LOGIN資産家の令嬢・白川栞(しらかわ しおり)は、誰もが羨む存在だった。 彼女には大富豪の父と、溺愛してくれる兄・雅人(まさと)がいるだけでなく、父が彼女のために選び抜き、共に育て上げた「三人の完璧な花婿候補」がいたからだ。 速水蓮(はやみ れん)は、その美貌で世界中を熱狂させるトップスター。 瀬名拓実(せな たくみ)は、冷徹で気高い天才デザイナーだが、彼女にだけは優しい笑顔を見せる。 古賀秋彦(こが あきひこ)は、優しく献身的な医師。何よりも彼女を第一に考えてくれる。 彼女が誰を選ぶのか――社交界ではその行方に莫大な賭け金が積まれていた。 そして周囲の予想を裏切り、栞が選んだのは秋彦だった。 結婚から三年。二人は誰もが認める「おしどり夫婦」として、片時も離れず愛し合っていた。 だが、栞の心には誰にも言えない棘が刺さっていた。 なかなか子宝に恵まれず、来る日も来る日も病院に通っていたのだ。 そんな彼女を、秋彦はいつも優しく抱きしめた。 「栞、そんなに自分を追い詰めないでくれ。君さえいれば、子供なんていらないよ。 養子を迎えたっていいんだから」 この人と結婚して本当に良かった――栞は心からそう信じていた。 誕生日のあの日、病院からある検査報告書が届くまでは……
View More雅人は長谷川家に駆けつけ、強引に押し入ろうとした。しかしあの日以来、瑛太は警備を厳重に強化していた。雅人は門に辿り着く前に、屈強なボディガードたちにつまみ出された。諦めきれない彼は、門の外で声を限りに叫んだ。「栞!兄さんが助けに来たぞ!家に帰ろう、栞!」その時、栞はちょうど瑛太と結婚式の詳細を話し合っているところだった。外の騒ぎに気づき、彼女は眉をひそめた。「誰かしら?騒がしいわね」瑛太は冷ややかに笑い、栞の額に優しく口づけをした。「ただの不審者だよ。気にしなくていい。僕が追い払ってくる」瑛太は門の外へ出ると、地面に座り込む雅人を蔑んだ目で見下ろした。「雅人、まだお前にツケを払わせてないのに、わざわざ殴られに来たのか?いいだろう!新旧まとめて精算してやる!」瑛太は雅人の腹を容赦なく蹴り上げた。何度も、何度も。雅人が口から鮮血を吐くまで、その足は止まらなかった。「瑛太……今日……僕を殺したとしても……僕は……栞を連れて帰る……」雅人は血まみれの口で、執拗に瑛太を睨みつけた。瑛太は、嘲るような笑みを浮かべた。「雅人、お前は今まで栞に何をしてきた?ずっとあの偽物の妹を大事にしてきたくせに、今さら何だ?偽物がお前たちを愛してないと分かった途端、本物の栞が惜しくなったのか?虫が良すぎるんだよ!」図星を突かれた雅人は、全身を震わせて言葉を失った。瑛太はこれ以上相手にする価値もないと判断した。彼は冷ややかな目で合図を送り、ボディガードに瑛太を引きずり出させた。ボディガードたちが雅人を路地の隅へ引きずっていき、さらに拳を浴びせた。「失せろ!坊ちゃんの命令だ!」その後、遅れて駆けつけた拓実が、瀕死の状態の雅人を発見し、慌てて病院へと搬送した。秋彦と蓮も病院へ駆けつけた。四人は話し合い、栞の結婚式当日に全員で乗り込み、彼女を奪還することを決意した。……結婚式当日。長谷川家は祝賀ムードに包まれていた。新郎新婦を乗せた車が、式場へと向かう。車列が道半ばに差し掛かった時、突如として四台のマイバッハが前方を塞いだ。車から降りてきたのは、秋彦、蓮、雅人、拓実の四人だった。彼らは新郎新婦を乗せた車を取り囲んだ。「栞、降りてこい!兄さんが連れて帰ってやる!」
「瑛太、栞に何をした!?なぜ彼女は記憶を失っているんだ!」秋彦は瑛太の襟首をきつく掴み、詰め寄った。だが次の瞬間、瑛太は容赦なく彼を殴り飛ばした。ドゴッ!「何をしただと?その言葉、そっくりそのままお返しするよ!秋彦、お前たちがその偽物の女と結託して、どれだけ栞を痛めつけたか、僕が知らないとでも思ってるのか!?お前らの裏切りと嘘がなければ、栞が絶望して海外へ治療に行くことなんてなかったんだぞ!」瑛太は倒れた秋彦を冷ややかに見下ろした。「警告しておく。二度と栞に近づくな!僕たちの生活を邪魔するな!」最後に数回、秋彦の腹を蹴り上げると、瑛太はその場を立ち去った。……栞はあの日起きた騒動などすぐに忘れ、結婚式の準備に専念していた。一方、白川家のリビングには、雅人、秋彦、拓実、そして車椅子の蓮が集まっていた。「秋彦……栞は本当に生きていたのか?」雅人が恐る恐る尋ねる。秋彦が重く頷くと、車椅子の蓮が感極まって泣き出した。「よかった……栞は死んでなかったんだ!生きてたんだ……」拓実も深呼吸を繰り返し、溢れそうになる涙を必死に堪えていた。「よし、すぐに行って栞に謝ろう。許しを請うんだ。あいつは昔から優しい子だ、きっと許してくれる。これまでの償いは、一生かけてしていくつもりだ」雅人が興奮気味にまくし立てる。蓮と拓実も同意して頷いた。しかし、秋彦だけは沈痛な面持ちで俯いていた。「どうしたんだ、秋彦?」秋彦は興奮する三人を見て、ためらいながらも口を開いた。「栞は……記憶喪失なんだ」その言葉に、三人は雷に打たれたような衝撃を受けた。「なんだって?」「栞は海外で最新の癌治療を受けたんだ。癌は完治したが、副作用ですべての記憶を失ってしまったらしい」冷水を浴びせられたように、三人の情熱が一気に冷める。「それに……栞はもうすぐ、長谷川家の次男・瑛太と結婚する」秋彦が絶望的に告げると、雅人は信じられないという顔をした。「嘘だ……栞が僕たちを忘れるなんて、そんなことあるわけがない!一時的なものだろ?僕たちが会いに行けば、きっと記憶は戻るはずだ!」雅人は自分に言い聞かせるように声を荒らげた。「僕は認めないぞ!栞が長谷川の家の嫁になるなんて、絶対に許さない!結婚式
瑛太と栞は、すぐに帰国した。栞は記憶を失っていたが、瑛太の家族はすでに彼女の事情を知っていた。長谷川家の両親は心を痛め、瑛太の母は栞の手を握りしめて涙を流した。「いい子だね。これからはここが君の家よ。私たちの本当の娘同然だからね」栞はその温かさに感動したが、同時に疑問も抱いた。なぜ彼らは、少し悲しそうな目で自分を見るのだろうか。それから間もなく、栞と瑛太は婚約した。しかし、その話はうっかり芸能記者によってスクープされてしまった。瑛太は激怒したが、栞が優しくなだめた。「いいのよ、瑛太さん。怒らないで。どうせ結婚式を挙げたら、すぐに海外に行くつもりなんだから」瑛太は栞の穏やかな瞳に見つめられ、怒りを忘れて彼女を抱きしめた。何もかも忘れてしまった彼女が、愛おしくてたまらなかった。あの日以来、栞の周囲にはボディーガードの数が増やされた。ある日、彼女がボディーガードを連れてショッピングに出かけた時のことだ。突然、どこからともなく現れた男が、彼女を強く抱きしめた。「栞!よかった……やっぱり生きていたんだね。死んでなんかいなかったんだ!」秋彦は失われた宝物を取り戻したかのように、栞を強く抱きしめた。その目からは激動の涙が溢れ出していた。栞は反射的に彼を突き飛ばし、警戒心を露わにした。「誰ですか?何をするの!?私の婚約者がもうすぐ来るわよ。離れて!」秋彦は、栞がまだ過去のことを怒っているのだと思い込み、必死に言葉を継いだ。「栞、僕たちが間違っていた。全部美月の仕業だったんだ。僕たちはあいつに騙されていただけなんだ。でも安心してくれ、美月には相応の罰を与えた。だからもう怒らないでくれ……帰ってきてくれ!君がいなくなってから、どれだけのことが起きたか……」秋彦は感極まって目を赤くし、声を詰まらせた。「知っているか?蓮は事故で脚に重傷を負って、一生松葉杖の生活になったんだ……拓実も罪悪感からデザイナーを辞め、毎日仏前で懺悔する日々を送っている。君の兄さんの雅人もだ。君が死んだと思ってから再起不能になって、毎日君の墓の前で酒に溺れている。会社も倒産寸前だ。そして僕も……栞、君が去ってから毎日が地獄だった。もっと早く気持ちを伝えればよかった。君を騙したりしなければよかったと、後
退院の日、瑛太は大きなひまわりの花束を抱えて、病院の入り口で栞を待っていた。「栞、僕と一緒に帰国しないか?」栞の頬が微かに赤らむ。これまでの入院生活で朝夕を共にし、彼の好意には薄々気づいていた。だが、無意識のうちに働く何かの力が、彼女に首を横に振らせた。「瑛太さん、ごめんなさい。私は帰りたくないの」それを聞いて、瑛太の顔に傷ついたような色が浮かぶ。だが、彼はすぐにいつもの屈託のない笑顔に戻った。彼はひまわりの花束を強引に栞の腕に押し付けた。「分かったよ。君が帰りたくないなら、僕もここに残って付き合うさ」彼は当然のように栞の手を引き、自分の滞在先へ連れて行こうとした。栞は慌ててその手を振り払った。「瑛太さん、私には自分の家がある。あなたの気持ちは知ってる。でも、受け取れない。分かってほしいの。あなたとは一緒になれないわ」栞は真っ直ぐな瞳で瑛太を見つめた。図星を突かれた瑛太は、耳まで真っ赤になった。「な、何言ってんだよ……僕は君を……ただの友達として心配してるだけだろ。異国の地で一人ぼっちは心細いだろうと思ってさ」二人が押し問答をしていると、友人の高田エリカ(たかだ えりか)が手を振って近づいてくるのが見えた。「私には友達がいるし、自分一人でも生きていけるわ」栞は申し訳なさそうに微笑み、瑛太を残して歩き出した。……「栞、退院おめでとう!まさかこっちで会えるなんてね」エリカは栞がかつて留学していた頃の唯一の親友だった。美月にいじめられていた時も、いつも彼女を助けてくれていた存在だ。エリカは栞をきつく抱きしめた。「それにしても栞ってば、本当にモテるんだから。あの長谷川グループの御曹司が、女の子を追いかけ回して振られるなんて傑作ね。初めて見たよ、あんな顔」エリカは、青ざめた顔で呆然と立ち尽くす瑛太を見て、愉快そうに笑った。「もう、エリカってば。行こう」栞は彼女の腕を取って歩き出した。「ええ、行きましょ!今日は栞が地獄から脱出したお祝いよ!パーッと遊ぶわよ!」……M国での生活は、次第に軌道に乗り始めた。亡き父が海外口座に残してくれていた基金を元手に、栞は小さなペットショップを開いた。ずっと小動物が好きだった彼女にとって、それは夢の実現だ
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