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All Chapters of 独占欲に捕らわれて: Chapter 51 - Chapter 60

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契約期間開始19

「それじゃあ、お言葉に甘えて。千聖さんは、これから帰る予定?」「えぇ、そうよ。途中でコンビニにでも寄って、お酒買って帰るつもり」「もし嫌じゃなかったら、一緒に呑まない? もちろん、おごるよ」斗真は茶封筒が入っているポケットを叩きながら言う。「遠慮なくご馳走になるわ」こうしてふたりは、居酒屋に向かった。「てっきり、静かなバーが好きなのかと思った」「あぁいうところはキザったらしいイメージで、あんまり好きじゃないんだ。なにより、冷奴がない」メニューを見ながら真面目な口調で言う斗真に、千聖は笑った。「いいわ、変にカッコつけてないで。私も居酒屋の冷奴は割と好きよ」千聖は笑いを堪えながら店員を呼び止めると、冷奴2つと生ビールを頼んだ。「枝豆と芋焼酎を」斗真の注文に、千聖は肩を震わせる。店員が厨房へ行くと、千聖は声をあげて笑った。「なにがそんなにおかしいんだい?」「だって、おじさんくさい注文なんだもの。似合わないわ、最高」「それはお互い様でしょうよ。千聖さんはさっきから、僕のことを意外だなんだって言ってるけど、僕からしたら千聖さんがそんなに笑う方が意外だよ」斗真は苦笑しながら、ちょうど運ばれてきた芋焼酎をひと口呑んだ。「そう? あぁでも、合コンの時はとっとと帰りたかったし、紅玲がうっとうしかったからね……」「アイツはなぁ……。昔からあんななんだ」紅玲の名前が出ると、斗真は困ったように笑う。「昔から? ってことは、付き合い長いのね」「あぁ、高校と大学が一緒なんだよ。でも、紅玲から女性にあそこまで積極的になるのは、初めて見たな……」斗真は煙草を咥えながら、穏やかな笑みを浮かべた。「いつもあんな女たらしじゃないの?」「むしろ女性が苦手なんだよ。ほら、アイツは顔がいいし金もあるだろ? だから、昔から女に囲まれてたんだ。特に大学生の頃は、彼女が途切れなかったっけなぁ……。でも本人は、常に寂しかった……」斗真は芋焼酎に視線を落とした。「それってワガママじゃない?」千聖は不機嫌を隠さずに言うと、生ビールを半分近く飲んで、枝豆を口に放り込んだ。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始20

「はたから見ればね。でも紅玲が本気で好きになった女は、皆アイツの金目当てだった。逆に紅玲を好きになった女は、頭のおかしい連中だった。それで一時は、退学も考えていたらしい」「へぇ、アイツはアイツで大変だったのね……。で、その頭のおかしい連中って、具体的にどうおかしかったの?」「付き合ってもいないのに、付き合ってると思い込んでストーカーしてたんだ。あれには僕も参ったよ……。家の方向が一緒っていうのもあって、紅玲と一緒に帰ることが多かったんだけど、『私と彼の時間を取らないで!』って、ナイフ片手に脅されたっけな……」「なにそれ、犯罪じゃないの……!」驚きのあまり、千聖は目を見開いた。「僕はまだマシなほうさ……。可哀想なのは小林助教授。若くして助教授まで登り詰めた才女でね、おまけに可愛らしかった。紅玲は彼女の講義が好きでね、講義が終わると毎回のように質問をしたりと熱心だったよ。女史も紅玲を、純粋に生徒として可愛がっていた。ふたりは本当に、健全な助教授と生徒だったんだ……」「頭のおかしい連中は、ふたりが出来てると思い込んだ、と……」千聖の言葉に、斗真はうなずく。「そういうこと。人づてに聞いた話だから、どこまで本当かは分からないけど、女史宛にカミソリが入った呪いの手紙を送ったとか、下駄箱に虫の死骸や使用済みコンドームを入れたとか、ひどいいじめをしていたらしい。少なくとも、彼女達の嫌がらせのせいで、女史が精神病院に入院したのは事実だ」女性達の執念に、千聖は言葉を失う。「紅玲はひどく落ち込んだよ。そんな紅玲に、ミチルっていう同級生が近づいた。彼女は必死に紅玲を慰めて、他の女性達を言い負かせたりした退学に追いやった。当時はすごい味方が紅玲についたと思ったよ。紅玲もそんな彼女に心を開き、ふたりは交際した」「それでめでたし、って訳ではないのよね?」千聖の言葉に、斗真は重々しく頷く。「あぁ、残念なことにね……。卒業したら幸せに結婚するんじゃないかって思えるくらいお似合いだったし、幸せそうだった。でも結局、ミチルも金目当てさ。留学に必要な金を巻き上げたら、紅玲をボロ雑巾のように捨てたんだ……」当時の憤りを思い出したのか、斗真は一気に芋焼酎を飲み干した。「紅玲も苦労してるのね……。でも、どうして私にその話を?」
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始21

「千聖さんはきっと、紅玲を誤解してると思って。そりゃアイツはトリッキーでなに考えてるのか、付き合いが長い僕でも分からないさ。でもね、女性を誑かして遊ぼうなんて腐った考えはしない。それだけは分かって欲しいんだ」斗真は真剣な目で、千聖を見つめる。「そうみたいね。あなたみたいな友達思いがいるくらいだもの」千聖が柔らかく微笑んで言うと、斗真は安堵の表情を浮かべた。「理解してくれてなによりだよ。詳しい事情は知らないけど、嫌々紅玲といるって聞いたから、心配になってね」「ちょっと、それってどこ情報よ?」千聖はジョッキを傾ける手を止めて、斗真をまじまじと見る。「紅玲本人さ。少なくとも1ヶ月は、君といられる口実が出来たって。律儀に嫌々付き合ってくれてるとも言っていたよ」「そう……」千聖はそれだけ答えると、グラスをカラにした。店員を呼び止め、泡盛を注文する。「千聖さんに紅玲の彼女になれなんて言わない。けど、その1ヶ月は、ちゃんと紅玲と向き合ってほしいんだ……」「善処はするわ」「それでいい。……さて、この話は終わりにしようか」斗真は通りかかった店員に声をかけると、今度は日本酒を注文した。それからふたりは、他愛のない話をしながら酒を楽しんだ。歳の近いふたりは職場の愚痴やニュースの話で盛り上がり、お互いに気分がいい状態で解散した。あの後、斗真が一切紅玲の話をしなかったため、千聖は久しぶりに同年代の人と楽しむことが出来た。千聖は帰宅すると、シャワーを浴びてベッドに潜り込む。ふと、斗真から聞いた話を思い出す。「アイツも、大変だったんだな……」同情と似て非なる感情と共に、千聖の中で疑問が生じる。「あれだけ酷い目にあったのに、どうして私に言い寄るんだろ?」斗真の話を聞きながら、千聖は自分が紅玲の立場だったら、きっと立ち直れないと考えていた。せっかく差し伸べられた救いの手すら、彼を裏切ったのだ。女性を見るだけで嫌悪するほどになってもおかしくない。「本当に、変なヤツ……」千聖が呟くと、LINEの通知音が鳴った。確認してみれば、紅玲からだ。“夜遅くにごめんね? 金曜日の夜空いてる?”ちょうどいい機会だと思った千聖は、空いていると返信すると、眠りについた。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始22

翌朝、アラームで起きたついでにLINEを確認すると、紅玲から返信が来ている。“夜中なのに返信ありがと。一緒にごはんでもどう? 食べたいものがあれば、お店探しておくから言ってね。待ち合わせは6時頃で大丈夫?”律儀な上に完璧といっていいほどの気遣いに、千聖はますます彼が分からなくなる。「長い付き合いのある斗真でも、トリッキーで理解できないって言ってたしね……」千聖は“じゃあ6時に駅前で。和食が食べたいかも”と返信すると、出勤の準備をした。出社して淡々と仕事をこなし、10時休憩。後輩とカップ自販機のカフェラテを飲みながら、雑談を楽しむ。「明日は彼が会社まで迎えに来てくれるって言うんですよ。記念日デート行こうって約束したんです」「それはよかったわね。デートもいいけど、仕事もしっかりね」千聖は恋する後輩を微笑ましく思いながらも、しっかりと釘を刺す。「分かってますよ。千聖先輩は彼氏作んないんですか? すっごく美人だし、モテるでしょ?」「んー……自分の恋愛となると興味無いのよね。あなたの話聞いてるだけで充分よ」千聖が手を合わせてご馳走様というと、後輩は顔を赤くしながらはにかんだ。「でも私、先輩には幸せになって欲しいんです。先輩はできる女だから、恋に興味無いかもですけど……。しっかりしてる人だからこそ、甘えられる人を作ってほしいなぁ、なんて。すいません、余計なお世話ですよね」「ううん、そんなことないわ。幸せを願ってくれてありがとう」千聖が礼を言うと、休憩終わり5分前のチャイムが鳴る。「あ、戻らないと」「そうね」後輩とオフィスに戻りながら、先程の会話を脳内で繰り返す。(甘えられる人、ね……)義和の顔を思い浮かべるが、彼は妻子持ちだ。ふと、紅玲の顔が過ぎる。(ないない)千聖は内心鼻で笑いながら否定すると、仕事に打ち込んだ。昼休憩、食堂でハンバーグ定食を食べながらスマホを見ると、紅玲からLINEが来ていた。“来てくれるんだね、ありがと。和食だね、気が変わったら遠慮なく言ってね”(律儀っていうか、低姿勢……。これじゃあ召使いみたいじゃない……。まぁ、あんなことあったら、仕方ないのかな……?)千聖は返信せずにスマホをしまうと、食事を始めた。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始23

約束の金曜日、千聖は会社から出ると待ち合わせ場所である駅前に行く。紅玲は相変わらず赤と黒で統一された服装でいる。彼は珍しく難しい顔をしながら、スマホをみている。「おまたせ」千聖が声をかけると小さく肩を揺らし、いつもの笑顔を彼女に向けた。「お仕事お疲れ様。じゃあ、行こっか」紅玲はポケットにスマホをしまうと、手を差し出した。千聖がその手を握れば、彼は嬉しそうに歩き出す。「珍しく難しい顔してたけど、誰から?」千聖が聞くと、一瞬だけ手に力がこめられる。「タチの悪い迷惑メールだよ」紅玲は困ったように笑うが、明らかに嘘だ。(まぁ私には関係ないけど)「そっか」千聖は嘘と見抜きながらも、気付かないふりをする。「これから行くお店は、天ぷらがすごく美味しいんだ、期待してくれていいよ」「それは楽しみね」和食店は駅から歩いてすぐのところにあった。千聖のように仕事終わりの人達もいれば、家族連れもいる。(よかった。高級料理店じゃないみたい)千聖はホッとしながら、案内された席に座る。パパ達に何度か高級料理店に連れていかれたことがあるが、千聖にはどうも合わなかった。静かで上品な店よりも、こうしてにぎやかな店の方が千聖の好みだ。「はい、どうぞ」紅玲はセルフのお冷を注ぎ、千聖の前に置く。「ありがとう」お冷を受け取ってひと口飲むと、メニュー表を開いた。紅玲の言う通り天ぷらが売りらしく、天丼をはじめとした、天ぷらセットのメニューが多い。千聖が好きな海鮮系のメニューもあるが、せっかくのおすすめだ。「チサちゃんは決まった?」「天ぷらとざるうどんのセットにするわ」「じゃあ注文しちゃうね」紅玲は呼び出しボタンを押した。店員が来るとざるうどんとざるそばを、天ぷらセットで注文する。「ここにはよく来るの?」「んー、月に2、3回くらいはね。料理は苦手だから、外食が多くなっちゃうんだ」よくないんだけどね、と言いながらお冷を飲んだ。「早死にしそうね」「あっはは、手厳しいね」
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始24

「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」「いいよ、なんでも聞いて」「どうして私が運命の人だって言いきれるの?」紅玲は一瞬目を丸くするも、いつものヘラヘラした笑顔に戻った。「前にも話したと思うけど……」「そうじゃなくてさ」千聖が言葉を遮ると、紅玲は不安げな顔をする。「私があなたの立場なら、女性不信になってた。視界に入れるのすら、嫌になると思う」「何を言っているの?」紅玲の表情は固い。「斗真から聞いたわ。特に、大学時代が酷かったって……。ねぇ、あんなことあったのに、どうして私を好きになれるの? 運命だって言えるの?」千聖は酷いことを聞いている自覚があっても、追求をやめられなかった。それが紅玲のことが嫌いだからではない。それ以外に理由があるのはハッキリ分かっているが、それがどんなものか、千聖自身よく分かっていない。「トーマってば、おしゃべりだなぁ……」紅玲は伏し目がちに、困ったような顔をする。「そうだねぇ……。一目惚れしちゃったから。それじゃあダメ?」紅玲はこてん、と首を傾げながら言う。「どうも納得出来ないわ」「んー……そう言われてもね。好きになるのに理由なんてないから、難しいなぁ……」紅玲が唸っていると、料理が運ばれてきた。おぼんの上には天ぷらとうどん、ほうれん草のおひたしが並んでいる。「冷めないうちに食べようね」紅玲は割り箸を割ると、天ぷらに塩を振って食べ始めた。(逃げられた。まぁ、いっか……)千聖も割り箸を割ると、皿の隅に醤油をたらした。さつまいもの天ぷらに少量の醤油を付けて食べると、衣が軽やかにサクッとしていて食べやすい。さつまいももホクホクしている。「油っぽくないから、食べやすいわね」「でしょ? オレ油物食べると胃もたれしやすいんだけど、ここのは平気なんだよね」紅玲は美味しそうに天ぷらをかじる。(しっかしまぁ、これからホテルに行くのに天ぷらにそばって、なんか笑える)千聖は小さく笑うと、うどんをすすった。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始25

「そうだ、チサちゃんに聞きたいことあったんだよね」紅玲はメモ帳を広げながら言う。「なにかしら?」「チサちゃんってOLさんでしょ? 大雑把でいいから、1日の流れとか教えて貰っていい?」質問を投げかける紅玲の目は、真剣そのものだ。「いいけど、そんなの知ってどうするのよ?」「合コンの時にも言ったけど、オレはシナリオライターもやってるからね。今度OLさんが主人公の話書くことになったんだよねぇ」「あぁ、そういうことね。8時半に出勤して、10時まで仕事。15分の休憩してから、12時まで仕事。30分のお昼休憩があって、それから3時まで仕事。また15分の休憩して、5時まで仕事よ」千聖が大まかなスケジュールを話すと、紅玲は黙々とメモをする。「なるほどね……。休み時間って、どう過ごしてるの?」「15分休憩は大抵後輩とおしゃべりかしら。カップ自販機があってね、そこでカフェラテとか買って恋バナを聞いてるわ」紅玲は筆を止めると、顔を上げた。「恋バナ? チサちゃんが?」鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする紅玲に千聖は吹き出し、天ぷらをひと口かじって頷く。「そうよ。といっても、後輩のを聞いてるだけなんだけどね」「そっか、安心したよ」紅玲は小さく笑うと、メモ帳に目線を戻す。「それってどういう意味?」「だって、チサちゃんと恋バナって結びつかないよ。死ぬほど人を愛したことがある?」千聖が不満げに言うと、紅玲は澄んだ目で彼女を見つめる。(なんて顔してんのよ……)「あるわけないでしょ」「知ってる」当然と言わんばかりに言われ、千聖は少しむっとする。「そういうあなたは、死ぬほど人を愛したことがあるの?」「愚問だね。俺はチサちゃんを死ぬほど愛しているよ」即答されて千聖は言葉を詰まらせ、うどんをすする。「ねぇ、そばが伸びちゃう」「ん? あぁ、そうだね。取材はデザートの後にしよう」紅玲はようやくそばを食べ始めた。「是非ともそうしてちょうだい」つっけんどんに言いながらも、千聖は会社の日常を思い出しながら食事をした。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始26

そばを食べ終えた紅玲は、再びメニュー表を開く。「んー……この前は白玉食べたから……。和栗あんみつにしよっかな。チサちゃんは?」「そんなに入りそうにないから、黒蜜きなこのバニラアイスにするわ」「オーケー、黒蜜きなこのバニラね」紅玲は呼び出しボタンを押すと、店員にデザートの注文をした。「さてと、取材の続きはデザートが来てからでいいかな?」「えぇ、いいわよ。ところでOLを主人公にしたものをって言ってたけど、具体的にはどんなのを書く予定なの?」「もしかして、オレの仕事に興味持ってくれてる?」千聖に質問されると、紅玲は目を輝かせる。「想像つかない仕事だもの」「そっかぁ。今回のは御局様的存在のOLが、イマドキの若い新入社員に恋をする話だよ」「へぇ、なんだかくっつきそうにないふたりね」「うん、正直オレもそう思う」率直な感想に同意する紅玲を、千聖は不思議そうに見る。「書く人がそんなこと言っていいの?」「事実だからね。まずは自分の感情に素直にならないと。それから不可能を可能にしていくルートを探す。依頼された物語を作るって、そんな感じかな」紅玲は穏やかに語る。「好きなのね、シナリオライターの仕事が」「うん、まぁね。正直、こっちの収入は月に数万円程度なんだ。でも、本気で打ち込める仕事は、これくらいだから」(ホント、楽しそうに話しちゃって……)やりがいのあるものを持っている紅玲が、少しだけ羨ましくなる。「おまたせしました、黒蜜きなこアイスと和栗あんみつです」店員はそれぞれの前にデザートとふたつの湯のみを置くと、にこやかに去っていく。「これは?」千聖は湯のみをのぞき込む。中には茶色の飲み物が入っている。「ほうじ茶だよ。ここはデザートを頼むと、あったかいほうじ茶をくれるんだよ」紅玲は説明すると、和栗をひとつすくった。「チサちゃん、栗は好き?」「えぇ、好きよ」「ひとつあげる」紅玲は千聖が返事をする前に、和栗をバニラアイスに添えた。「ありがとう」「どういたしまして」
last updateLast Updated : 2025-12-16
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契約期間開始27

紅玲は和栗あんみつをひと口食べると、ペンを手に取った。「取材の続きいい?」「えぇ、いいわ」「チサちゃんの職場には、御局様っている?」「えぇ、いるわよ……」千聖はげんなりした顔をする。「その様子だと、よっぽど嫌いみたいだね。どんな人?」「まず、挨拶の仕方にうるさいわね。『おはようございまーす』って伸ばしたりすると『私はあなたの友達じゃありません!』なんて怒鳴っちゃってね……」「うわぁ……すごい人だね……他には?」「あとは……」それから千聖は、御局様に関する質問に答え続けた。後半は質問に答えると言うより、紅玲が千聖の愚痴を聞くという状態になっていた。「なるほどね……。ありがと、参考になったよ。そろそろ行こっか」紅玲は満足げにメモ帳を閉じた。「えぇ、そうね。なんだか愚痴っぽくなっちゃってごめんなさいね」「気にしない気にしない。少しでもスッキリしたのならなによりだよ。おかげでだいぶ案がまとまったしね」紅玲は千聖の頭を撫でると、レジへ行って会計を済ませた。店から出ると、紅玲は千聖に向き直る。「今日は貴重な話をありがとね。気をつけて帰ってね」「え? ホテルには行かないの?」千聖が驚いて言うと、紅玲は一瞬固まってから笑った。「あっはは、前にも言ったけど、セフレっていうのは会う度にセックスするものじゃないよ。それにこれをまとめなきゃいけないからね」紅玲はメモ帳を目線の高さまで持ってくる。「そっか、頑張って」「ありがと。ねぇ、明日会える?」千聖は脳内スケジュール表をパラパラとめくるが、特に用事はない。「えぇ、予定はないから会えるわ」「それじゃあ、明日会ってくれる?」「わかったわ。何時頃?」待ち合わせ時間を聞こうとすると、紅玲は困ったような顔をする。「こっちから誘っておいて申し訳ないんだけど、今のところなんとも言えないから、深夜に連絡したいんだけど、ダメかな?」紅玲は眉尻を下げながら、気弱に言う。「それで構わないわ」「よかった……。それじゃあ、おやすみ」紅玲は千聖の頬にキスを落とすと、ネオン街へ消えていく。「とんでもない奴ね……」千聖はキスをされた頬に触れながら悪態をつくと、帰宅した。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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苦悩

ベッドに潜り込むも、千聖は寝付けないでいた。斗真の話や、これまで過ごしてきた紅玲との時間を思い返す。(第一印象は最悪だったけど、案外まともな人だったりするのよね……。今日なんかは取材ついでに、私の愚痴も聞いてくれたし……)千聖はため息をつくと、ベッドから出てホットミルクを作る。蜂蜜をひと垂らしして、仄かな甘みを加える。ホットミルクをひと口飲むと、再び思考を巡らせる。「どうして、私なんだろう?」それはアイスクリーム屋で再会した時から、ずっと疑問に思っていたことだ。合コンでは何を聞かれても素っ気なく返した上に、当てつけのような帰り方をしたというのに、アイスクリーム屋でわざわざ声をかけてきた。声をかけてくるだけならまだしも、千聖が自分を利用していると分かった上で相談に乗ってくれた。借金返済に関しても疑問がある。千聖は利子も含めて返済出来る貯金があると言った。普通だったら「あるならそれで返せばいい」と、一蹴されてもおかしくない。紅玲は契約をするために肩代わりしたが、いくら一目惚れしているとはいえ、冷たくあしらった人間にそこまでするのもおかしな話だ。そして斗真から聞いた話。好きな女性達に利用され続け、尊敬していた助教授は、頭のおかしい女性達に精神病院へ追いやられた。ひどく落ち込んでいる最中に優しくしてくれた女性も、金を巻き上げて紅玲を捨てた。「私だったらもう女性に近づかないか、利用して捨てて、嘲笑うものだけど……」千聖は斗真から話を聞いたあと、もし自分が紅玲だったらどうするかと、何度も考えていた。だが考えれば考えるほど、紅玲の行動は理解できない。「私、このままでいいのかな……?」斗真の話を聞いて以来、千聖は紅玲に借金を肩代わりさせたことに罪悪感を覚えていた。いくら躯で対価を払っているとはいえ、心苦しいものがある。1回のセックスで5万円としよう。紅玲はまだ、千聖を1回しか抱いていない。明日の約束をカウントしても2回、つまり、10万円分だ。この調子だと1ヶ月で40万円分しか抱かないことになる。
last updateLast Updated : 2025-12-16
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