Home / 恋愛 / 独占欲に捕らわれて2 / Chapter 91 - Chapter 100

All Chapters of 独占欲に捕らわれて2: Chapter 91 - Chapter 100

103 Chapters

策士愛に溺れる28

「チサちゃん。あれ、なんか元気ないね?」紅玲は心配そうに、千聖の顔を覗き込む。「……さっきは嫌だったんじゃない? その、ヨシさんと遭遇しちゃったの……」「なんだ、そんなこと」紅玲はクスクス笑う。「そんなことって……」「あの人と会ったのは偶然で、チサちゃんに落ち度があるわけじゃないでしょ。少し嫉妬はしたけどね。チサちゃんが信頼してた人なんだって」「え?」思ってもみなかった嫉妬に、千聖はまじまじと紅玲を見つめる。「あの人がオレのこと知ってたってことは、チサちゃんが信頼してたからだと思ってるんだよね。違う?」「そうだけど……どうしてそう思うの?」「だってチサちゃん、気心知れた人にしか愚痴らないでしょ?」「本当に、私のことよく分かってるわね。今言われて気づいたわ」自分でも知らなかった自分を見つけてもらい、千聖は嬉しくなって笑った。「チサちゃんだけを見てるからね、これくらい当然だよ。さっきも言ったように嫉妬はしたけど、これから先チサちゃんはずっとオレのなんだから、変な気起こしたりしないし、なによりチサちゃんのことを信じてるから、思い悩むことなんてないんだよ」「紅玲……。ありがとう」千聖は紅玲の肩に寄りかかる。「どういたしまして。そうそう、ドレスもタキシードも、買い取ることになったよ。ドレスはオレが間違えて踏んで破れて、タキシードには蝋燭を持ったチサちゃんが手を滑らせて、蝋がベッタリついた上に焦げたことにした」「それは悲惨な結婚式だったわね」もしそうなっていたらと考えて、おかしくなってふたりで笑う。風呂が沸いた音がする。「一緒に入りましょうか」「うん、そうしよっか」ふたりはそれぞれ着替えを取りに行くと、一緒に入浴した。その後互いの髪を乾かすと、リビングで麦茶を飲みながらまったりする。「紅玲が旅行から帰ってきてから婚約するまで、あっという間だったわね」「ドタバタしてたから、余計そう感じるのかも」「確かに忙しなかったわね」千聖は麦茶をひと口飲むと、紅玲に寄りかかる。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる29

(あのこと、どう聞いたらいいのかしら?)千聖は籍を入れる前にどうしても紅玲に聞いておきたいことがあるのだが、なかなか切り出せないでいる。「あぁ、そうだ。オレの書斎だけど、自由に出入りしていいよ」「嬉しいけど、どうして?」「1度入られたからね。それにチサちゃんの顔見れないの、やっぱり寂しいし」紅玲は千聖を抱きしめながら言う。「あら、私の写真あんなに貼ってあっても寂しいの?」「写真のチサちゃんは喋ってくれないからね」嫌味ったらしく言う千聖に、紅玲は冗談めかして言葉を返す。「書斎で思い出したけど、机の上にアダルトグッズのカタログがあったじゃない? 一通り見させてもらったんだけど、拘束具のページは結構読んでるし商品も購入してるけど、ローターとかその類のページはほとんど見てないわよね? そういうのも使われたことないし……」紅玲は思い出したように、あぁと声を漏らす。「チサちゃんを気持ちよくするのは、オレだけでいいからね。拘束具は独占欲の表れ兼雰囲気作りだよ。まぁ仕事でそういうの書く機会があったり、チサちゃんが望んだりした場合は考えとくけど」「少なくとも、私から望むことはないわ」千聖は苦笑しながら答える。「じゃあそういう仕事が来た時かな」「そういうことになるわね」千聖は短く返すと、紅玲の胸に顔を埋める。(今日聞こうって決めたのに、どう切り出していいのか分からない……)無理な話だと分かっていながらも、千聖は紅玲の手を握り、伝われと念じる。「今日は随分甘えてくるね。どうかした?」紅玲は猫なで声で聞きながら、千聖の髪を撫でる。(話すなら、今よね……?)千聖は小さく息を吐くと、紅玲をまっすぐ見上げた。「紅玲はその……、私との子供は欲しくないの……?」「どうしてそう思うの?」紅玲は不思議そうに首を傾げる。「だって紅玲が帰ってきてすぐにセックスした時、余裕がなくて中出ししちゃったけど、すぐ掻き出したでしょ? 赤ちゃんできると大変だからって」「あの時はまだ、婚約してなかったからねぇ。もちろん結婚するつもりではいたけど、デキ婚みたいになるのは嫌だったんだ。不安にさせちゃってごめんね」紅玲は申し訳なさそうに言うと、千聖の頬にキスを落とす。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる30

「それならよかった……」安心しきった千聖は、紅玲にもたれかかる。「でも意外だなぁ、チサちゃんが子供を欲しがるなんて」「欲しいかどうかは、私自身まだ分からないの。でも、あの時の言葉がなんだか気になっちゃってて……」「なにも不安がることはないよ。オレはチサちゃんがいるだけで満足だけど、チサちゃんが子供欲しいっていうなら反対はしないし、子育てだってしっかりやっていこうと思ってるから。オレ達の子なら、どっちに産まれてもきっと可愛いんだろうなぁ」紅玲は未来に思いを馳せるように、目を細める。「ふふっ、そうね。そう考えると、子供を作るのも悪くないわね。……まだ慎重に考えていくつもりだけど」「時間はたくさんあるんだから、ゆっくり考えればいいよ。さて、そろそろ寝ようか。明日は結婚記念日になるんだから」「そんなこと言われたら、緊張して眠れなくなりそうね」「もし寝付けなかったら、その時はたくさん抱いてあげるよ」冗談を言い合いながら、ふたりは寝室へ行った。翌日、朝食を終えると紅玲は婚姻届とボールペンを食卓の上に並べた。ほとんど記入済みで、あとは千聖の名前と判子のみだ。「いつの間に用意したのよ……。証人に優奈と斗真の名前まで書いてあるし……」千聖は婚姻届を手に取って、まじまじと見る。「1週間くらい前からだよ。証人には、昨日チサちゃんがドレス着るのに手間取ってる時に書いてもらったんだ」「通りで優奈が着替えを手伝ってくれなかったわけね」千聖は苦笑しながら、ボールペンを手に取り、名前を書く。「判子持ってくるわ」「うん、いってらっしゃい」千聖は自室に戻ると、引き出しから水色のポーチを引っ張り出した。印鑑や通帳などは、すべてこの中にしまってある。「もうすぐ綾瀬じゃなくて、鈴宮になるのね……」印鑑を見つめながらしみじみ言うと、紅玲の元へ戻った。「おまたせ」食卓に戻ると、朱肉が用意されている。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる31

「あら、気が利くのね。ありがとう」「どういたしまして」千聖は少し緊張しながら、印鑑を押した。「キレイに押せたね。じゃあさっそく、市役所に行こうか。身分証忘れないでね」「財布に免許証が入ってるわ」千聖が目の高さまで財布を持ち上げながら言うと、紅玲は意外そうな顔をする。「チサちゃん免許持ってたんだ、意外」「地元は車無しじゃ生活出来なかったから……。こっちは電車でどこでも行けるし、駐車場代かかるから、今は持ってないけどね」千聖はどこか寂しそうに笑う。「それなら旅行から帰ってきたら、一緒に買いに行こうか。庭もそこそこ広いし、車の1台や2台増えたところで、そう狭くはならないでしょ」「いいの?」千聖は目を輝かせて紅玲を見上げる。「当たり前でしょ。なんなら婚姻届出し終わったあと、見て回ってもいいしね」「それは楽しそうね、はやく行きましょう」千聖は嬉しそうに紅玲の腕を引っ張る。紅玲はそんな彼女を微笑ましく思いながら、一緒に家を出た。市役所に行って婚姻届を出すと、ふたりは車屋を見て回る。店員の話を聞きながら見ていると試乗を勧められたが、断ってアイスクリーム屋に入ってしまった。「試乗しなくてよかったの?」紅玲はバニラアイスをひと口食べると、千聖に聞く。「うーん、気になりはしたけど、今日はこうしてデートしたかったから。車はまた後ででいいわ」「あっはは、嬉しいこと言ってくれるね。ひと口あげる」上機嫌になった紅玲は、バニラアイスをすくうと、千聖の口元へ持っていく。千聖はバニラアイスを食べると、チョコキャラメルのアイスを紅玲の口元へ持っていく。「今日はチーズベリーじゃないんだ?」「チョコキャラメルはこの時期限定なのよ。ねぇ、紅玲。今日はどうやって過ごしましょうか? 今日は結婚記念日だもの、あなたと思い出を作りたいわ」「チサちゃんは本当に喜ばせ上手だよねぇ。何しよっか」紅玲は楽しそうにカップの中のアイスをクルクル回す。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる32

「そうね、どうせなら普段私達がしない過ごし方をしない? そもそも、外でのデート自体、ほとんどしないんだし……」「確かに。平日はチサちゃん仕事だし、土日はオレのワガママで一緒に家で過ごすことがほとんどだったね。チサちゃんはどこに行きたい?」そう聞かれると、千聖は顎に手を添えて考え込んでしまう。「そうね……。いざ聞かれるとちょっと悩むわ……。紅玲は行きたいところないの?」「オレが行きたいところって、チサちゃんにとって面白いか分からないよ?」紅玲は珍しく困り顔で言う。「そんなの、行ってみないと分からないじゃない」「まぁね。それじゃあこれ食べ終わったら行こうか。その代わり、チサちゃんが行きたいところも考えておいてよ?」「えぇ、分かったわ」千聖はアイスクリームを食べながら、どこに行こうか考える。今まで千聖が足を運んでいたのは酒屋がほとんどで、娯楽施設の類にはあまり興味がなかった。第一、デートらしいデートも大してしていない。結局行くところを決められないまま、アイスクリーム屋から出ることになってしまった。「ねぇ、どこに行くの?」「ついてからのお楽しみ」紅玲は楽しげに言うと、千聖の腕を引いて歩く。歩くこと15分、紅玲が立ち止まったのは古めかしい喫茶店。どこか厳しい雰囲気に千聖が戸惑っていると、紅玲は店に足を踏み入れる。千聖も少し遅れて入ると、古本と珈琲の香りが鼻腔をくすぐる。あまり広くない店内の壁は、本でぎっしり埋まっている。「いらっしゃいませ。空いているお席へどうぞ」あごひげをはやした初老の男性は、優しい笑顔でふたりに声をかけた。「奥の席でいい?」「えぇ、いいわ」ふたりが奥の席に座ると、初老の店主がお冷とおしぼりをふたりの前に並べる。「いらっしゃいませ。ようこそ、本と珈琲の店へ。当店の本はご自由にお読みください。こちらはご来店してくださったお客様全員にお配りしております、どうぞお使い下さい」店主はしおりと説明書をふたりの前に置くと、恭しく一礼してカウンターの向こう側へ行く。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる33

「なにかしら、これ」千聖は説明書を手に取って読んだ。“しおりには名前を書いて、気に入った本にお使いください。気になった本にしおりが挟んであっても、読んでくれてかまいません。本の相席をお楽しみください”説明書には上記のことが書いてある。「へぇ、面白いお店」紅玲は丁寧に説明書を畳むと、メニュー表を広げた。「注文してから本選ぼうか」「えぇ、そうね」千聖もメニューをのぞき込む。写真付きのメニュー表で千聖の目をひいたのは、“ごろごろいちごのパンケーキ”。分厚いパンケーキに、大きくカットされたいちごがたくさん散りばめられている。かけるものはチョコソース、メイプルシロップ、自家製いちごジャムの3種類から選べるというのも魅力的だ。「いちごのパンケーキにする? なにをかけるかで迷ってるのかな?」紅玲は口元に弧を描きながら、パンケーキの写真を指さした。「よく分かったわね……。それもあるけど、ひとりで食べ切れる気がしないし、さっきアイス食べたからどうしようかと思って」「それならとりわけ皿もらって一緒に食べようよ。そうすれば糖分も過剰摂取することないだろうし」「あら、ありがとう。それならかけるものも決めてもらっていい?」「チョコソース」即答する紅玲に、千聖は口元をおさえて小さく笑う。「なんで笑うの?」「本当に甘いのが好きなんだなって思っただけよ。飲み物はどうする?」「エスプレッソにしようかな」「私が注文しておくから、先に本選んでていいわよ」千聖の言葉に、紅玲は目を輝かせる。「ありがとう、チサちゃん。さっそく行ってくる」紅玲は立ち上がると、近くにある本棚の背表紙を指先でなぞる。いきいきとした顔で本を選ぶ紅玲が可愛く見えて、千聖は頬を緩ませる。「ご注文は決まりましたか?」店主はおだやかな笑みを浮かべ、千聖に聞いた。「はい。アールグレイとエスプレッソを。あといちごのパンケーキを、チョコソースでお願いします」「アールグレイにエスプレッソ、いちごパンケーキをチョコでですね」店主はオーダーを繰り返しながら、伝票を記入する。「すいません、あととりわけ皿をもらえますか?」「はい、かしこまりました。どうぞごゆっくりお楽しみくださいね」伝票になにかを書き足すと、店主は厨房へ消えた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる34

「すごいなぁ、ここ。絶版された本もたくさんある。レスリー・チャータリスなんて、中学で読んで以来だよ」本を抱えながら、紅玲は嬉しそうに戻ってきた。「レスリー……? その、なに?」千聖が小首を傾げると、紅玲は笑った。「レスリー・チャータリス、ね。昔の小説家だよ。短編集にこの人の小説が入ってて好きになったんだけど、この人の小説は図書室にはそれしかなかったし、調べてみたら絶版されてたから……。まさかまた読める日が来るだなんて思わなかったよ」そう言って紅玲は、表紙を愛おしげに指先でなぞる。「そう、それはよかったわね。私もなにか探してくるわ」「うん、いってらっしゃい」千聖は席を立ち、店の出入口付近の棚から見て回る。本に明るくない千聖には、名前だけ知っている文豪の本は手が出しづらく、タイトルだけ知っている本はどうしても躊躇してしまう。(本の話をしている紅玲、とっても楽しそうだったわね。好きな作家さんができたら、もっと紅玲と話せるようになるのかしら?)楽しそうに本の話をする紅玲を思い出しながら、彼と同じように背表紙をなぞっていく。千聖の指は、黒い背表紙の本で止まった。「トカ……?」“徒花”という字の読み方が分からず、小首を傾げながら本を手に取る。表紙は真っ黒な背景に1輪の彼岸花。千聖はその本を持って席に戻る。本を広げると、章のタイトルが並んでいる。1章のタイトルは、この本の作者と同じ名前だ。(私小説ってやつなのかしら? それともナルシスト?)千聖は不思議に思いながらもページをめくる。主人公の男性はあまり愛想の良くない人間嫌い。女性のような容姿と声にコンプレックスを持っている彼は、友人に祭りに誘われても乗り気ではないが、結局菓子につられて行くことになった。1章を読み終えたところで、店主がふたりの席へやってくる。「読書中失礼します。アールグレイと、エスプレッソです。パンケーキはもう少しで焼き上がりますよ」店主はそれぞれの前に飲み物を置くと、一礼して下がった。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる35

「チサちゃんはなに読んでるの?」紅玲はエスプレッソをひと口飲むと、千聖の手元に目をやる。「なんて読むか分からないのよ」千聖はしおりを挟むと、紅玲の前に本を置いた。「これは“あだばな”って読むんじゃないかな」「どういう意味なの?」「むだばなとも読むんだけど、言葉の通りだね。普通植物って、種が残るものでしょ? でも徒花は種を残さず、枯れたらおしまい。表紙になってる彼岸花もそうなんだよ」「悲しい花ね……」本を返してもらうと、千聖は表紙の彼岸花にそっと触れてから、再び本を開いた。男性は祭りで女性を介抱して羽織を貸すも、持病のぜんそくでかかりつけの診療所に運ばれてしまう。1日だけ入院し、退院すると女性が羽織を返しに来る。ふたりは交際して幸せな日々を送るが、女性は自分の素性をまったく明かさない。(どうしてこの子は、自分のことを話さないのかしら?)不思議に思っていると、いちごのパンケーキが運ばれてきた。写真で見るよりもボリューミーなパンケーキは、ご丁寧に2等分されている。「とりわけ皿はこちらです」店主は2枚の皿を置いてくれた。「丁寧な人だね」紅玲はパンケーキをとりわけ皿にうつしながら言う。「えぇ、そうね。とても感じのいい方だわ」「はい、どうぞ」紅玲はいちごを振り分け終えると、千聖の前にパンケーキを置く。「ありがとう」さっそくひと口サイズにカットにて頬張ると、ふんわりしっとりした生地に頬が緩む。卵の風味といちごの酸味は相性バツグンだ。「美味しい……」「素晴らしい読書の友だね」ふたりは時折パンケーキを食べながら、読書を楽しむ。千聖が読み進めている徒花は、不穏な空気になってきた。性格の悪そうな中年女性と議員が現れたことによって、女性が名家のお嬢様だと知る。そして彼女の義母である中年女性は、娘はこの議員と婚約するから別れてほしいと手切れ金を渡す。男性は手切れ金を突っぱねるが、女性と別れると言う。男性は一方的に別れを告げ、女性は自害してしまうのだ。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる36

その後男性は女性の墓参りをしたあと、彼岸花畑で服毒自殺を図るも失敗。彼女の墓を管理する寺で目が覚める。悪友と住職と話して女性の真相を知り、誰とも恋をせずに生きていくことを密かに誓う。そんな話だった。読み終えた千聖は、複雑な気持ちで本を閉じる。「ふぅ……。あ、チサちゃんも読み終わったの?」満足げに本を閉じた紅玲は、にこやかに千聖を見る。「えぇ、読み終わったんだけど後味悪い話だったわ。主人公の男性は恋人がお嬢様だと知った途端一方的に別れて、女性は自殺しちゃうの」「それは悲しい話だね……。その男性は金持ちが嫌いだったとか?」千聖は静かに首を振る。「いいえ、女性の愛が重すぎると思っていたんですって。それに、女性には勝手に決められた婚約者がいたんだけど、その婚約者や義理のお母さんから逃げるにしても、逃げる資金も外国に逃げる度胸もないからって、理由を並べ立ててたわ。ひどい話よ」「愛だけじゃどうにもならないって話?」「それもあるんでしょうね、たぶん。最後に男性が美談にまとめて、その女性以外のことは好きにならず、幸せに暮らしていきたい、みたいな終わり方だったのが気に入らないのよ」千聖の話を聞き終えると、紅玲は腕を組んで唸る。「本を読んでないからなんとも言えないけど、ほかの女性を好きにならないって言うくらいだから、大きな幸せは手に入らないんじゃないかな? それでも小さな幸せは許してくれってことじゃない?」「うーん、たぶんそんな話、なのかしら?」「その本、あとで読んでみるよ」紅玲はテーブルのすみにあるボールペンでしおりになにか書き込むと、徒花にしおりを挟んだ。「じゃあ私は、次ここに来た時はその本を読もうかしら」千聖は“綾瀬”と書くとすぐに塗りつぶし、“鈴宮千聖”と書き直した。「さっそく苗字書いてくれたんだ、嬉しいな」紅玲は本を差し出しながら言う。ふたりは自分が読んでいた本を本棚に戻すと、会計を済ませて店を出た。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more

策士愛に溺れる37

「それで、チサちゃんの行きたいところ決まった?」「決まったには決まったけど、やってるかしら?」千聖は困り顔で紅玲を見上げる。「どこに行きたいの?」「プラネタリウムよ」「ちょっと待ってて」紅玲はスマホを出して調べ物をする。「今から駅に行って、10分歩いたところにあるみたいだよ。次の上映時間は、オレ達がついて10分くらいしてからだから、少し余裕があるね。さっそく行こうか」「そこまで調べられるなんて……」「今の地図アプリは便利だからねぇ」紅玲は千聖の手を握ると、駅に向かって歩き出した。千聖は紅玲の手を握り返し、彼に寄り添いながら歩く。駅に着くと、紅玲は戸惑うことなく改札を通ってホームへ行く。「電車は2、3分で来るはずだよ」「電子版も見てないのに、よく分かるわね」千聖はちらりと電子版を見ながら言う。紅玲の言う通り、あと3分で電車が来ることになっている。「チサちゃんと同棲する前は、色んなところに食べに行ってたからねぇ。大まかに覚えちゃった」「本当に頭がいいのね……」本人も以前地頭がいいと言っていたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。時間になると電車が来て、ふたりは乗車する。利用客は少なく、席がたくさん空いている。ふたりが座ると、電車は動き出した。「1駅で降りるからね」「結構近いのね」てっきりもう少しかかると思っていた千聖は、少し拍子抜けした。電車が駅に停車すると、少し寂れたホームに降り立つ。紅玲は地図アプリを起動させ、駅から出る。「ところで、どうしてプラネタリウムに行きたいって思ったの?」「最後にプラネタリウムを観たのって、小学5年生の時なんだけど、海洋生物の星座神話についてやってたのよ。内容はあまり覚えてなかったけど怖くて、それ以来観に行こうと思わなかったわ。怖かったけど、星がとても綺麗だったことも覚えてたのよ」「あぁ、星座神話のイルカとか全然可愛くなかったからねぇ……。それに残酷な話も結構あるし、そのへんは小学生からしたら怖いかもね」紅玲は納得したように頷いた。
last updateLast Updated : 2025-12-17
Read more
PREV
1
...
67891011
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status