All Chapters of 『復讐の転生腹黒令嬢は溺愛されたので天下を取ることにしました』: Chapter 31 - Chapter 40

43 Chapters

31 敗走の軍議 ②  

 天幕の中には、蝋燭の炎がゆらめき、戦場の砂埃にまみれた将たちの顔をぼんやりと照らしていた。外では負傷兵のうめき声が微かに響き、乾いた風が帷を揺らす。鉄と血の匂いが入り混じる夜の帳は、戦の現実を嫌でも突きつけていた。 オリバー王を中心に、ユーロ公爵、カッパー侯爵、オリボ伯爵、そして作戦立案を担うウイリアム伯爵が囲むように座していた。彼らの鎧は戦場の泥と血で染まり、かつて輝いていた金属の表面は今や鈍い光を放っている。広げられた地図の上には、戦況を示す駒が並べられ、それを指し示す指先が、時折、小さな音を立てる。誰もが言葉を発せず、ただ重苦しい沈黙が場を支配していた。「ということは、実質兵力は五千ということか……」  オリバー王が低く呟いた。その声音には、わずかに疲労が滲んでいた。王の鎧の肩当てには幾つもの剣傷が刻まれており、彼の戦歴を物語っている。手袋越しに地図上の駒をそっと撫でる。「ゴリゴリに防戦準備が整ったケルシャ城をこの兵力で落とすのは、もはや不可能だな」 その一言に、ユーロ公爵の喉がひくりと動いた。彼は唇を噛み締め、手元の杯を強く握りしめる。彼の黒いマントには斬られた痕があり、肩に掛かる鎧の端には乾いた血がこびりついていた。ここまでの戦いで、彼の軍は半数以上を失い、今やまともに戦える者はほとんどいない。自軍の壊滅に近い状況を思うと、胃の奥から苦いものが込み上げてくる。「……何の戦果もなく撤退するのは口惜しいし、今後の士気にも関わろう」  オリバー王の目が地図をじっと見つめる。「二千の援軍だけでも叩いてから帰るとするか」 そのあっけらかんとした口調に、ユーロ公爵は思わず拳を握りしめた。指先が白くなるほど強く。肩で息をしながら、声を振り絞る。 「それでは殿を変えてもらおう。我が軍に殿を務める戦力はない。できれば我が軍だけでも帰国の許可をいただきたいくらいだ」 ユーロの訴えは切実だった。彼の軍はもはや戦場に立てる状態ではない。半数以上の兵が命を落とし、生存者のほとんども傷を負い、立っているのがやっとの者ばかりだ。戦場に取り残されることは、すなわち死を意味する。 オリバー王は、じっとユーロを見つめた。その
last updateLast Updated : 2026-01-15
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32 戦略の岐路

 「報告! カーネシアン軍が移動を開始! 再びケルシャ城に向かっている模様!」 歓喜に包まれ、華やかな空気が漂っていた軍議の間。その静寂を引き裂くように、兵士の切迫した報告が響き渡った。笑みを浮かべ、目尻を下げていた四人の表情が、瞬く間に緊迫したものへと変貌する。「こちらに向かっていると? わしの攻撃が足りなかったのか? 思ったより損害が軽微だったのか?」 マルク公爵の太い声が部屋に響く。彼の眼光が鋭さを増し、揺らぎのない戦士の本能が甦る。握り締めた拳がわずかに震え、昂ぶる闘志を抑え込もうとしているのが伝わる。「いや、逆ですよ。損害が大きすぎて、援軍を相手にする余裕がないのです。兵を引き、自国へ撤退するつもりでしょう」 静かに、しかし確信に満ちた声で応じたのは、金髪碧眼の知将ケインズ。冷静な視線のまま、右手の人差し指でメガネの縁を押し上げる。硝子の奥で揺れる理知的な輝きは、すでに敵軍の意図を見透かしていた。「いや、我が城を力攻めするつもりなのではないのか!」 誰かが吐き捨てるように言う。二千の援軍が迫るこの状況で、敵が持久戦を選ぶ可能性は低い。残された選択肢は二つ──援軍到着前に城を強引に落とすか、そのまま素通りして帰還するか。「そんな愚策をとれば、甚大な損害が出るのは明白。その上で城を落とせる保証もない。そもそも、我々を城から誘き出そうと画策してきたカーネシアン軍が、その兵を減らした状態で力攻めに転じるとは考えにくいでしょう」「……言われてみればその通りだな。我が城には三千の兵がいる。五千程度の兵で攻め落とせるはずもない」「となると、奴らはまた城の前で渡河する気か?」 ルーク国王の問いに、ケインズは再びメガネを押し上げ、静かに地図を指し示す。その指先は迷いなく、敵の意図を読み取った確信に満ちていた。「もし私が敵の指揮官なら、城の前を通り過ぎ……そう、この辺りで渡河します。周囲に追撃を受けても、取って返して乱戦に持ち込めるだけの広さがある。およそ一万の兵が戦えるだけの平地が左右に広がっている。これは誘因の計ですね。追撃部隊を確認し次第、反転して攻撃を仕掛ける
last updateLast Updated : 2026-01-16
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33 銀狼の咆哮 1

「ベルシオン軍の奴らめ、城から打って出て来ぬようだな。出て来たならば一気に叩き潰してやれたものを!」 オリバー王は馬上で不機嫌そうに唸り、鋭い眼光を渡河地点に向けた。筋張った顎に短く刈られた髭が影を落とし、苛立ちを隠しきれない表情だ。鎧の上から深紅のマントを羽織り、腰に佩いた剣の柄を無意識に握り締める。その手が時折、わずかに震えるのは戦への焦燥か、それとも別の感情か。「オリバー様、我が軍は戦の役に立てそうになく、早く川を渡って自領に帰りたく思います」 ユーロ侯爵は細身の体を鎧に包み、険しい顔つきで王を見上げた。彼の額には汗が滲み、渡河の遅れに対する焦燥と、ここで無駄に足止めされることへの苛立ちが見て取れる。銀糸の刺繍が施された紫の外套が風になびき、その衣の下で肩が小さく上下するたび、彼の内心の揺れが透けて見えるようだった。「すまなかったな。ユーロ公爵、貴軍を先頭に渡河を始めよう。殿はオリボ伯爵の軍に頼むぞ」 オリバー王の声は若干低くなり、ユーロ侯爵を気遣うかのような素振りを見せた。だが、その瞳の奥には戦略よりも焦燥と苛立ちが渦巻いている。「では、ユーロ様とオリバー様の軍から渡河を開始してください。続いて我がウイリアム軍、カッパー軍、オリボ軍の順でよろしいな」 ウイリアム侯爵は冷静そのものだった。長身痩躯の男で、淡々とした声には感情がほとんど感じられない。白銀の髪を後ろに束ね、青い瞳はまるで冬の湖面のように冷たく澄んでいる。彼の装いは飾り気がなく、機能美を重視した鎧に、控えめな家紋の刺繍が入った深青の外套をまとっていた。彼の姿勢はどこまでも静かで、戦の緊張を一切顔に出さぬその余裕が、逆に他の貴族たちを圧倒していた。「はい」 ユーロ侯爵は短く返事をし、深く息をつくと、そっと手綱を握り直した。「殿はこのオリボにお任せ下さい」 カッパー侯爵とオリボ伯爵が顔を見合わせ、静かに頷いた。カッパー侯爵は眉を寄せ、口元を引き結ぶ。すでに戦の結末を悟っているかのような表情だ。  対してオリボ伯爵は、大柄な体を鎧に包み、腕を組んでいた。彼の口元にはわずかながら皮肉めいた笑みが浮かんで
last updateLast Updated : 2026-01-17
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34  銀狼の咆哮  2 

 カーネシアン軍の渡河地点。濁流のごとき兵の流れが川を覆い、すでに半数以上が対岸へと渡り終えていた。しかし、まだ千ほどの兵が川の途中におり、殿を務めるオリボ軍とわずかに残ったカッパー軍だけが、こちら岸に取り残されていた。 その時——。 遠くケルシャ城の方向から、かすかに馬蹄の音が響いた。乾いた地を抉るようなその響きは、はじめは微かなものだったが、やがて鼓膜を震わせる不吉な雷鳴のように響き渡った。オリボは眉をひそめ、音の方へと目を向ける。「む! 敵の奇襲だ! 攻撃に備えて陣形を整えろ!」 鋭い号令が戦場に響いた——だが、その直後、兵士たちの動きが硬直した。まるで空気そのものが凍りついたかのように、誰もが一瞬、息を呑む。 土煙を巻き上げながら、漆黒の嵐が迫る。地を裂くような疾駆、揺れる鬣(たてがみ)、狂奔する軍馬。その先頭には、一際大きな黒馬に跨る銀色の鎧の男がいた。「『ベルシオンの銀狼』か……!」 オリボの背筋に冷たい汗が伝う。喉が焼けつくように乾き、手のひらがじっとりと湿る。恐怖が背筋を駆け上がり、しかし彼は奥歯を噛み締めた。まだだ——まだ戦える……! だが、兵士たちはそうではなかった。 陣形は整わず、戦闘準備も不十分。混乱する兵士たちは互いにぶつかり合い、必死に列を組もうとするが、その動きは焦燥に満ち、まとまりに欠けていた。「急げ!」 だが、彼らの狼狽を嗤うかのように、漆黒の軍勢が突入する——。 ダダダダーンッ! 大地を震わす馬蹄の轟音、地を引き裂くような怒号、恐怖に満ちた悲鳴。荒れ狂う暴風のごとき騎馬隊の猛襲が、オリボ軍を飲み込んだ。「オオリャー!」 天を裂くような咆哮が響く。ガリオンの振り下ろしたハルバードが、鈍い音を立てて敵兵の鎧を粉砕した。血飛沫が舞い、絶叫が戦場を染める。 騎馬隊が蹂躙し、整わぬ敵陣を一気に切り裂いた。その混乱の中、ルークとケインズが率いる歩兵隊が駆け込み、次々と敵を押し潰していく。 ドドドドーン! 地響き、剣戟、断末魔の叫び。戦場は狂
last updateLast Updated : 2026-01-18
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閑話1  王城探検――秘密の抜け道を求めて 

 これは、ルークたちが戦場、ケルシャ城に赴いているときの話である。 ベルシオン王城の朝は、陽光に染まった石造りの回廊と、衛兵たちの低く響く足音から始まる。厚い石壁に囲まれたこの城は、王家の威厳を示すだけでなく、敵の侵入を阻む堅牢な砦でもある。しかし同時に、王族を閉じ込める檻のようでもあった。 イザベラは深紅のベルベットのカーテンをかき分け、窓の外を眺めた。遠くに広がる王都ベルシニアの街並みは、朝日を浴びて金色に輝いている。屋根瓦は赤や茶色の濃淡を織りなして、まるで絵画のような美しさを見せる。そこには自由がある。活気があり、人々の暮らしがある。 行きたい。あの中に溶け込みたい。 しかし、王城に住む以上、それは簡単なことではなかった。イザベラが気まぐれに出歩けば、すぐに騒ぎになる。王城の門は頑丈で、警備も厳重。ならば――誰にも気づかれずに出られる道を探せばいい。「……抜け道があるはずよ。」 呟くと、背後で控えていたあやめが静かに目を細めた。「無茶なことをお考えですね、お嬢様。」 「無茶ではなく、戦略よ。王城で退屈している姫君ほど、危険なものはないわ。」 イザベラは微笑むと、軽やかに部屋を出た。  王城探検――迷宮のような廊下。 二人は静かに石畳の廊下を進む。王城の内部は広大で、豪奢な装飾が施された大理石の床や、細工の美しい柱が続いている。天井は高く、シャンデリアが吊るされた広間を抜けるたびに、蝋燭の灯りが揺らめき、壁に長い影を落とした。「お嬢様、どこを探すおつもりですか?」 あやめが小声で問う。「古い城には秘密があるものよ。防衛のための隠し通路や、王族が非常時に逃げるための隠れ道がね」 イザベラは壁を指先でなぞる。長い歴史を刻んだ石の肌は冷たく、なめらかだ。城が何度も改築された痕跡がある場所を探せば、何か見つかるかもしれない。 しばらく歩いた後、二人は西翼の人通りの少ない回廊へと足を踏み入れた。そこは王族以外がほとんど訪れない区域で、重厚な木製の扉がいくつも並んでいる。「このあたり……何
last updateLast Updated : 2026-01-20
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閑話2 ひったくり犯を華麗に撃退!

 喜び勇んで商店街に向かえば、そこには喧騒と活気に満ちた世界が広がっていた。煉瓦敷の大通りには色とりどりの屋台が軒を連ね、果物や焼き菓子、異国の香辛料が混じり合った甘く刺激的な香りが漂う。商人たちの威勢のいい声が飛び交い、客たちの笑い声が絶え間なく響いている。 通りの一角では、露天の宝飾店が色とりどりのガラス細工を並べ、その奥では革職人が器用に鞄を仕上げていた。パン屋からは焼き立てのパンの香ばしい匂いが広がり、隣の屋台では煮込んだ肉料理が湯気を立てている。イザベラは思わず鼻をくすぐる香りに足を止めた。 その雑踏の中、イザベラはあやめと並んで歩いていた。早速購入した絹のフード付きマントを羽織り、身を隠すようにしながらも、気分はまるで鳥かごを抜け出した小鳥のように軽やかだ。普段の王城での窮屈な生活から解放され、心が浮き立つ。「王城を抜け出すなんて、私も大胆になったものね」 「お戯れを。王妃候補と名高いお方が、こんなところで露天の串焼きを頬張るなど――」 呆れたようにあやめが呟いたが、その手にはしっかりと焼き立ての肉串が握られている。イザベラはくすりと笑い、細長い指で果物の屋台から熟れたオレンジを手に取った。 その時―― スッ―― ほんの一瞬、肌に触れるか触れないかの微かな違和感。風に紛れた細い指が、イザベラの買ったばかりのサテンのバッグに忍び寄る。「――甘いわね」 次の瞬間、ひゅっと風を切る音がし、あやめの手が少年の手首を捕らえた。まるで猛禽が獲物を掴むかのように、鋭く、迷いのない動きだった。 捕まえられたのは、十歳にも満たないだろう小柄な少年。煤けた髪、痩せた腕、そして驚愕に見開かれた茶色い瞳。袖は擦り切れ、靴は片方のつま先が破れていた。「い、痛っ……!」 「私の財布を狙うなんて、いい度胸ね」 イザベラは微笑んだ。が、その微笑みは決して甘やかしではない。そこには、自分を狙う者への余裕と、相手の動揺を楽しむ悪戯な気配があった。 少年は必死にもがくが、最強のメイド忍者、あやめの手を振りほどけるはずもない。彼女の指は優雅で
last updateLast Updated : 2026-01-21
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閑話3 秘密の抜け道と、不穏な影 

   ケンタたちに案内され、イザベラとあやめは王都ベルシニアの裏道を進んでいた。大通りの喧騒は次第に遠ざかり、細い路地を抜けるたびに景色が変わる。壁に蔦が這い、湿った石畳には雨の名残が光っている。腐った木箱が無造作に積まれ、使い古された荷車が片隅に放置されている。どこからか異臭が漂い、生活の痕跡がそこかしこに残っていた。「へえ、こんなところがあったなんて」 イザベラは興味深げに辺りを見回した。普段の華やかな街並みとはまるで違う、王都の裏の顔。王城で育った彼女にとって、こうした裏社会を目にする機会は少なく、その光景は新鮮でさえあった。 ケンタが得意げに胸を張る。「俺たち、ここを抜け道にしてるんだ! 市場の裏手から城壁の近くまで続いてるよ! ここなら衛兵に見つからずに移動できるし、食べ物を見つけたり、大人たちの取引をこっそり覗いたりするのにも便利なんだ」「ほう……」 あやめは無言で周囲を警戒しながら歩いていたが、そっと手を腰に添え、いつでも武器を抜けるようにしていた。そして、やがて小さく呟く。「確かに、この道は利用価値がありますね。追っ手を撒くのに最適な構造です」「追っ手を撒くなんて、泥棒みたいな発言ね」「私たち、忍びですから」 イザベラはくすっと笑ったが、すぐに足を止めた。「……この道、妙に静かね」 先ほどまで聞こえていた市場のざわめきが消え、耳に届くのは自分たちの足音だけ。遠くで鳴いていた犬の声も途絶え、さっきまで軒先に座っていたはずの老人の姿も消えていた。 その時―― バサッ! 上から何かが落ちてきた。「……っ!」 あやめが即座に前へ出た。イザベラも身構える。 目の前に転がっていたのは、黒い布袋。 中から、小さな動物が飛び出した。「……猫?」 痩せた黒猫が、荒い息をしながらイザベラの足元にすり寄る。その目は異様に見開かれ、小さな体が震えていた。まるで何かに怯えているようだった。 そして次の瞬間――
last updateLast Updated : 2026-01-22
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閑話4 黒猫が抱える秘密

   黒猫はイザベラの腕の中で小さく身じろぎした。痩せた体に柔らかな毛並み、そして――どこか知性を感じさせる琥珀色の瞳。だが、その体はわずかに震え、呼吸は浅く、不安げに尻尾を丸めている。「この猫、何かを飲み込んでいるのかもしれませんね」 あやめが鋭い眼差しで猫を見つめる。ケンタ、トキヤ、ラオの三人も興味津々で覗き込んだ。「ねえ、こいつ、口から何か落としたぞ!」 トキヤが指差したのは、猫の口元に転がった小さな光る物体だった。イザベラはしゃがみこみ、それを拾い上げる。「……これは?」 指先に乗せたのは、親指の爪ほどの青い宝石だった。光にかざすと、まるで深い湖の底を覗き込むような透明な輝きを放ち、微かに揺らめく光が流れる。指先に触れるとひんやりとしており、ただの装飾品ではないことを感じさせる。「宝石……?」 イザベラは眉をひそめる。 ただの貴金属とは思えない。何か特別な意味を持つものなのか――?「ちょっと待って、それって……!」 ラオが一瞬息を飲み、目を見開いた。表情が強張り、慌てたように声を上げる。「俺、見たことある! 市場の奥にある質屋で、盗まれたって騒ぎになってたやつだ!」「盗まれた?」 イザベラが宝石をもう一度まじまじと眺める。確かに、これはただの装飾品とは思えない。「……ということは、さっきの男が盗人で、この猫は何らかの理由でそれを持ち逃げした?」「ありえるな」 あやめが腕を組み、冷静に状況を整理する。「ですが、それにしては妙ですね。猫が偶然盗品を飲み込むとは考えにくい。盗賊が猫を利用して密かに運ばせたのか、それとも猫がもともと誰かの使いだったのか……?」「じゃあ、どういうこと?」 ケンタが首をかしげる。 イザベラは少し考えた後、猫の額を撫でながら微笑んだ。「それを確かめるためにも、まずはこの宝石の持ち主を探るべきね」 その時―― カツン、カツン…… 小
last updateLast Updated : 2026-01-23
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閑話5 忍びの誓い

 あやめが男を押さえつけたまま、イザベラが問い詰めようとしたその時――「おい、何をしてる!」 背後で複数の足音が響き、次の瞬間――怒声が響いた。 振り返ると、数人のならず者たちが地下道の奥から現れた。彼らは汚れた外套をまとい、荒んだ目つきでこちらを睨んでいる。鋭いナイフを手にし、不衛生な体からは酒の匂いが漂っていた。「チッ、やっぱり仲間がいたか……!」 あやめは瞬時に敵の人数と武器を見定め、すぐに身構えた。「お前ら、ここで何をしている!」「この地下は俺たちの縄張りだ、余計な詮索は命を縮めるぜ」 ならず者たちはゆっくりと包囲するように動き出した。「イザベラ様、ここは一度――」 あやめが撤退を進言しようとした、その瞬間だった。「やめろぉぉ!!」 震えながらも拳を握り締め、ケンタ、トキヤ、ラオの三人の少年が前に飛び出した。「お姉さんたちを傷つけるな!」「ここはお前らみたいな悪党が勝手にしていい場所じゃない!」 小さな体ながら、彼らは必死にイザベラたちを守ろうと両手を広げた。「……馬鹿な真似をするな、子供が!」 ならず者の一人がナイフを振り上げる。 ナイフが銀色の軌跡を描いた、その瞬間――「――遅い」 突如、影のように現れた男の手がナイフを弾き飛ばした。「えっ――!?」 ならず者が驚愕する間に、彼の身体は一瞬で宙を舞い、地面に叩きつけられる。「ぐはっ……!」 暗闇から現れたのは、漆黒の忍装束に身を包んだ男―― 小太郎だった。「まったく……お嬢様が何をしているかと思えば、こんな危険な場所で遊んでおられましたか」 彼は肩をすくめながらも、周囲の敵を冷たい目で睨む。「手間をかけさせないでくださいよ」 次の瞬間―― 小太郎の動きは雷光のごとく速かった。 ならず者たちは何が起こっ
last updateLast Updated : 2026-01-24
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35 カーネシアン王国制圧作戦 

「また軍議の間に参集させられるとはどういう事だ。何か起こったのか? ケインズは何か聞いてないか?」「いや、何も聞いていないな。カーネシアン王国との戦いは区切りがついたし、今度はペルシアン王国でも動いたか?」「ペルシアン王国に動きはないはずだぞ」 ガリオンとケインズの疑問にケント・クラネル公爵が答えにならない答えをする。ベルク・クレス侯爵も頷いた。 重厚な扉が軋む音を立てて開かれ、ルーク・ベルシオンが軍議の間へと足を踏み入れた。漆黒の軍靴が石床を踏みしめるたび、室内の静寂がより深くなる。彼の鋭い黒曜石の瞳が一同を射抜き、圧倒的な威厳が空間を支配した。 ケインズは腕を組み、冷静な表情を崩さぬままルークを見やる。ガリオンは半ば椅子にもたれかかりながらも、まるで獲物の気配を探る猛禽のように、王の動向を注視している。ケント・クラネル公爵とベルク・クレス侯爵は互いに視線を交わしつつ、息を詰めたように沈黙していた。「待たせたな。これから大事な話をする」 席についたルークの言葉に一同がビクリと驚いて注目した。「――――実は、イザベラに、今が好機だと言われてな」 今が好機? いったい何の好機なのか。誰もがその言葉の真意を測りかね、一瞬、空気が張り詰める。「今こそカーネシアン王国を攻め滅ぼし、例年の侵攻に終止符を打つべきだと言うのだ」 ルークは両腕を組み、一同を見回した。驚き、困惑、そして僅かな期待が入り混じった視線が彼に注がれる。「……イザベラ嬢の意見を聞かせてもらおう」 ケインズが慎重に問いかけると、ルークは淡々と説明を続けた。「この度の大勝で、カーネシアン王国のユーロ公爵軍とオリボ伯爵軍はほぼ壊滅。コンラット城とオグト城に残る兵はわずか二百から五百。急襲すれば落とすのは容易だ。残る戦力はオリバー国王軍とウィリアム侯爵軍、カッパー侯爵軍、合わせて四千強。城を一つずつ落とすにせよ、全軍が迎撃に出るにせよ、勝てない戦ではない」 ルークの言葉が終わるや否や、ガリオンが口角を上げた。「コンラット城を五百で守っているなら
last updateLast Updated : 2026-01-28
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