダメです!」「じゃあ、あなたも彼は戻ってくるはずはないって思ってるのね?」一花の一言に、湊は言葉を詰まらせた。彼女は下を向いた。今座っている椅子は、昔柊馬がよく座っていた場所だ。窓の外はすでに暗くなっている。寂しげにしている一花の肩が徐々にその闇に包まれていく。それでも、この時の彼女はここ数日で一番落ち着いた様子だった。「私は……」湊はなかなか言葉が出てこなかった。彼は無意識に、柊馬はすでにこの世にはいないものだと思っていたのだ。あのバスが爆発したと聞いた瞬間、柊馬は二度と帰ってこないだろうと思っていた。そして一花も自分と同じように考えていると思った。一花がM国にいる徹にずっと柊馬の情報を探してもらっているのは、自分をただ慰め、心の拠り所にするためにしているのだと思ったのだ。そうすれば、暫くの間、苦しみや絶望から逃れられる。「私は彼が生きてると信じているわ。あの女の話が全て本当ではないにしても、柊馬が生きているということに関しては、本当だと思うの」一花の頭も、とても混乱していた。和香に柊馬の話題を出された時には、冷静でいられなかった。だから、彼女は今やっと冷静に考えてから決心した。理性的な判断ができないのであれば、自分の心に従うまでだ。和香が、捨て身の覚悟で挑んできたのだ。一花のほうはそれを受けて立たない理由はないだろう。「奥様、それではあまりにも衝動的すぎるのでは……」「彼が生きていることは他の何よりも重要なの」一花は湊にはうるさく言われたくなく、彼の言葉を遮ってからまた言った。「私名義の資産はとても多いから、すぐには整理できないはず。ゆっくりまとめてもらえばいいから。それから契約書も、何かあったときのために、何パターンか用意しておいてくれる?」一花がそう言うと、湊は一瞬呆然としたが、すぐに我に返って全てを理解した。彼はやる気を出した顔になり、ニヤリと笑った。「かしこまりました!」和香が最も執着しているのが、匠の遺産だ。これらの遺産を譲渡するにしても、かなりの時間がかかる。時間こそが、今の一花にとって唯
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