「寝室まで運んでくれたのね、ありがとう」「そんなの当然でしょ? そんなことより、躯どこか痛かったりしない?」紅玲は心配そうに千聖の顔をのぞき込む。(ホント、大事にしてもらってるわよね、私)過保護なまでの心配が嬉しくなり、頬が緩む。「節々が少し痛むけど、大丈夫。それより、お腹すいたわ……」千聖はおなかをさすりながら紅玲を見上げる。昨日は朝食しか食べていない上に、あれだけ激しいセックスをしたせいで、普段なら考えられないほどの空腹感に襲われた。「それなら台所行こっか。オレもおなかすいたし、なんか作ったげる」紅玲は優しく千聖の髪を撫でると、彼女を抱き上げる。千聖は抵抗することなく、紅玲の首に腕を回す。台所に着くと紅玲は千聖を指定席に座らせ、目の前に紙袋を置いた。「お土産の八つ橋と金平糖だよ。出来上がるまで、これで我慢してね」「あら、お土産買ってくる余裕はあったのね」千聖が嫌味ったらしく言うと、紅玲は首を横に振る。「京都についてすぐに買ったんだよ。じゃないと、絶対それどころじゃなくなるの分かってたし。せっかくだから、お茶淹れようか。チサちゃんと飲みたくて、美味しそうな茶葉買ったんだ」紅玲は急須を食器棚の奥から引っ張り出すと、緑茶を淹れて千聖の前に置いて台所に立った。「ありがとう、いただくわ」息を吹きかけて冷ましてからひと口飲むと、緑茶独特の香りが鼻を抜ける。苦味の中にほんのり甘さがあって、落ち着く味だ。八つ橋との相性もよく、手が進む。小気味よい包丁の音を聞きながら、千聖はどこから話をしようかと思考を回す。「ねぇ、紅玲。あなたは青髭になりたかったの?」千聖の問いに、包丁の音が止まる。「チサちゃんは、どう考えてるわけ?」紅玲は質問返しをすると、再び包丁を動かした。「そうね……。私に仕事を辞めて欲しかった紅玲は、どうやって辞めさせようか随分頭を悩ませたんじゃない? 普通に頼んでも、私は辞めないって分かってたから」紅玲の反応を見ようと言葉を切るも、紅玲は無言でいる。
Last Updated : 2025-12-17 Read more