All Chapters of 『復讐の転生腹黒令嬢は溺愛されたので天下を取ることにしました』: Chapter 41 - Chapter 43

43 Chapters

36 凱旋とプロポーズ ① 

 山頂に築かれた荘厳なる王城。その南側、雄大な山並みに護られた平野に広がる王都ベルシニア。赤煉瓦の舗装道が碁盤の目のように張り巡らされ、十数万の人々が暮らすこの都は、まさに熱狂の渦に包まれていた。ベルシオン軍の大勝利という歓喜の知らせが、街全体を揺るがすように響き渡る。 中央大通りには、人々が溢れんばかりに押し寄せ、王国軍の帰還を迎え入れていた。黄金色のビールを掲げ、赤ら顔で陽気に叫ぶ男たち。戦士たちに向かい、涙ぐみながら手を振る女たち。無邪気に駆け回る子供たちの笑い声が、祝祭の鐘の音と混ざり合う。すべての人々が、家族の無事を、愛する者の帰還を、そしてカーネシアン軍の敗走という安堵を、身体いっぱいに表現していた。 そんな歓喜の渦の中、凱旋の先頭を行くのは、漆黒の軍馬に跨るルーク・ベルシオンその人。濃紺の軍装に金糸で施された王家の紋章が陽光を受けて煌めき、背に翻る白銀のマントは、勝利の象徴のように風をはらんでいた。その眼差しは、王としての誇りと自信に満ち、民衆の声援に応えながらも、堂々たる威厳を湛えている。 そのすぐ隣、栗毛の馬に軽やかに跨るのは、ケインズ・ヴァレンス。洗練された黒の騎士装束を纏い、肩には銀の鎖帷子が鈍く光る。彼の穏やかな微笑みは、戦いを終えた安堵と、王都に帰還できた喜びを静かに物語っていた。手綱を操る仕草すらも優雅で、時折、民衆に手を振るたびに歓声がひときわ高まる。 そして、その背後に続くのは、圧倒的な存在感を放つ巨漢、ガリオン・ヴォルグ。分厚い鎧に刻まれた無数の傷跡は、彼が戦場で刻んできた歴戦の証。その肩に掛かる赤いマントが、まるで燃え盛る炎のように揺れる。豪快に笑いながら、民衆に大きく手を振り、名前を呼ばれるたびに力強く頷くその姿に、熱狂はさらに高まっていく。「何度見ても、この光景は胸が震えるな」「お前は人気者だからな、ガリオン」 群衆に手を振り、次々と声をかけられるガリオンを見て、ケインズが微笑を浮かべる。そして彼もまた、誇り高く右手を掲げた。 勝利の凱旋。ベルシオン軍の行列は、王城へ続く壮麗な大通りを、堂々と進んでいく。兵士たちの表情には、戦を生き抜いた者だけが持つ安堵と、誇らしげな輝きがあった。
last updateLast Updated : 2026-01-29
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37 凱旋とプロポーズ ⓶

「…………ちょっとお待ちになって。お茶を頂いても良いかしら?」 イザベラはそっとルークの手を解き、優雅な仕草でティーカップに手を伸ばした。琥珀色の紅茶をひと口含むと、ほのかな酸味と甘味が舌の上でほどけ、ふわりと広がる華やかな香りが心を落ち着かせる。ルークの命で最高級の茶葉が用意されたのだろう。いつもながら、洗練されたこの味は格別だ。 しかし、落ち着きを取り戻したのも束の間——視線を上げると、ルークの端正な顔が驚くほど近くにあり、その黒曜石のような瞳がまっすぐに自分を射抜いていた。熱を帯びた視線に、肌がじわりと粟立つ。ルークの存在そのものが放つ圧倒的な力に、心臓が再び乱れた鼓動を刻み始める。「う、うん……!」 一度小さく咳払いをし、慌てて姿勢を正す。覚悟を決め、真正面から彼の瞳を見据えた。目の前の王が求める答えを、こちらから突きつける番だ。「一つ条件があります」 イザベラの言葉に、ルークは一瞬動きを止めた。驚き、困惑、期待——どれともつかない複雑な感情が交錯し、彼の端整な顔に浮かぶ。「私は、自分の住む場所が戦場になるような恐れを抱きたくありませんの。ですから、来年またカーネシアン王国が攻め込んでくるような状況は、絶対にごめんですわ。結婚の条件の一つとして、カーネシアン王国の征服をお願いしたいのです」 ルークの目が驚愕に見開かれる。その漆黒の瞳が、一瞬にして倍ほどの大きさになったかのように錯覚する。「カーネシアン王国の征服が条件だと!? 征服するまで、結婚はできぬと?」 その衝撃は大きかったのだろう。ルークは勢いよく立ち上がり、深紅の軍装の裾が翻る。強き王の余裕に満ちた表情が消え、まるで思いも寄らぬ策を突きつけられた軍師のように、目を見開いたままイザベラを見下ろしていた。 イザベラはそんなルークを見上げ、勝ち誇ったように、ゆるりと微笑んだ。「条件の一つ、と申しました。できませんか?」「……カーネシアン王国を征服するなど、これまで考えたこともなかった。簡単なことではないぞ」「ですが、今回の大勝利でカーネシアン軍の主力——ユーロ公爵軍と
last updateLast Updated : 2026-01-30
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 閑話  イザベラを狙う影

 冷たい夜風が頬を切るように吹き抜ける王城の外回廊、月明かりが二人を青白く照らし、静寂の中に微かな足音が響いた。あやめは足を止め、目を細める。背後に漂う、かすかな殺気――鳥肌が立つほどの冷ややかな感覚が背筋を這い上がった。「……イザベラ様、つけられています」 イザベラはあやめの言葉に心臓が一拍、強く脈打つ。呼吸を整え、何気ない仕草を装いながら、周囲の影をちらりと確認する。誰もいない。 一瞬の静寂。次の瞬間―― ギィィッ! 鈍い音を立て、背後の扉が軋んだ。あやめは反射的に身を翻し、腰の短剣を抜く。刹那、黒い影が闇から飛び出した。刃が月光を反射し、銀の閃光が目の前を掠める。「ちっ……!」 あやめは刃を受け流し、イザベラを護るために立ちはだかる。  黒装束。敵の動きは素早く、無駄がない。鍛えられた刺客――それも、並の相手ではない。「……どこの手の者?」 問いかけるも、男は無言のまま二撃目を繰り出してきた。刃と刃が火花を散らし、金属の冷たい音が夜気を震わせる。 ――ガキン! 次の瞬間、何かが横から飛び込んできた。敵の短剣が弾かれ、空中で鋭く回転する。「二人とも、油断しすぎだ」 聞き慣れた飄々とした声。「小太郎!」 闇の中から忍びの衣をまとった影がふわりと着地、その動きは獣のようにしなやかだった。オッドアイに月明かりが反射する。 小太郎はくるりと短刀を回し、敵に向けて構える。その眼差しが、いつになく鋭い。 敵は一瞬だけ逡巡した後、素早く後退した。「逃がすか」 小太郎が指を弾くと、何かが敵の足元へと飛んだ。小さな爆ぜる音と共に、白煙が一気に広がる。「ぐっ……!」 敵が一瞬怯んだ隙に、小太郎は矢のように飛び込む。 ザシュッ! 一閃。銀の刃が、月光の下を駆け抜けた。敵の体がぐらりと揺らぎ、地に膝をつく。「……さて、誰の差し金か吐いてもらおうか」 小太郎が密偵の襟
last updateLast Updated : 2026-01-31
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