一瞬、時彦の意識は一週間前の午後へと引き戻された。あの日、寧々は彼に一通の書類を差し出してきた。だがその時の彼は、美咲のことで頭がいっぱいで、中身を確かめることもなく、そのまま署名してしまった。思い出すほどに、時彦は自分の舌を噛み切りたくなった。後悔がじわじわと胸を蝕み、まるで虫に噛まれているようだった。寧々が、ここまで本気で離婚しようとしていたなんて、想像もしていなかった。だが、これは自分が納得した話じゃない!勝手に決められるなんて、そんなの通るはずがないだろう?時彦は苛立ちがこみ上げた。美咲を傷つけたあと、離婚という形で全てを断ち切ろうとしているのか?これほど長く愛し合ったのに、そんな簡単に終われるわけがないだろう?怒りが極まったその瞬間、時彦は逆に笑ってしまった。そして、手にしていた書類を乱暴に引き裂いた。「探せ!あの口座だ!何が何でも出所を突き止めろ!!あの女がどこまで逃げられるのか、見てやる!!」何に対してここまで腹を立てているのか、時彦は自分でも分からなかった。ただ、怒りの奥で、何か大事なものが少しずつ自分の手から零れ落ちていく感覚があり、それがどうしようもなく不安だった。寧々を見つけて、美咲のことも含めて、ちゃんと話をする。そう決めてから、時彦は捜索の手を緩めなかった。家に帰る回数は減り続け、ついに我慢強い美咲でさえ、甘えた声で不満をこぼすようになった。それでも彼が顔を出しても、三十分も経たないうちに帰ってしまう。「このままじゃダメ……この人の心は、まだ寧々に縛られてる」美咲は歯を噛みしめ、最後に一つの決断をした。時彦の飲むお茶に、薬を混ぜることを。意識がぼんやりしてきた頃、美咲はそっと彼のシャツのボタンに手を伸ばした。「寧々……君の手、どうしてこんなに冷たい……」美咲が何か言う前に、時彦は彼女を強く抱き寄せた。抑え込んでいた欲情が、一気に溢れ出す。もう一度、彼の子を宿せばいい。そうすれば、ここにいられる。その時、彼が呼ぶ名前が寧々でも、そんなことはどうでもよかった。だが、腕の中の感触に、時彦はすぐ違和感を覚えた。寧々は、こんなに華奢じゃない。こんなに痩せてもいない。彼女の体は、いつも柔らかくて温かく、磨かれた玉のようだった。意識が一気に醒めた。「どうし
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