その答えを聞き、晴人は意外そうな顔をした。「彼女から連絡がないだと?」アシスタントは確信を持って首を横に振った。「はい、ありません」晴人の動きが止まり、瞳に驚愕の色が走った。短い沈黙の後、彼は冷たく言い放った。「分かった。帰っていいぞ」広大なオフィスには、すぐに晴人一人だけが残された。彼は残りの冷めたコーヒーを飲み干し、一晩中電源を切っていた携帯を立ち上げた。無数の不在着信とメッセージが洪水のように画面を埋め尽くした。事情を探る友人たちを除けば、そのすべてが同一人物――葵衣からのものだった。厳太郎は、彼が事態の収拾に追われていることを察して電話をかけず、アシスタントに直接連絡を入れた。晴人は着信履歴を一番下までスクロールしたが、そこに「高橋咲良」の名前はなかった。意外だった。電源を切る前、彼は咲良に一度電話をかけている。彼女の性格なら、着信履歴を見れば必ず掛け直してくるはずだ。電話どころか、彼がメッセージを送れば、いつだって即レスが返ってきた。だが今、咲良とのトーク画面を開いてみると、二人の履歴は数十日前、彼が送った「了解」という素っ気ない一言で止まっていた。まさか、彼の言葉で終わっていたとは。咲良がこんなに長い間、雑談を送ってこなかったことがあっただろうか?あり得ない。普段の彼女は無駄話が多く、新しい服を一着買っただけでも「似合う?」と一万回は聞いてくるような女だ。こんなに長く沈黙するなんて、何かがおかしい。晴人の胸に、ようやく違和感が広がり始めた。彼は咲良にメッセージを送ろうか迷った。だが一文字目を打ち込んだ瞬間、ドアが乱暴に開かれた。葵衣が怒りの形相で飛び込んできた。「お兄ちゃん、なんで電話に出てくれないのよ!」晴人は溜息をついた。「今終わったところだ」葵衣は晴人の手元で光る画面に目を留めるや、またしてもその携帯を乱暴にひったくった。「お兄ちゃん!こんな時まで、まだあの人のことを気にしてるの?咲良さんの手口は凄いわね!知ってる?さっき伊藤家から婚約破棄されたわ。お祖父様は激怒して、次の貰い手が見つかるまで私を閉じ込めておくって!」葵衣の目はウサギのように赤く腫れ、体は小刻みに震えていた。その姿はいかにも庇護欲をそそるものだった。「やっと逃げ出してきた
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