「チサちゃん。あれ、なんか元気ないね?」紅玲は心配そうに、千聖の顔を覗き込む。「……さっきは嫌だったんじゃない? その、ヨシさんと遭遇しちゃったの……」「なんだ、そんなこと」紅玲はクスクス笑う。「そんなことって……」「あの人と会ったのは偶然で、チサちゃんに落ち度があるわけじゃないでしょ。少し嫉妬はしたけどね。チサちゃんが信頼してた人なんだって」「え?」思ってもみなかった嫉妬に、千聖はまじまじと紅玲を見つめる。「あの人がオレのこと知ってたってことは、チサちゃんが信頼してたからだと思ってるんだよね。違う?」「そうだけど……どうしてそう思うの?」「だってチサちゃん、気心知れた人にしか愚痴らないでしょ?」「本当に、私のことよく分かってるわね。今言われて気づいたわ」自分でも知らなかった自分を見つけてもらい、千聖は嬉しくなって笑った。「チサちゃんだけを見てるからね、これくらい当然だよ。さっきも言ったように嫉妬はしたけど、これから先チサちゃんはずっとオレのなんだから、変な気起こしたりしないし、なによりチサちゃんのことを信じてるから、思い悩むことなんてないんだよ」「紅玲……。ありがとう」千聖は紅玲の肩に寄りかかる。「どういたしまして。そうそう、ドレスもタキシードも、買い取ることになったよ。ドレスはオレが間違えて踏んで破れて、タキシードには蝋燭を持ったチサちゃんが手を滑らせて、蝋がベッタリついた上に焦げたことにした」「それは悲惨な結婚式だったわね」もしそうなっていたらと考えて、おかしくなってふたりで笑う。風呂が沸いた音がする。「一緒に入りましょうか」「うん、そうしよっか」ふたりはそれぞれ着替えを取りに行くと、一緒に入浴した。その後互いの髪を乾かすと、リビングで麦茶を飲みながらまったりする。「紅玲が旅行から帰ってきてから婚約するまで、あっという間だったわね」「ドタバタしてたから、余計そう感じるのかも」「確かに忙しなかったわね」千聖は麦茶をひと口飲むと、紅玲に寄りかかる。
Last Updated : 2025-12-17 Read more