資産家の令嬢・白川栞(しらかわ しおり)は、誰もが羨む存在だった。彼女には大富豪の父と、溺愛してくれる兄・雅人(まさと)がいるだけでなく、父が彼女のために選び抜き、共に育て上げた「三人の完璧な花婿候補」がいたからだ。速水蓮(はやみ れん)は、その美貌で世界中を熱狂させるトップスター。瀬名拓実(せな たくみ)は、冷徹で気高い天才デザイナーだが、彼女にだけは優しい笑顔を見せる。古賀秋彦(こが あきひこ)は、優しく献身的な医師。何よりも彼女を第一に考えてくれる。彼女が誰を選ぶのか――社交界ではその行方に莫大な賭け金が積まれていた。そして周囲の予想を裏切り、栞が選んだのは秋彦だった。結婚から三年。二人は誰もが認める「おしどり夫婦」として、片時も離れず愛し合っていた。だが、栞の心には誰にも言えない棘が刺さっていた。なかなか子宝に恵まれず、来る日も来る日も病院に通っていたのだ。そんな彼女を、秋彦はいつも優しく抱きしめた。「栞、そんなに自分を追い詰めないでくれ。君さえいれば、子供なんていらないよ。養子を迎えたっていいんだから」この人と結婚して本当に良かった――栞は心からそう信じていた。誕生日のあの日、病院からある検査報告書が届くまでは…… *栞はパニックに陥りながら、秋彦が勤務する病院へと急いだ。息を切らして正面玄関にたどり着いた直後、彼女の足がピタリと止まった。視線の先に、白衣姿の秋彦がいたからだ。彼は、栞の義理の妹である白川美月(しらかわ みづき)を大切そうに支え、産婦人科から出てきたところだった。美月は少しふっくらとしたお腹を愛おしそうに撫で、甘ったるい声で言った。「秋彦さん、ありがとう。私に赤ちゃんをくれて」彼女の目は赤く潤み、今にも泣き出しそうだ。「でも……もしお姉ちゃんが先にあなたの子供を妊娠したら、私たち母子のこと、捨てちゃう?」その言葉に、秋彦は優しく彼女の涙を拭う。「あり得ないよ。彼女との間に子供ができることは、永遠にない」「どうして?」秋彦は一瞬沈黙した後、声を潜めて答えた。「この三年間、あいつの食事にはずっと避妊薬を混ぜていたからな」その瞬間、栞の頭の中で何かが「ブン」と音を立てて弾けた。全身の血液が凍りつき、指先が震えだす。美月は安心したように彼の腕
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