「……うん。でも、石黒さんのお母さんが……なんて言えばいいのかな。あの目で見つめられ、泣かれたとき、胸が締めつけられるようだったの。もし石黒さんが刑務所に入ってしまったら、お父さんはきっとお母さんの治療費を出してくれなくなる。そうなれば、あの人は……」星羅の胸に立ち込めた暗雲は、一向に晴れる気配がなかった。彼女には、他者の痛みに寄り添える優しさがあった。けれど同時に、誰かを救い出すだけの実力を持たないのだ。茜はその言葉の裏にある葛藤を瞬時に察し、わずかな沈黙のあと、静かに言った。「石黒さんのお母さんに伝えてあげて。恨むのなら、その相手を間違えないでほしい、って。たとえ娘が刑務所に入ることになったとしても、その怒りの矛先を向けるべきは、私たちではないはずよ」「あー……」星羅は長く声を漏らしながら、感銘を受けたように深く頷いた。「さすが茜ちゃんだね」「向こうから先に仕掛けてきたのだもの。相応の報いを受けてもらうことに、誰かに文句を言われる筋合いはないわ」茜は茶目っ気たっぷりに、小さくウィンクしてみせた。「そうそう、その通り!」星羅はこくこくと頷き、視線を少し先に停車している車へと向けた。「そろそろ出てくる頃だよ、早く行って。私、まだ別の棟の仕事が残っているから」茜は短く頷くと、足早に別荘の方へと向かった。ちょうど別荘の玄関からロアール夫人が姿を現したところだった。声をかけようと踏み出した足が、思わず止まる。夫人の傍らには、和久の姿もあったのだ。茜は咄嗟に、並んだ車の陰へと身を潜めた。「さすがは柏原さん、お目が高い。私とお母様の一族が手を組めば、柏原家が快く思わないのは火を見るより明らか。だからこそ、あえて私と柏原グループとの提携という体裁を整え、諒助さんには好き勝手にさせておく――今や私とワース家との提携も成立して、あなたにとっても、山荘の管理権を取り戻すことができたし。ふふ、これこそ『一石二鳥』というやつね」和久は静かに目を細めた。「すべては、夫人が見事に立ち回ってくださったおかげですよ」その言葉を耳にした瞬間、茜は釘付けになったように立ちすくんだ。自身の読みなど、真実の端を掠めていたに過ぎなかったのだ。最初から最後まで、この「提携」という名の芝居はすべて和久が仕組んだ罠だった。
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