絵美里は奥歯を噛んで、バッグから隠し持っていたものを取り出した。諒助の腕をぐいと掴む。「諒助さん、私のために揉めないでください。悪いのは私よ。おじさんにちゃんと謝るわ」そう言いながら、赤ワインをグラスに一杯注いで、雲海に差し出した。「おじさん、昔の生活が懐かしいでしょう?特別なワインを持ってきたんです。飲んだら、もう怒らないでいられますよ」雲海は長期の服薬で痩せ細り、血の気もない。絵美里の力にすら抵抗できなかった。逃れようとするが、肩を絵美里に押さえつけられてしまう。「放してください!父は病気なんです、お酒は飲めません!」茜が叫びながら割って入ろうとした。看守が止めに入ろうとしたが、諒助に鋭く一瞥されると、扉のそばへと退いてしまった。諒助は薄く口を開け、どこか困ったような顔で茜を見た。「絵美里が看護師に確認したんだ。おじさんは少し飲む程度なら大丈夫だって。そんなにむきになるな。絵美里はお前に会いに来るために、わざわざ午前中ずっと準備してくれたんだぞ」まるで、どうでもいい世間話をするように。だが茜はよく覚えていた――父がここへ移送された日、医師に三度も繰り返し念を押されたのだ。絶対にお酒は駄目だと。そのとき、諒助はすぐそばに立っていた。それなのに今、こうも簡単に絵美里の言葉を信じている。絵美里がワインを父に飲ませようとした瞬間、茜の目が険しく細まった。自分でも信じられないほどの力が湧いた。骨が軋むほど全力でもがいて、茜は諒助を押しのけた。飛び込むように前に出て、そのグラスを体で遮る。「もう一度言います。ここにいてほしくありません。出て行ってください!」「私は本当に仲良くしたいと思ってるの。そんなに嫌い?」絵美里の声は哀れっぽく揺れていたが、茜に向けた顔には勝ち誇った笑みが浮かんでいた。茜にはわかっていた。最初から善意なんてない。すぐにグラスを押し返す。「結構――」「きゃっ!」絵美里はまるで強く突き飛ばされたかのようによろめき、尻餅をついた。その拍子に、手の中のワインがそのまま茜のワンピースへとこぼれた。深紅の染みが、白いワンピースにじわじわと広がっていく。茜は頭の中が真っ白になった。全身が小刻みに震えていた。諒助は真っ先に絵美里を抱き起こし、茜を厳しく咎めた
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