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All Chapters of 独占欲に捕らわれて: Chapter 21 - Chapter 30

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予想外8

「そうね」千聖もスマホを出し、ふたりは連絡先を交換した。「さて、そろそろお開きにしよっか」紅玲は伝票片手に、ゆったりと立ち上がる。「あら、ホテルには行かないの?」「んー? 今日は契約だけね。契約書にもそう書いたと思うけど」紅玲は不思議そうな顔をする。「ホント、見かけによらず誠実ね」「ひっどいなぁ……。ま、そんなところも好きだけどね」「はいはい。それじゃ、ご馳走様」紅玲の口説き文句にうんざりした千聖は、ひとりで店から出た。「はぁ……。若い人の相手とかあんまりしたくないんだけど、仕方ないわね……」千聖はため息をつきながら紅玲の連絡先をパパリストに入れた。スマホをしまおうとした瞬間、母親から着信がはいる。「連絡するの忘れてた……」ぽつりと呟いてから、電話に出る。「もしもし、お母……」『千聖! なんで連絡くれないのよ!』ヒステリックな声が、千聖の言葉を遮った。「……私だって忙しいの。そんなに大声出さないでよ」『お母さんがどれだけ心細い思いしたと思ってるの?』(まったく、それが原因で私が出ていったって、全然分かってないんだから……)千聖は内心舌打ちをしながら、理解を得るのを諦めた。「悪かったわよ……。明日、そっちに行くから」『お願いね、正樹もいなくなって大変なの』母親の切羽詰まった声に、千聖は怒りを募らせる。「……で、肝心の借金作ったバカはどこに行ったの?」『そんな言い方ないでしょ! 兄妹なんだから……。どこに行ったのかは、私も知らなくて……。なにか知らない?』母親の支離滅裂な発言に、千聖は頭を抱える。正樹と不仲な千聖は、彼の連絡先など、とうの昔にブロックして消去してある。そのことは伝えてはいないが、不仲なふたりが連絡を取り合うわけないことくらい、察して欲しかった。「あー……とりあえず、明日そっちに行くから、借金取りが置いてった名刺とかあれば出しといて。それじゃ」耐えきれなくなった千聖は、一方的に言うと電話を切った。「はぁ……まったくもう!」「大変そうだね」「きゃあ!?」驚いて振り向けば、心配そうな顔をした紅玲がいた。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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予想外9

「……どこから聞いてたの?」「あのバカはーってところから」「……そう」いたたまれなくなった千聖は、視線を落とす。「飲みに行こっか。……オレは呑めないけど」紅玲はそう言って千聖の手を引く。「ちょっと……!」戸惑った千聖が声を出すと、紅玲は振り返ってニコリと笑う。「大丈夫、オレの奢りだから」「そういう問題じゃないんだけど……」困惑しながらも、千聖は大人しくついて行く。呑みたいと思っていたのが事実ということもあるが、今はひとりでいたくなかった。紅玲が千聖を連れて来たのは居酒屋。中に入ればほかの客達で賑わっている。赤いバンダナを巻いた若い男性店員が、ふたりを4人掛けの席に案内してくれる。「てっきり高い店に連れてかれると思った」席に座ると、千聖は率直の感想を言う。「あっはは、オレだって、高い店にしか行かないわけじゃないからね。それに、イラついてる時は静かなバーより、こっちの方がいいと思って」紅玲はメニュー表を差し出しながら言う。「好きなのどうぞ」「ありがと」千聖はメニュー表を受け取ると、ざっと目を通してから通りかかった店員に声をかけた。「すいません」「はい、ご注文ですか?」店員は伝票を構えながら聞く。「ハイボールと軟骨の唐揚げ。あなたは?」「オレはウーロン茶だけでいいよ」「ハイボールとウーロン茶の軟骨唐揚げですね、少々お待ちください」店員は注文を繰り返すと、厨房へ消えた。「ねー、チサちゃん。お願いがあるんだけど」紅玲は不満げな顔をしながら言う。「なにかしら?」「できれば名前で呼んでくれない? 名前まったく呼ばれないの、なんか寂しい……」「……まぁ……いいけど……」千聖が渋々了承の返事をすると、紅玲は嬉しそうに口角を上げた。「お待たせしました、ハイボールとウーロン茶です」店員が飲み物を運んでくると、千聖はすぐに飲み干し、店員にぐいっと押し付けるようにグラスを渡した。「ハイボールおかわり」「は、はい。お客さん、酒豪っすね」店員はグラスを受け取ると、再び厨房へ消えた。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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予想外10

「まさか来て早々一気に呑むとは思わなかった」紅玲は苦笑すると、ウーロン茶をひと口飲んだ。「どうやらよっぽどストレス溜まってるみたいねぇ……」「オレでよければ愚痴くらい聞くよ?」千聖は口を開きかけたが、ため息に変える。(愚痴ったら心開いたみたいで癪ね)「いいわよ、お酒に頼るから」「それは残念……。ま、好きなだけ呑んでよ。それでストレスが解消されるなら、オレは何杯でもご馳走するよ」そう言って紅玲はグラスを振って、氷をカラコロ言わせた。「それじゃ、遠慮なく」千聖はちょうど運ばれてきたハイボールを受け取ると、再び一気に飲み干した。それから千聖は本当に遠慮せず、思うままに酒を飲んだ。結局帰ることになったのは午前3時。紅玲は送っていくと言ったが、家を知られたくない千聖は断固拒否した。「……じゃあせめて、タクシーつかまえて帰ってよ。俺の家はすぐ近くだから、またね」紅玲は千聖に1万円札を握らせると、ふらりと姿を消した。「なんか腹立つけど、ここはお言葉に甘えますか」千聖は大人しく、紅玲に言われたとおりにタクシーをつかまえて帰宅した。部屋に入って時計を見ると、時刻は3時半。「明日はやいのに……」千聖は飲みすぎたことを後悔しながら、シャワーを浴びてからベッドにもぐりこんだ。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済

翌朝8時、目覚まし時計で起きた千聖は、ベッドから出て躯を伸ばす。「くぅ〜……はぁ……まだ寝てたかった……」朝からため息をつくと、千聖はトースターで食パンを2枚セットしてレバーを下げた。もう1度寝室に戻って着替えを取ると、シャワーを浴びに浴室へ行く。眠気覚ましに熱めのシャワーを浴びながら、今日の予定をぼんやりとした頭で整理していく。(アイツと駅で会ったら、一緒に地元に行く。それから……、私は実家で名刺とかもらったりなんだりして、その間にアイツはどこかで待ってるって言うけど……。ファミレスに待たせるしかないか……。合流場所も、そこでいいとして……。その後、アイツがかわりに借金返しに行ってくれる……)千聖はシャワーを止めて、上を向く。「そのあとのことは、まぁいっか……」ため息交じりに言うと、浴室から出た。台所に行けば、トースターからはこんがり焦げ目のついたパンが顔を出している。レタスとハム、スライスチーズをはさんでサンドイッチの出来上がりだ。千聖はミルクティーを淹れると、リビングでテレビを見ながらサンドイッチをかじる。この時間はどのチャンネルもニュース番組で、千聖にとっては退屈でしかない。一通りチャンネルを回すと、最初に見ていたニュース番組に落ち着く。「なんにもないのね……」千聖はテレビに映るオリンピック候補選手に、気だるげな目線を投げかけながらぽつりとつぶやく。朝食を終わらせると、千聖は母親に今から向かうことをメールで伝え、部屋を出た。休日の朝でも、都会は忙しない。神経質そうにスマホを見るサラリーマンとすれ違いながら、千聖は駅へ向かう。もう少しで駅に着くというところで、背後から誰かに肩を叩かれる。小さな悲鳴を上げて振り返ると、紅玲がいた。手には赤と黒で統一された売れないバンドマンのような服装に似合わない、銀色の小さなアタッシェケース。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済2

「おはよ、チサちゃん。待ち合わせ場所に着く前に会えるなんて、運命なんだね」「寝言は寝て言うものよ」にっこり微笑みながら言う紅玲に、千聖はばっさりと言い捨てる。「相変わらず手厳しいなぁ。そんなところも好きだけどね」「はいはい……。ほら、さっさと行きましょ」まともに相手にしても仕方ないと悟った千聖は、さっさと駅へ向かっていく。紅玲はヘラヘラしながらついて行く。駅に入ると、紅玲は思い出したように口を開いた。「ね、チサちゃん。片道だいたいどれくらい?」「3千弱ね」「んじゃ、ちょっと先にチャージしてくる。チサちゃんのは残高大丈夫?」「片道分はあるわよ。あなたを待ってる時にでもチャージするつもりだから、大丈夫」千聖がそう言うと、紅玲は大きな手を差し出した。「え? なに?」「チャージしてくるから貸して」「いいわよ、別に」千聖が断ると、紅玲は考え込むように唸る。「いいからチャージしてきなさいよ……」「カード出してくれないなら、契約破棄するよ?」「は……?」駄々っ子のような言い方にポカンとする千聖だが、どうやら彼は本気らしい。「ねぇ、帰っちゃうよ?」紅玲はポケットに手を突っ込んで、踵を返す。「ちょっと待ってよ!」千聖は慌てて紅玲の腕を掴んだ。「なぁに? チサちゃん」振り返った紅玲は、不機嫌そうだ。「出すから、カード出すから帰らないで!」千聖はケースからICカードを出すと、紅玲に差し出した。「じゃあ、チャージしてくるね」紅玲は上機嫌にICカードを受け取ると、切符売り場へ向かった。「もう、なんなのよ……。読めないヤツね……」千聖は人混みに紛れていく紅玲の背中を見ながら、盛大なため息をついた。5分後、紅玲はICカードを持って戻ってきた。「はい、お待たせ」「……ありがとう。いくら入れたの?」千聖が財布を出しながら言うと、紅玲はまた不機嫌な顔をする。「俺の前では財布出さないでよ……。チサちゃんにお金出させる気ないから」紅玲はそれだけ言うと、改札へ足を向ける。「本当に訳が分からない……」千聖は頭を抱えながら、紅玲に続いて改札を抜けた。その際に表示される残高を見れば、2万円近くの金額が表示された。(金銭感覚狂ってるのかしら?)
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済3

金額が金額なだけに申し訳ないと思った千聖だが、返そうとしたところで無駄なのはもう分かっているため、諦めた。千聖の案内で電車を乗り換え、2時間かけてふたりは千聖の故郷まで来た。駅から出ると、紅玲は興味深そうに景色を見回す。「へぇ、ここがチサちゃんの故郷か。のどかなところだね」「なんにもない田舎よ……」千聖は苦虫を噛み潰したような顔をして、辺りを見回した。あるのは畑や田んぼ、そして小さな住宅街だ。(またこんなところに来るなんてね……)千聖はため息をつくと、紅玲を見上げた。「私は今から実家に行くけど、ファミレスで待っててもらっていい? 右に向かって歩いたら十字路があって、それを左に曲がったら、ファミレスがあるはずだから」「オーケー、じゃあそこで待ち合わせってことで」「えぇ、それじゃ」待ち合わせ場所が決まると、千聖は早足で実家へ向かう。「さっさと用事終わらせて、こんなところから帰るんだから……」故郷を嫌う千聖は、一刻も早くこの田舎町から離れたくて仕方がなかった。千聖の実家は、駅から歩いて10分のところにある一戸建てだ。汗を滲ませながら到着すると、広々とした庭にシルバーの軽自動車が1台だけ停まっている。それは母である光恵の車で、千聖がまだ中学生の頃に中古で購入したものだ。「まだあんなオンボロ乗ってるんだ……」千聖は光恵の車を一瞥すると、玄関を開けた。「ただいま」光恵が声をかけると、階段を降りる音が聞こえた。小太りで白髪混じりの中年女性が、額に汗を滲ませながら出てきた。彼女が母の光恵である。「おかえり、千聖。待ってたのよ」光恵は笑顔で出迎えてくれるが、千聖は冷めた目で彼女を見る。「もう、お正月やお盆になっても帰ってこないんだから。たまには顔見せなさいよね」「他に言うことあるんじゃない?」千聖が苛立ちを隠さずに言うと、光恵は不機嫌そうな顔をする。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済4

「なにを言えって言うのよ?」(もう、全然変わってないんだから、この毒親は!)千聖は舌打ちをすると、ズカズカと音を立てて家に上がる。「ちょっと千聖!」咎めるように名前を呼ばれ、千聖は振り返って光恵を睨みつけた。「あのさ! まずはバカ兄貴の借金で迷惑かけてることを謝るべきなんじゃないの!? こちとら貴重な休日潰してこんなところまで来てるんだからさ!」「なんでそんなこと言うの? 家族じゃない……」光恵は眉尻を下げる。「家族だったら何してもいいって言いたいわけ!? なんで私があんなバカのために、時間と大金無駄にしなきゃなんないの? あいつのせいで……あんた達のせいでどれだけ私の人生が台無しになったと思っているのよ!!」千聖が感情的になって怒鳴ると、光恵はその場で泣き崩れ、土下座をして何度もごめんなさいを繰り返した。「いいよ、どうせ悪いと思ってないの分かってるから。自分が許して欲しいだけのあなたの謝罪に、なんの価値もない。いいから借金取りの名刺とか、事務所の住所が分かるもの持ってきてよ」「悪いと思ってるわよ……。だから……」「いいから! さっさと持ってくる!」千聖が言葉を遮って怒鳴りつけると、光恵は鼻をすすりながらリビングへ行く。「あーもう……。これだから来たくなかったのよ……」苛立ちが収まらない千聖は、親指の爪を噛んで片足を小刻みにゆすった。「千聖、これなんだけど……」光恵は涙を拭いながら、クリアファイルを持ってきた。受け取って中を確認すると、借用書のコピーと名刺が入っている。「もうこれっきりにしてよね。2度と連絡してこないで」千聖が冷たく言い放って玄関へ向かうと、光恵は再び泣き崩れた。「本当に反吐が出る……!」千聖は待ち合わせ場所であrファミレスに向かいながら、スマホを操作する。母親と実家の固定電話番号をブロックすると、電話帳から削除した。ファミレスに入れば、気だるげな女子高生アルバイトが千聖を出迎える。「お客様何名様ですかぁ?」「待ち合わせなの」「奥にある喫煙席の窓際にいますんで」アルバイトは人差し指でさしながら言う。紅玲が真剣な顔で小さなノートパソコンを操作している。「ありがとう」千聖は早歩きで紅玲の元へ向かう。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済5

「おまたせ」千聖が声をかけながら向かいの席に座ると、紅玲は小さく肩を揺らした。「おかえり、チサちゃん。ちょっと待っててね」紅玲をノートパソコンの電源を落とすと、アタッシェケースにしまった。「名刺と契約書のコピーよ」千聖は紅玲の前にクリアファイルを置く。紅玲は名刺と借用書のコピーを並べる。「うん、しっかりと住所が書かれてるね。にしても、本当に雑だね」「雑?」苦笑いをしながら言う紅玲を、千聖はまじまじと見つめる。「そう、雑。裁判に持ち込めば、これ払わなくて済むと思う」「どういうこと?」「ここ見て」紅玲は借用書のコピーを千聖の前に滑らせると、借用額を指さした。1,000,000という手書きの数字が書かれている。「後ろのこの2つの0と、前の0を見比べてみて。これ、筆跡鑑定したらあとから書き足したって分かるはずだよ」意識して0を見比べてみると、紅玲の言う通り筆跡が違う。正樹が書いた0は、丸っぽい上につなぎ目が跳ね上がったり×になったりしている。後ろ2つの0は縦長で、つなぎ目は下にある。「確かに……! バカ兄貴は上から書き始めてるけど、こっちのは下から書き始めてる……。これを証拠に裁判をすれば……」「おすすめはしないけどね……」紅玲は冷めた目で借用書を見ながら言う。「私をセフレにできないから。……では、なさそうね」「まぁそれもあるけどね。裁判だと時間と労力がかかるからさ。なによりチサちゃんに負担が行きそうだし。これもらってくるのにも、ケンカしてきたんじゃないの?」紅玲に言い当てられ、千聖は目を見開く。「私に盗聴器でも仕掛けてた?」「まさか。ここに来る時、顔が強ばってたからね。相談持ちかけてきた時から、きっとおにーさんとだけじゃなくて、おかーさんとも仲良くないんじゃないかって思ってたし」紅玲はそう言って煙草に火をつけた。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済6

「……ご名答よ。うちは母子家庭で家庭が大変だったの。お母さんはそれを言い訳にしてやりたいことはやらせてくれなかったし、逆にやりたくないことはやらされてた。それに家事の手伝いだって、兄にはなんにも言わないくせに、私には女だからって理由で強要した……。他にも色々あったけど、要約すれば私だけが理不尽な目にあって、あのふたりはわりと自由だったのよ」「いわゆる毒親って奴だね。辛い気持ちはよく分かるよ、オレもそうだったし」「え?」驚いて紅玲の顔を見るが、彼は薄ら笑みを浮かべるばかりだ。「さ、イライラには美味しいものが1番。好きなの頼んで。チサちゃんが食べてる間に借金返してきちゃうから」紅玲はゆったりと立ち上がると、小さなアタッシェケースを見せながら言う。「ありがとう、お気をつけて」「うん、行ってきます」千聖はその場で紅玲を見送ると、メニュー表を開いた。「うーん、特にこれといって食べたいものは……」パラパラとメニュー表をめくるが、なかなか決められない。空腹を覚えていることは確かなのだが、イラついているせいでなかなか決められない。「どうせアイツのおごりだし、景気よくいこう」千聖はベルで店員を呼ぶと、ステーキとドリンクバーを注文した。ドリンクバーからアイスティーをとってくると、席に戻ってひと口飲む。「それにしても、私はなんであんな話をしたんだろう……?」先程紅玲にした身内話を思い返しながら、ストローを回して氷をカラコロと鳴らす。「……アイツも、毒親持ちだって言ってたけど、なんだかはぐらかされたというか、誤魔化されたというか……」そこまで言って、千聖はハッとする。「あんな奴、どうでもいいじゃない……。1ヶ月我慢したらおさらばなんだから」千聖は一気に半分近くのアイスティーを飲み干した。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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返済7

その頃紅玲は、地図アプリを頼りに田舎道をひとりで歩く。「えっと、この先の十字路を右に……。はぁ、事務所まで歩いて15分か……」紅玲はげんなりしながら到着予定時刻をつついた。「ま、チサちゃんのためならこれくらいなんともないけど」そう言って口角を上げると、黙々と事務所を目指した。15分後、紅玲は蔦に包まれた2回建ての事務所についた。「うわーお、外観はわりとオレ好み。だけど、中身は最悪なんだろうなぁ……。あーやだやだ……」事務所を見上げながら独り言を言っていると、事務所からスキンヘッドの男が出てきた。真っ黒なスーツに鋭い目付きのこの男は、紅玲を見つけるなりにじり寄る。「おい兄ちゃん、ここらじゃ見ない顔だな。うちになんか用事か?」「そうそう、大事な用事だよ。ご名答~」睨みつけられているというのに、紅玲は怯むことなく飄々とした口調で言う。「ふざけた態度の野郎だぜ。ま、入んな」スキンヘッドは背を向けると、事務所に入っていく。紅玲は鼻歌を歌いながらついて行った。事務所に入ると、廊下の両サイドにそれぞれ3つのドアが並んでいる。左手前のドアからは、男の怒鳴り声と返済期間の延長を懇願する声が聞こえる。(おー怖い怖い。しっかしまぁ、どこにでも違法金融はあるんだねぇ)「で、にーちゃんはいくら借りに来たんだ?」スキンヘッドは怒鳴り声が聞こえるドアノブに手をかけながら聞いた。「借りに来たんじゃなくて返しにきたんだよねぇ。代理人としてさ」紅玲はスキンヘッドに、千聖から受け取ったクリアファイルを差し出した。スキンヘッドは借用書を確認すると、納得したように声を漏らす。「へぇ、にーちゃんこのクズの知り合いか?」「んーん。マサくんの妹ちゃんの知り合いだよ」スキンヘッドは一瞬驚いたような顔をするが、すぐに卑しい笑みを見せる。「まぁ返して貰えりゃ誰でもいいがね。返しに来たんならこっちだ」スキンヘッドは向かいのドアを開けた。紅玲が入ると、後から彼も入ってきて勢いよく閉める。室内を見れば、たくさんのデスクや書類、ヤクザ達がいる。(つまらない脅しをするね)紅玲は内心嘲笑いながら、客用と思われるソファに座った。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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