天幕の中には、蝋燭の炎がゆらめき、戦場の砂埃にまみれた将たちの顔をぼんやりと照らしていた。外では負傷兵のうめき声が微かに響き、乾いた風が帷を揺らす。鉄と血の匂いが入り混じる夜の帳は、戦の現実を嫌でも突きつけていた。 オリバー王を中心に、ユーロ公爵、カッパー侯爵、オリボ伯爵、そして作戦立案を担うウイリアム伯爵が囲むように座していた。彼らの鎧は戦場の泥と血で染まり、かつて輝いていた金属の表面は今や鈍い光を放っている。広げられた地図の上には、戦況を示す駒が並べられ、それを指し示す指先が、時折、小さな音を立てる。誰もが言葉を発せず、ただ重苦しい沈黙が場を支配していた。「ということは、実質兵力は五千ということか……」 オリバー王が低く呟いた。その声音には、わずかに疲労が滲んでいた。王の鎧の肩当てには幾つもの剣傷が刻まれており、彼の戦歴を物語っている。手袋越しに地図上の駒をそっと撫でる。「ゴリゴリに防戦準備が整ったケルシャ城をこの兵力で落とすのは、もはや不可能だな」 その一言に、ユーロ公爵の喉がひくりと動いた。彼は唇を噛み締め、手元の杯を強く握りしめる。彼の黒いマントには斬られた痕があり、肩に掛かる鎧の端には乾いた血がこびりついていた。ここまでの戦いで、彼の軍は半数以上を失い、今やまともに戦える者はほとんどいない。自軍の壊滅に近い状況を思うと、胃の奥から苦いものが込み上げてくる。「……何の戦果もなく撤退するのは口惜しいし、今後の士気にも関わろう」 オリバー王の目が地図をじっと見つめる。「二千の援軍だけでも叩いてから帰るとするか」 そのあっけらかんとした口調に、ユーロ公爵は思わず拳を握りしめた。指先が白くなるほど強く。肩で息をしながら、声を振り絞る。 「それでは殿を変えてもらおう。我が軍に殿を務める戦力はない。できれば我が軍だけでも帰国の許可をいただきたいくらいだ」 ユーロの訴えは切実だった。彼の軍はもはや戦場に立てる状態ではない。半数以上の兵が命を落とし、生存者のほとんども傷を負い、立っているのがやっとの者ばかりだ。戦場に取り残されることは、すなわち死を意味する。 オリバー王は、じっとユーロを見つめた。その
Last Updated : 2026-01-15 Read more